白骨死体と小切手
黄土色の屋根部分が目立つ、簡易軍用天幕の内側。折りたたみ卓子の上に、白骨と出土遺品とは慎重に置かれた。巡回騎士らが財布の中身を広げて調べるのを、カヘル達は脇から見守る。
さすがの高級品とあって、≪るいび
::テフェル村、ルフーナからヤフィルへ。1800-
::メンテナ郷、アレルからヤフィルへ。650-
::ブルイーン村、リュクラからヤフィルへ。5900-
::メムイー村、スウィーンからヤフィルへ。12000-
四枚の小切手は、全て別人の筆跡による署名済みであった。
「発行した金融機関も、口座を所有する振り出し人も、金額も全て異なっていますが……」
「名宛て人は四枚とも、≪ヤフィル≫ですね」
ヤフィル。それがこの白骨の名前なのだろうと、一同は思った。
「日付は三年前の
卓上に並べられた布片をにらみつつ、西域第七分団
「それにしては、金額が大きすぎやしませんか。このスウィーンと言う人のなんて、一万を超えていますよ?」
部下に言われて、チャスタスはさらに首をひねっている。
「本当だ。ちょっとした農地の買える額……あるいは馬でも売りつけたのだろうか?」
「とにかく、この≪ヤフィル≫と記載されている人物は重要参考人です。遺体本人である可能性も高いし、ただちに消息をたずねていきましょう。一帯の行方不明者名簿の中に該当する名がないか、照合を始めて下さい」
チャスタスは部下に向けてきびきびと指示を出していき、カヘルはやや後方に控えて口を出さずにいた。
西域第七分団の警邏部長については今まで留意してこなかったが、淡々と仕事をこなす有能な人物、との印象をカヘルは持った。そのチャスタスがカヘルに話しかけてくる。
「カヘル侯。我々の西域第七分団基地と周辺共同体の兼ね合いをみまして、事件の捜査本部はもうこちらの調査現場に置いてしまおうと思うのですが」
「ええ、それが良いでしょう」
「……あのう。と申しますより、そもそもこの天幕や装備品のいっさいを、第七分団にお借りしていましたので……」
おずおずと話に割入ってきた、中年の文官がいる。
見たことあるけど誰だっけ、とローディアは首をひねり思い出した。デリアド市庁舎の地勢課長、ファイーの上司である。
「我々の目的だった測量調査自体は、すでに終了しております。そうだったね、ファイー君?」
「はい、課長」
女性文官がびしりと低く相槌を打った。
「……と言うことで、市庁舎文官の我々は帰庁してもよろしいでしょうか? 巡回騎士の皆さまの、捜査のお手伝いができるとも思えないのですが……」
消極的きわまりない言い方だが、地勢課長の言うことはもっともである。チャスタスがうなづいて同意を見せた。
「ええ、そうですね。カヘル侯、どう思われますか?」
「帰庁していただいて問題ないと思います。ですが」
ほっと安堵しかけた課長の顔に、冷やっと不安がよぎったらしい。
「今回の事件現場がここ≪
冷々淡々と言ったカヘルの視界の隅に、ぎらッとファイーの双眸が
「では課長。本官が責任を持って、現場の確認に残ります。いかがでしょうか?」
「えっ? 大丈夫なのかい、ファイー君?」
――大丈夫! 問題ない! 大丈夫ったらだいじょうぶなんだぁぁぁッ。
カヘルの直属部下三名は、胸のうちにて三重唱をあげた。
≪
「カヘル侯ご自身は、どうなさいますか」
もちろん捜査本部に、どすんと構えるつもりである。
「了解しました。それでは私は一度、分団長へここまでの報告をして参りますので。……ザイーヴさん、また後で」
チャスタスは一同に軽く礼をし、部下数人を従えて静かに去っていった。そこで発見された白骨死体を
――
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※日本においては『小切手』になじみのない方も多いと思われますので、アイレーのイリー社会における用法を簡単にご紹介します。
個人利用の場合、金融機関(そちらで言う銀行など)に口座を有すると、『小切手帳』を発行してもらえます。機関の印が入った小型ノートのようなもので、ここに金額を記入し本人署名を行えば、このページに現金と同額の価値を持たせることができます。
例えば「200年金月三十一日 マグ・イーレ市にて パンダル・ササタベーナより ゲーツ・ルボへ 五百円」とでも記入しましょう。
これを受け取った名宛て人(受取人)のゲーツ君が任意の金融機関へおもむき、本人確認書類を提示すれば、ゲーツ君はそこで小切手を現金化して500円もらうことができます。この500円は後日、ササタベーナ(振り出し人)の口座から引き落とされることになります。少々手間はかかりますが、小切手なら確実にお金をやり取りすることができますし、出先で手持ちを気にする必要もありません。
我らがイリー社会にクレジットカードはありませんので、少しまとまった額の取引をする場合には、最も安全な方法として多用されています。
(注・ササタベーナ)
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