第2話 賢者は魔王をパシリにする
「だって魔王を倒すのは勇者ホープじゃなきゃいけないもん。」
魔王ディザストは少しホッとした。
便器になったまま死ぬという事を回避出来ただけでなく、勇者となら正々堂々と戦って死ねそうだと安心した。
「……何か理由でもあるのか?」
「旅立つ時に言われたの!『俺が魔王を倒して、平和な世界になったら結婚しよう!』って」
「それが何か?」
「私が結婚するために、このままだと2つとも条件が達成出来ていないの!」
「は?」
「つまりは勇者が魔王を倒すのはマスト!かつその時に平和な世界でなければ、私は結婚して貰えない!」
(お前に常識は無いのか!男がそう言う時は、本当に添い遂げたいかヤり目だけだ!)
「いや……そんな事は無いと……」
「それがあるの!勇者がアンタを倒したら結婚出来る可能性50%、平和になれば結婚出来る可能性が50%と私は考える。二つが合わさりようやく結婚出来る可能性が100%だ!」
急な数学A的な発想に魔王ディザストはついていけない。彼は文系だからだ!
ちなみに彼女も計算を間違えている。
勇者のプロポーズは口約束なので、法的義務が無いことを……
つまり契約書を交わしていない限りは確率が100%になることは無い……
(そんな難しい数学的な事なんて使うなよ?勇者がプロポーズした事以外ついていけない!)
と魔王ディザストは思うのだった。既についていけていない……
「いやぁ……そんなつもりで勇者は言ったんじゃ無いと思うなぁ。勇者なら大丈夫だよ」
「ね?だから私があなたを殺したら結婚できる確率は80%くらい減るの!」
(あまり数字を使うな!理解が出来なくなる)
「80%?我を倒してもほとんど平和になっていないじゃないか?」
「それがアンタの配下の四天王はみんな倒して、魔族も壊滅に追い込んだけど……全く平和にならないと気づいたの!」
「意味が分からん。もう人間の人間による人間の為の世界まであと一歩だろう?」
「魔族の脅威が無くなり、権力を持つ腐ったヤツが人々を支配し始めた。私達は腐った人間の為に戦ったんじゃない!そのせいで彼は私と結婚してくれない!」
「いや……それでも人間にとってそれは平和だから安心しなよ」
「だから私はアンタを倒す前に、腐った人間を殲滅し平和な世界を作らなきゃならない!」
(話聞け!)
「そうか。頑張れ!」
「お前も私に手伝うんだよ!」
「は?具体的には何をしろと?」
「魔王……私の部下になれ!」
「は?」
魔王の頭は情報を詰め込み過ぎてパンクしそうだった。
さっきまで殺し合いしてたのに、便器にさせられた。その後、勇者との結婚や平和について話して、次はなんか部下になれとか話が二転三転していた。
「我が部下になればお前に世界の半分をくれてやろうぞ?それで魔族を再興するが良い!はーっはっはっはっはっは」
それは彼女の方が魔王らしかった。
「我がそんな無茶なことを聞くとでも……?」
(くっ、悔しい……けど魅力的)
と思いながら、若干抵抗したフリをしなければ部下に会わせる顔が無い。
「ちなみに断ればアンタ1人残して魔族は滅ぼす。私にはアンタ1人がいればあとはどうでも良いから」
フリージアの目から光が消える。
「え?」
魔王の背筋がゾクッと急に凍った気がした。今は床なので背中なんて無いが……
急な虐殺宣言に戸惑う。彼女ならやりかねない。
「ちなみにどうして私がこの部屋に無事にたどり着けたと思う?あんたの部下がいきなり襲いかかって来て、全員城の壁に埋めてきたから……今は辛うじて呼吸があるけど、あと数時間で死ぬ」
「は?そんな人道に反したことをして良いのか?」
つい真顔で聞いてしまった。これまで人道に反した行いをさんざんしてきた魔王がだ。
自身より上位の悪の存在を目の当たりにした結果、自分が常識的な存在だと誤認して……
(勇者よ、助けてくれ……我を倒す直前なんだから、早くこいつにプロポーズしろ!我が言うのも何だが、世界の為にこんなヤバイ奴を放置するな!)
