第26話 彩芽に迫る誘惑の手
岳は彩芽のぴったり横に座り、両手を頭の上で組んだ。
小学校六年生の時に彼は高校一年生、そのころからかなり大人びて見えたが、今では大人の男性に見える。あの頃の彼と今の私が同い歳だ。その頃の彼の様子を思い出そうとする。今の私があの頃の彼と会えば、どうということもない同級生の一人だっただろうか。
どうやらそうでもなさそうで存在感はかなりあり、今以上に意識してしまったかもしれない。そんなことを考えていると、岳は面白そうにふっと笑った。
「しばらくぶりにあった僕はどう?」
「どうって……」
今度は体を乗り出して、彩芽の顔に自分の顔を近づける。息がかかりそうなほど近い。
「だいぶ大人になったっていうか……四年ぶりだからやっぱり少し変わったかな」
「でしょ。彩芽ちゃんも小学生の時とはだいぶ変わった」
「でしょうね」
永久に四歳年上であることには変わりはなく、自分より大人なのだ。
そっけなく答えるが、内心はドキドキしている。同級生の男子生徒たちに比べれば、この年齢差はかなり大きい。
「家庭教師ははっきり言ってどうでもよかった」
「はっ……お父さんは私の勉強が心配だからどうしてもって、呼んだらしいけど」
「それは口実だ。僕も彩芽ちゃんがどんなレディーになったか知りたかった」
なんだかくすぐったい。
接近してくると、香水のような香りがする。体を動かすたびに、ほのかに漂ってきては鼻先をくすぐる。コロンをつけているのだろうが、学校ではそういう生徒はいない。制汗剤のにおいは漂っているが。
まずいまずい。
私ともあろうものが、こんな香りごときに惑わされちゃいけない、と彩芽は体を固くするが、緊張すればするほど岳の態度は余裕を増してくる。
「少しおしゃべりをしよう」
「良かった、私だってそんなに勉強しなきゃいけないとは思ってないから」
「そっか。彩芽ちゃんは、今も体を動かすのが大好きなんだね。ほらバドミントンのラケットがあるもの」
「まあ、学校の部活動に入ってるから」
「力がありそうだな、手を見せて」
「あっ……」
とすかさず腕を取り、自分の手の平に乗せた。油断も隙もない。
「だ、だめ」
「いいだろ、昔はよく手をつないで遊んだんだよ。う~ん、細いけど、力は強そうな手だ」
「もうっ」
大きな手で手首から指先までを包みこむように触り、ぎゅっときつく握った。それまでの一連の動作は手慣れたものだった。
この人結構遊び慣れてるのかも。見かけによらず女性を手玉に取るタイプかもしれない。用心しないと危ない。
「そうだ、よくかくれんぼもしたっけな。覚えてるだろ」
「そんなことしたかな?」
と、とぼける。
「ほら、僕が鬼になった時、クロゼットの中のコートの中に隠れてた。そっと開けた時膨らんでたからすぐ気が付いたんだけど、気が付かないふりをして閉めてしばらく待ってたら、中からガサゴソ音がし始めた」
「だって……暗いところに閉じ込められて、見つからなかったら永久に出られないかと思うでしょう。子供だったんだから」
「なんだ……憶えてたじゃないか!」
その時のことを思い出して、つい笑ってしまった。
しまった、話に乗せられた、思ったが遅かった。この人、女性と付き合い慣れてるのね。リラックスさせる方法を心得てる。
「またかくれんぼしてみる? 今度は彩芽ちゃんが鬼になればいい」
「もう子供じゃないからやめとくわ。自分の家だから隠れ場所も知り尽くしてるしね」
「そうか、いい隠れ場所を見つけたんだけどな」
「ええ~~、どこどこ。隠れられる場所なんかあった?」
「それは秘密だよ、敵に手の内を見せるバカはいないよ」
「あ~~、ずるい教えてよ」
「教えて欲しい?」
「教えて~~~」
「ダメ」
「あ~~~ん」
「まったく、昔と変わらないや」
まんまと岳の作戦に乗せられて、妹キャラに戻ってしまったか。涼し気に笑っている。
「僕のお嫁さんにしてって、駄々をこねたの覚えてないんだ?」
「覚えてないって! 私そんなこといったかな~~~」
「言ったよ」
「絶対言ってない!」
「本当だよ」
「嘘よ、噓噓うそだ~~! はああ~~~」
彩芽の顔は恥ずかしさで真っ赤になっていた。
「もう、むきになると可愛いところも……昔とおんなじだ」
「ハアハア……」
「もう、嘘だよ。アハハ」
ひどい、まったく。
乗せられないようにしようと気を張っていたのに……
簡単にぶち破られてしまった。
敵は一枚も二枚も上手だ。
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