第11話 清四郎の行李

「それで、昨日の夜おじいちゃんに聞いたら、昔うちの呉服屋があった所、泉布市だったんだよ」


「えっ、そうなの」


「うん、だからやっぱり桜子さんは箱山で行方不明になったんだよ」


「でね、おじいちゃんが清四郎さんの遺品を持ってるみたいなの」


「えっ、本当」


「うん、おじいちゃんのお父さんが子供の頃ってまだ清四郎さんが生きてたらしいの。つまりおじいちゃんのお父さんのおじいちゃんが清四郎さんね」


「ややこしいね」


「清四郎さんはおじいちゃんのお父さんには、優しかったんだって、だからおじいちゃんのお父さんは清四郎さんが好きでその清四郎さんが死ぬ時に遺品を預かってるんだって。で、それをおじいちゃんがそのまま引き継いだみたい」



「なら、それを見れるの」


「うん」


「じゃあ、今日真心の家に行くよ」


「うん、分かった」



 道を歩いていてT字路を見るとビクリとする。また石碑が現れるかもしれないと想像してしまう。それは、昼間でも繁華街でもそうだ。店と店の間の細い路地の奥に木が現れて、石碑が出現する、そしてその後ろには何かがいる事をつい想像してしまう。夜一人で歩いているときは、なおさら恐ろしい。

 だが、今は隣に深雪がいる。彼女がいるだけで心強い。

 私は深雪を連れて家に帰って来た。

 彼女は、外見が派手だが明るくて、はきはきしている。深雪が挨拶をするとお母さんも彼女を気に入ったようだ。

 リビングに入るとソファーにおじいちゃんが座っていた。


「これは、またべっぴんさんが来たな」

 おじいちゃんも、彼女を気に入ったみたいだ。


「ほら、これ」と言うので見ると、ソファーの横に竹編みの両手で一抱えほどの大きさの行李が置いてあった。古びた趣のある箱だった。


「父の遺品と一緒に入っていた清四郎さんの遺品だ」


 おじいちゃんにお礼を言うと、私は行李を抱えて、深雪と二階の私の部屋にあがった。

 階段を上って廊下を右に行くと片側に二つ、もう片側に一つ部屋がある。私の部屋は一番奥になる。他の2つの部屋は使っていない、子供が増えた時を見越して部屋を作ったのだが、結局子供は私ひとりだけである。

 階段を上がって左に行くと正面が洗面所になっていて、そこを右に行くとベランダに出て、左に行くとトイレになっている。


 部屋に入ると、カーペットの上に箱を置いて座った。

 赤茶けた箱の上蓋を両手で挟むと、すべすべした感触がする。そのまま上に引き上げて箱を開けた。

 中には、白い布でくるんである小さな包みと、大きな包みが並んで入っていた。

 小さい包みを手に取って出して、カーペットの上に置いて布をめくっていった。小さな細長い箱が2つと手鏡、飴細工のような半円形のくしと、また布に巻かれた物が姿を現した。

 小さい細長い箱は、赤色と黒色でまだ光沢があった。


「これは、箸箱?」


 蓋と思われるものをいじくっていると、横にスライドして蓋が空いた。中には黒いお箸が入っている。そして赤い箱には赤いお箸が入っていた。赤いお箸の方が少し短いので、夫婦箸めおとばしなんだろう。

 櫛はべっこうの様だ。亀の浮かし彫りがしてある。細工が細かくて、かなり良い物みたいだ。

 手鏡の裏側は赤く、金色で花の絵が描かれている。

 そして、また中から出てきた布の巻物を手に取ってほどくと、思わず声が出た。


「わぁ」


「何、これ」


 中にあったものは、どうやらかんざしみたいだ。三本ある。

 一本は、金色の胴体に頭があげは蝶になっている。蝶の羽が複雑な模様をしていて、金色で縁取られている。縁の中は青くそして、赤い蝶の目。

 もう一本は銀の胴体に、頭が藤の花になっていて、数本の紫色の藤の花と葉が垂れ下がっている。

 そしてもう一本は、黒い胴体の先が円形の透かし彫りになり、真ん中にピンクの石がついている。


「かわいい。このピンクの石、多分ピンクサファイアだよ」

 深雪の目が輝いている。

 どれも良い品物なのが分かる。清四郎さんが桜子さんに贈ったものなんだろうか。きっと深く愛していたんだろう。


 布から出した品々をもう一度布でくるんで、行李の横に置き、大きい方の布に巻かれた物を取り出そうとしたとき、どこからかギシリギシリと音が響いてきた。


 

 

 



 

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