第22話 彩芽の兄の秘密

 彩芽の部屋では二人並んでゲームをして盛り上がった。ゲーム機を持っていることは知っていたが、夢中になると叫びだしたり、熱くなって部屋の中を転げまわったり、楽しくてあっという間に時間が過ぎていく。


 彩芽の意外な一面がわかり、良い香りに包まれて夢のような時間だ。


 帰るのが惜しい。できることならずっとここにいたい。だが、無情にも時は過ぎ、夜のとばりが下り、これ以上いるともう泊りたくなってしまいそうなところで、帰ることにした。


 時刻は夜九時、大した時刻ではないがそろそろ兄が帰ってくるかもしれず落ち着かなくなってきたのだ。


「楽しかった~」

「楽しい時間はあっという間に過ぎるんだよな。またいつか来られるといいけど」

「きっと来られるわ……チャンスが来れば」


 すると、気持ちが焦り始めた。いつまた二人きりの時間が持てるかわからないと思うと、このままでいいのだろうかとじりじりする。


 顔がほてってどうしようもない。彩芽に見られたくないくらい、赤くなっているに違いない。体は熱を帯びている。このままではまずい、と水をぐっと飲んで気持ちを落ち着かせた。


 こんな機会は二度と訪れないかもしれないのだ。だが、兄貴がいつ帰ってくるともしれない。はあ、どうしようもない。


「あのね……そろそろ時間かな」

「だよね、帰る!」


 と立ち上がった。


 そして悶々として玄関へ向かう。すると、彩芽の方からこちらへ体を寄せ、ハグしてきた。


「あっ、ここで……」

「じゃ、またね」


 今度はこちらから体を密着させるほど強くハグした。彩芽の熱お帯びた胸と頬の感触が伝わってきて、夢のような気分になる。


 帰らなければ……


 送ってくれるとは言ったのだが、何せもう夜遅くなっている。帰り際に兄に出会わないとも限らない。俺は再びあたりを見回し急ぎ足で家に向かった。


 ……………


その数日後のことだ。彩芽からの急な呼び出しで出かけることになった。


 そこは東京の繁華街 の一角にある、とある一軒の店だった。そこは、子供は入れないような店らしかった。


 彩芽からの指示でダークで大人っぽい服装に身を包んでいた。ブラックのジーンズに白いシャツ上着も黒で決めている。黒の上着を持っていなかったので、安売り店で購入したのだが、意外と様になっていて三歳ぐらいは年上に見えそうだった。


「おお、似合うよ。大人っぽい」

「彩芽こそ、すごいな。そんな服持ってたんだ」


 毎回新しい発見ができる。 


 彩芽は薄紫色のワンピースに、黒のカーディガンを羽織り、かかとの高いエナメルの靴を履いていた。やはり三歳は年上に見える。


「さあ、ここよ」

「こんなところに入るの。大丈夫かな」

「どうする? やめるなら今よ」

「入るよ!」


 ビルの一階にあるその店は外からはどんな店なのか全くわからない。ドアの向こうにどんな世界が広がっているのだろうか。「ルージュ」という店の看板がかけられた店のドアを開け中へ入ると、薄暗い空間の中にむせかえるような甘い香りがした。カウンターの向こうから声が聞こえた。中にいる女性は、女性にしてはやけに体格がいい。男が女装しているようだ。


「あ~ら、いらっしゃい」

「こんにちは」

「まあ、素敵な男性といっしょじゃない、どうぞ」


 彩芽は個々の常連なのだろうか。カウンター席に座る。


「何になさいます」

「コーラ二つ」


 奥のボックス席に彩芽が目を向けている。そこに座っている女性と目が合った時、手を振った。やはり女装した男性のようだった。いたずらを見つかった子供のような表情をしているが、とても美しい顔をしている。


 あの顔どこかで見たことがあるな……どこでだったかな。


 ついこの間。


 そうだ!


 彩芽のお兄さん。はっとした表情を似て彩芽が言う。


「兄貴の秘密、わかったでしょ」

「まあ、そうだったのか」

「このことは私しか知らないの」


 なんと返答していいかわからず、黙ってコーラを飲んだ。


「女装するのが趣味なのよ、イベントとかでも」

「ふ~ん」

「女性とも付き合ってるから、こっちは趣味の範囲内だと思う」

「でも、すごい似合うし綺麗、女性だといわれてもわからないだろうな」

「秘密だよ。家族も知らないんだから」


 彩芽は口元に人差し指を置き、ウィンクした。

  

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