第8話 暗闇の公園で

 食べ終わってからも、話が弾んだ。今まで話をしたことが無かっただけに訊きたいことは山ほどあった。


「バドミントンはずっとやってたの」

「そう、小学校五年生の時にクラブに入ったから、かれこれ五年になる。初めてやるスポーツより優位に立てそうだし、やっていると何も考えずに集中できるから楽しかった」

「僕は中学生になってから卓球を始めたんだけど、元々動作は機敏だったから上達が早くて試合にも出られたんだ。今運動をやめてしまったら体がなまっちゃいそうだから、また卓球部に入った。そんなに深い理由はないね」


 だけど、それで彩芽の目に留まり付き合うようになったんだから、これは自分で考えるより大きなことなのだ。


「門限とか厳しいんだっけ。あんまり遅くなるといけないんだよね」

「部活とか友達と遊んでくるレベルだったら、まったく問題なし。多分九時過ぎなければ、怒らないと思う。七時か八時ごろだったら、友達と寄り道してたのってママに言われるぐらい。前に友達とテーマパーク行って夜十時頃帰ったことがあったけど、その時は父親が心配してた。怒るより、なんだか寂しそうで意外だった」

「優しいんだろうね。僕の方が寄り道してなさそうだな。部活帰りはたまにファストフード店によることはあるけど、基本自宅へ直行だから」

「そう、じゃこういうところに来ることってめったにないんだね。ちょっと嬉しいな」

「まあ、そういうこと」


 ここへ入ること自体、かなりハードルが高かった。


 スマホで時刻を確認すると、もう一時間ほどが経っていた。こんなに時間の経過を早く感じたことはなかった。外はすでに暗闇に包まれている。とっても名残惜しいけど、親父さんを悲しませないうちに帰ろう。


「そろそろ帰る?」

「そうね、もう少しで閉店だし。ちょうどいい時間だね」


 時刻は閉店前十五分ぐらいだった。こういうところって閉店までいると、気まずいんだよな。


外へ出てみると、日はとっくに沈んでいて外套の明かりだけがやけに眩しかった。再び公園の中を歩き駅の方角を目指した。夕刻までいた親子連れやジョギングをする人たちの姿はなく、木立だけが目立っていた。


「昼間と全然違う雰囲気になったね。真っ暗で怖い?」

「う~ん、別に怖くない。今日は最高に楽しかった」

「そう、カフェに寄っただけなのに」

「あれ、楽しくなかったの。私は人生最高の日だったけど」

「そんなふうに言ってくれるなんて、感動」


 僕は彼女の手をしっかりつかんだ。ほっそりして少し冷たい手だったけど、握っているうちに温かくなった。


 公園を出るまで手をつないだままだった。歩道に出ると人気が増えてきたので手を離した。手を離すと彩芽はじっとこちらを見ていた。


「どうしたの?」

「ちょっと名残惜しい、かな」


 今までつないでいた手を上にあげた。


「だって、ねえ」

「人目があるからね」

「今度家に遊びに来て。凄い古い家で縁側があっておばあちゃんもいるけど、くつろげるよ」

「へえ、面白そう。絶対に行くから約束ね」

「うちに帰ったら、まず何する?」


 そうだった、聞くまでもない。


「ワンコがお出迎えしてとびかかってくるんだったよね」

「当たり! 尻尾を振ってぺろぺろ舐めるんだよ。かわいいんだ。サニーが来た日はうれしくて眠れなかった。子犬で、クンクンないてた」

「彩芽の子分を見てみたいな。今度紹介して」

「勿論、一緒に散歩しよう」

「楽しそう」


 思わず腕を彩芽肩を抱きしめた。 


「情熱的なんだね」

「見かけによらず。いつもポーカーフェイスじゃないからね」

「えええ~~~、怖いね」

「大丈夫だよ、ふっ」


 そして腕をさっと降ろした。三日月が笑い顔に見えた。


 デートはいつでもできる、それが健士の気を大きくしていた。


 

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