第21話 彩芽の部屋へ潜入

 彩芽の家に再び行くことになった。なんとその日は両親が不在で、通いのお手伝いさんも休みを取っていた。兄もいないということで、大きなお屋敷で二人きりになるということでかなり興奮していた。


「いいのかな、ばれたら大変なことにならないかな」

「大丈夫だって」

「お忍びでデートするVIPみたいな気分」

「大げさなんだから」

「だって……そんなもんだろ」


 両親はそろって北海道の親類の家へ行くということで泊まりがけの旅行だったし、兄は友人と大阪のテーマパークへ遊びに行っていて、帰りはかなり遅くなりそうだということだった。華やかな生活ぶりがうかがえる。お手伝いさんの方は、それならば家事もほとんどないでしょうということで、休暇になったということだ。


「ラッキーだね、僕たちにとっては」

「こんなことめったにないのよ。用心棒が家の周りを見張ってないといいけど」

「おい、おい、そんなことがあるのか」

「お父さんのことだからやりかねないでしょ」

「気を付けないとな」


 俺は家の周囲を見回して、見張りがいないことを確かめてから家に入った。


「さあ、誰もいないようだし入ろうっ」

「よしっ」


 決死の覚悟で彩芽の家の門をくぐった。玄関までアプローチにも左右の植え込みにも人が隠れている気配はない。


「どうぞ」

「前回とだいぶ気分が違う」

「それは、お目付け役がいるといないじゃ全然違うわよ」

「お父さんのことを悪く思ってるわけじゃないけど、やっぱり苦手だな」

「得意な人はいないわ……だけど、あんまり大胆なことをしないでね」

「そんなこと……」


 と釘を刺された。


「じゃ、今日は私の部屋に来て」

「わあ、いいのかな」

「ちょっと散らかってて恥ずかしいけど」

「それは、こっちも同じこと」


 二階へ続く階段は幅が広く二~三人が横に並んでも昇れるぐらいの幅がある。


「本当に大丈夫なんだろうな」

「ここまで来て、いまさら何を言うの。さあ入って」

「お邪魔します……」


 ドアを開けて部屋へ入ると、まばゆいような光に満たされた。カーテンからは柔らかい光がベッドに降り注ぎ、アロマのような良い香りが漂っている。


「いい香り……」


 反対側の机の横にはバドミントンのラケットと通学用のバッグが置かれ、机の上には見慣れた教科書とノートパソコンが乗っている。そこだけが自分と共通の世界だ。部屋の真ん中にはふんわりと分厚いカーペットが敷かれ、その上には丸椅子がちょこんと一つだけ置かれている。


「ここに座る」

「うん」


 座る前にぐるりと部屋を眺めた。窓からは、門から玄関までのアプローチと庭がよく見える。


「ここからだと、家に入ってくる人が見えるね」

「健士君の部屋と一緒」

「そうだ。部屋の位置が偶然同じ」

「隣は兄貴の部屋ってことも一緒。健士君の部屋の隣はお姉さんの部屋だったでしょ」

「そうだね。だけど、家が似ても似つかないな、ここと家じゃ」

「えへへ……気にしないでのんびり寛いで」


 そういわれたが、何か落ち着かない。そこはかとなく漂うフローラルな香りのせいか、ベッドの上に無造作に脱ぎ捨てられたパジャマのせいかもしれない。ふんわりとした生地には薄ピンク色の小花柄の模様のパジャマ。かわいい趣味だ。隅に追いやられた掛布団もと枕カバーも花柄。ベッド周りはすべて花柄で統一してあり、お姫様のよう。


「恥ずかしいわね、そっちばっかり見ないで」

「いやあ、ごめん。花柄が好きなんだね」

「まったく、内緒だからね」


 こんなこと人に言うわけない。秘密ができたようで胸が熱くなる。


 書棚に目を向けると、絵本や小説コミック本などが並んでいた。


「子供のころ読んだ絵本、まだとってあるんだ」

「コミックも結構あるんだね」

「借りて読むのもあるんだけど、お気に入りのは買うこともあるから」


 こんなことも意外な一面だ。うちは狭いから、昔かった本はスペースの関係で捨ててしまっていた。


「くまのプーさん、可愛いよね」

「まあね、一生懸命やればやるほどひょうきんなところが気に入ってる」

「人間社会になじむのは大変なことだよな」

「人間だってなかなかなじめない」

「へえ、意外だな」


 彩芽からこんな言葉を聞くとは思わなかった。



 









 


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