第8話

「泣いた赤鬼って知ってる?」


突然、しずかはそう言った。


「知ってるけど」

人間と仲良くしたかった赤鬼のために、青鬼は人間をいじめてそこを赤鬼が助けるという芝居を打つ。その結果赤鬼は人間と仲良くなったが、青鬼は赤鬼と人間が仲良くし続けられるようにどこかへ行ってしまう。そこで赤鬼は大切な友達を失ったことを気づいて泣いてしまう…。確かそんな話だった。


「それがどうしたんだよ」

静はスマホを見せてきた。


「これが中学時代の新庄しんじょうさん」

そこに写っているのは今の新庄から想像できない見た目をしている。

黒髪におさげ、黒縁の大きなメガネに、歯を矯正しているのか器具をつけている。

小さな目にそばかすも印象的だ。


「全然違うでしょ?スクールカーストの下の下って感じ」


この前教室で見た時は、スクールカーストの上位という雰囲気だった。


「新庄とは中学も違って、たまたま塾が一緒だったのよ。彼女の読んでる本が私の好きな本だったから、なんとなく話しかけてそれからよく話すようになった」


その頃の新庄は派手な女の子たちにからかわれたり、酷くはないもののイジメのようなことも受けていたそうだ。


「新庄の中学では今の高校を受ける人がいないからって人生変えるために必死に勉強してるって言ってた。なんだかいじらしいじゃない…だから勉強を教えてあげるようになってね」


塾以外でも会うようになっていった。

新庄はどんどん成績を上げていき、いよいよ高校受験を迎え、受かることができた。

前の中学の人がいない今こそ高校デビューをしようと、静が化粧について少しアドバイスをした。


「結果的に見た目は本当に可愛くなった。でも、中身を変える方は簡単じゃなくてね」


高校に入学する時、静は逆に美しさ抑えるためにコンタクトをやめてメガネをかけ、綺麗な黒髪をバッサリ切っておかっぱにした。目が隠れるように前髪も伸ばした。

中学の時に知らない人に告白されたり、家までつけられたり散々な思いをしたので、高校では絶対に目立たないようにすると決めていた。

そのおかげで静はモブキャラのように過ごすことができた。

それに対して新庄は明るく楽しく過ごすはずだったが、そうは上手くいかなかった。


「見た目が変わっても中身が変わったわけじゃないから、状況はそんなに変わらなくてね。いじめられたりはしなかったみたいだけど、結局一年生の間は地味なままで、終わっちゃったのよ」


そして2年生になって、静と同じクラスになった。

2人は喜び、仲良く過ごしていた。

そんな中で新庄は恋をした。

イケメンで明るくて少しワルっぽくてそこも魅力だった。

彼の周りにはいつも派手な女子が沢山いて、仲良くなれずにいた。


「そんな男やめといた方がいいって私は言ったんだけど、好きになってしまったら止めれるわけもないしね」


どうしたものかと思っていると、新庄に相談をもちかけられた。


その内容は、私達と仲良くしたければ、静と縁を切れと取り巻きの女の1人に言われたというものだった。


派手な女子の中に同じ中学の奴がいた。

男を取られたと騒いでいたような気がする。

しょうもないことを考えるもんだと呆れたが、新庄は泣きそうな顔をして「彼のことは好きだし仲良くなりたいけど、静を裏切るなんて出来ないよ」と下を向いた。


「もうすぐ夏休みだったし、夏休みに入ってから縁をきったことにしたの。まぁ学校に行っても良かったんだけど、私がいるのに無視するなんてあの子には出来ないからね」


夏休み中に静のアドバイス通りに新庄はメガネからコンタクトに変えて、おしゃれな髪型にもした。

誰にも会わない夏休みは、2人で過ごす最後の楽しい時間だった。


そして夏休みが終わり、静は学校に行くのをやめた。

新庄はそこまでやらなくてもいいと言ったが、学校がつまらなく感じてた静にとっても行かなくていいならそれでいいと引きこもった。


「それなら家で引きこもる必要ねえだろ」


「離婚のこともあって母親の愚痴とか色々聞くのもしんどかったし、ネットで調べた引きこもりの通りに過ごしてみたのよ」


「普通友達のためにそこまでするか?」


「そうね、私もあの子も方向性は違ったけれど、高校で生まれ変わろうって同じ目標をもってたから応援したくなったのよ。それに私は美しすぎるせいで本当の仲のいい友達も出来なかったから…あの子以外はね」


「…美しすぎるとか自分で言うなよ」


「事実だもの」

鼻で笑うとピザを一口齧った。


「いつまでもこんな生活続けるのは無理だろ?高校の卒業も出来なくなるしよ」


「本当はあの子が彼と付き合うか、諦めるかしたら元の生活に戻る予定だたんだけどね」


静はごくりとお茶を飲んだ。


「本当に家の外に出れなくなったのよ」


「は?」

「どうしてこんな目にあっちゃったかしらねー」

静は困った困ったと言いながら、またピザを食べた。

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