旅立っちゃう? 現世

「無理です無理です! 私は人間なので!」


「大丈夫、人間の私が食べてもピンピンしてるんだから。さぁ食べて。天国を信じられるようになるよ」


「え、なにこの子。無気力だと思ってたのに、急に早口で話し始めた。生き生きしてるなー」

 さっきサラと名乗った人でないほうが話しかけてきた。


「さぁあなたもいかがでしょう」

「いやいや、道ばたでよくわからない薬売ってる人より怪しいよ。第一、ヘルメットは食べ物じゃない!」


 固定観念に囚われている哀れな人だ。ヘルメットが食べられているのを目の当たりにしているのに。

 信じられない気持ちも、わかるけどね。


「ヘルメットォ パァンチ!!」

「ぐふっっ!!」


 正義の拳骨!

 もといヘルメット!


 殴ると同時にヘルメットを相手の口に入れる高等技術!

 目の前で暴力沙汰を目撃したサラが青ざめている。


 だがしかし。

 ヘルメットパンチを食らった本人は、暴力をものともせず無言でヘルメットを貪った。


「むぐむぐむぐ」

「もっしゃもっしゃ」

「バリパリ」

「え……」

「むぐっ。…………ゲホッ」


 あ、むせた。

 そしてさっきまであったヘルメットが、綺麗さっぱり消えた。


「おかわり」

 面構えがさっきとは段違いだ。どっちがいいとは、ヘルメット推奨委員会の一員(自称)である私が言えることではない。


「もうない」

「喜びで空を飛べるなら、今の私は落胆で地獄へ落ちるだろう」


 ヘルメット中毒者ができた。はっぴーへゔんりーばーすでー!!


「くぁwせdrftgyふじこlp」


 サラが挙動不審だ。きっと私のせい、かわいそうに。


 穏便に説得すれば良かった?

 でも、話すより体験したほうが分かりやすいはずと思ったんだ。


 他意はない。うん、ない。絶対ない。


 いやだって、スキルなんだよ? 普通に説明しても信じてもらえないって。


 この世界には、ときどきスキルといわれる謎の力を持って産まれる人がいる。

 私もその一人だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る