早く結婚して、こんなぶっ飛んだ思考の人間を家庭と言う檻に入れろと思う。
「あのねぇ……私は勇者と結婚できれば良いの!ぶっちゃけ人道なんてどうでも良い!」
(それは……明らかに平和を願う人間の台詞じゃないぞ?)
「だから……協力して?」
悪意しかそこにはなかった。断れば自分以外は皆殺し……
魔王は急に重くなった状況で、下手に開くべきではないと思いながらも口を開いた。
「協力したら……本当に魔族の為に世界の半分をくれるのか?我以外の他の魔族を殺さないでくれるのか?」
「あたりまえじゃない!別に勇者以外の他人の命なんてどうでも良い」
圧倒的な無関心だった。目的以外の事に対して興味の欠片すらなかった。
だからこそ魔王は心配になった。自分以外の魔族が生き残っても、他の人間が殲滅に動けばこの女は放置するだろう。
「条件がひとつある」
「何?言ってみ?」
「貴様が結婚するために、我はどのみち勇者に殺されるのだろう?ならば我以外の魔族の命だけは、おまえが生きている間だけで良い!保証してくれないか?」
「アンタ……バカ?」
「え?」
「平和って言ったら、アンタら魔族にとっても平和じゃなきゃダメじゃない!全て平等こそが平和なの!じゃなきゃ結婚してもらえないから……」
(いやぁ……そこまでいかなくても勇者は結婚してくれると思うんだけどなぁ……)
「私はやるからには100%が良いの。だから絶対的な平和がほしい!それは人間・魔族が50:
50の分かり合えた世界。それこそが私の考える『平和』な世界」
それは魔王や人間のどちらかのみが世界にいる一方的な平和とはかけ離れていた。
自身が思い描く平和の更に先の、人間と魔族が共存する世界の様なイメージがあった。
あろうことか邪智暴虐の彼女には王としての才が自分よりあるのではと希望を描くほどの……
『自由奔放だが圧倒的なカリスマ性を持つ』
彼女になら彼女の手のひらの上で転がされても良いと思えるほどの人間だった。
「貴様のような人間ならば、我も協力しよう。まずは何をすれば良い?」
「魔族の優秀な部下がいる。人間が再び魔族に対して脅威を抱き、不用意に攻め込めなくするほどの!」
「……最初は人間の為じゃなくて良いのか?魔族の為に良いのか?」
「私が何もしなくても人間側は勇者ホープが守ってくれる。油断すれば彼はあっという間に魔族を滅ぼすでしょう。いや……もしかするとそうやって平和じゃなくして、私と結婚しない口実を作るために、実は魔族を滅ぼそうと……?」
大切な話をしていたかと思いきや、勝手にぶつぶつと呟く。
(明後日の方向に妄想を膨らませすぎでは?)
「だからまぁ、勇者が魔族を滅ぼす前に、それに対抗する力が必要なの」
「まずは滅びかけの魔族を再興するところからか……」
魔王は考える。自身にとってもそれは大変助かる提案だと……
だが彼女にとってメリットと釣り合うのか?とふと疑ってしまう。
「ひとつ言っておく。世界の半分をくれてやるって言ったけど、実際に私が与えるのは力だけ!むしろ世界の半分はアンタらが勝ち取るんだよ!」
(彼女の思い描く平和を見てみたい。だが……きっとその頃には我は……)
「良かろう!我は魔王として貴様に全面的に協力をしよう。だからこそ貴様に魔族の全てを……未来を頼みたい!」
(こいつは頭がぶっとんでいる。それ故に信じても良い気がする。)
「じゃあこれからよろしくね
フリージアはニッコリと微笑んだ。後に急に険しい顔になる。
「あ、そういえばトイレどこ?そろそろ漏れそう。やっぱアンタでして良い?」
「やめてくれぇぇぇぇ!」
魔王は気絶した。
自由奔放で邪治暴虐の賢者となんか相対的に常識的に見える魔王の世の中改革がはじまろうとしていた。
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