第14話・・・柊閃VS落禅康紘/『閻魔』の二択・・・
「はい。今『
目の前で携帯を操作していた
『
それは『四神苑』のデータを一括管理するAIの名称だ。
『
「今回行う『
「ダサいわ」
康紘が正直に吐き捨てるが閃が「ええ〜」とわざとらしく悲しんで、けろっと息を吐く。
「まあいいや。…さっきも言った通り、ただの二択問題だよ。僕が問題を出して、選択肢A・Bを提示する。落禅くんはどっちか選ぶだけ。
もう『
通信機器が使えない、と聞いて康紘はピンと来た。
(…ふん、今『交渉中』の黛に知られたないってことか)
康紘は「好きにしぃ」と返した。
「大体こんなところかな。何か質問があれば受け付けるよ。……もちろん『問題文』はダメだけど」
楽しそうに言う閃に康紘は「わかっとるわ」と返す。
携帯に届いた『
『「
康紘と柊の携帯から女性っぽい機械声が響いた。これが『
『これより柊閃対落禅康紘の「
……『
何事も初めてとなれば普段通りではいられないものだが、まさか初戦で『翳麒麟』と対決することになるとは思わなかった。
(…しかし、思った以上に緊張感ないな)
康紘は思ったほど焦ってないことも自覚した。
(…さすがにリスクが少な過ぎたか。100万ぐらい握ったらよかったわ)
『では柊様。落禅様へ問題を出して下さい』
厳かに『
「はーい」
柊がのんびりと、でも愉快げな仕草で康紘を見詰めた。
「では質問です」
来る。
身構える康紘に柊が人差し指を立てた。
「落禅くんはとある上級生の土地開発計画を知り、ここら一帯にある『七等住家』を三つ購入しましたが……、」
(……? 何を言うとる…?)
訝しむ康紘を尻目に、柊が笑顔で告げた。
「
「はァアッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!?」
康紘が大口を開けて固まった。
……自分の聞き間違いか…?
………柊は一体なんと言った?
「? 長くて聞き取れなかった? ……じゃあもう少し簡潔に聞こうか」
柊が親切な笑みを浮かべた。
「落禅くんは騙されてるか、騙されてないか? ど〜ちだ?」
………その時、落禅康紘は深く後悔するのと同時に、思い出した。
……『
『
■ ■ ■
落禅康紘がとある上級生の土地開発計画の『金の流れ』を読み取った原因は、たくさんある。
・その上級生の得意分野が不動産関係であること。
・白虎学園の土木関係に強い上級生に不自然な金の流入があること。
・落禅が日野船達に買わせた三つの『七等住家』以外の、この辺の土地や『住家』がその上級生の仲間にひっそりと買われていること。
他にも一見大したことない情報同士が線で結びつき、落禅に取って大きな根拠となって迷うことなくこの三つの『住家』を買った。
(俺の
康紘は心の中で俺は間違っていない、と強く思うが……その自信が揺らいでしまっていることを自覚してしまっていた。
「…一つ、確認させろ」
腹の底からの憤怒が籠ったドスの低い声を上げながら康紘は睨んだ。
「何かな?」
呑気にお茶を啜りながら首を傾げる柊に更に怒りを募らせながら、康紘は口を開いた。
「仮に答えが『嘘』だった場合、お前はその根拠を提示できるんか!?」
ここで土地開発が嘘だと言っても『
出題者である柊が必ず具体的な根拠を提示する必要がある。
(……これで少しでも反応が見れれば…!)
何より康紘はここでの柊の一挙手一投足が答えに繋がっていると考え、目を光らせた。
「もちろん」
柊が頷く。
「そういう場合は君を騙した時の偽データや資料を開示するよ。……例えば土木関係の『団体』の偽帳簿、とか」
「……チッ」
康紘は目尻をぴくぴくを痙攣させた。
確かに康紘は情報屋から得た土木関係の『団体』の帳簿が土地開発計画があると睨んだ要因の一つだった。
白虎学園の『牙の標』に掲載された公的データは誤魔化しようはないが、康紘は何人かの情報屋からも上級生に関するニッチな情報を集めていた。
……もしかしたらその情報屋の中に偽物がいたのか?
柊閃が上級生に手を回したのか? 康紘でさえ上級生とコンタクト取るのに手間がかかったのに、『翳麒麟』と恐れられる柊が入学後数日でできるのか?
それとも脅迫でもしたのか?
……だが康紘も上級生と親しくなったわけではない。ただ幾度か取引をしただけだ。深いところまでは何も知らない。
………今思い返してみると、自分の行動にところどころ甘い部分があったように思う。
いつもならもう少し裏取りするところを省略して『住家』購入などの決断に踏み切っている。
(……俺も白虎学園に来て焦っていたっちゅうんか…?)
嫌なタイミングで反省と後悔が押し寄せる。
今日までの己の行動と決断に100%の自信が持てなくなってしまった。
(あかん…この思考はあかん…! あかんやのに…!)
止まらない。止められない。
…………康紘の頭が堂々巡りの負のスパイラルに陥った眩暈がした時、
「…ねえ、落禅くん」
柊が声をかけてきた。その声は優しいものだった。
「……なんや」
何か吹っ掛けてくる気か?と警戒する康紘に……柊はお茶碗を掲げて微笑んだ。
「お茶、おかわりもらってもいい?」
「
プチン、と康紘が怒号を放ち、ガシッと柊の胸倉を掴んだ。
血走った康紘の瞳と憎たらしいほどに綺麗な柊の
今の康紘は人でも殺しそうだと周りから見えていることだろう。
……実際、目の前の呑気な男を殺したくて殺したくて仕方ない。
すると、落禅と柊の携帯から『ビーッ、ビーッ』と警報音が鳴った。
『落禅様! 至急手を話して下さい! 暴力行為は禁止されております! 至急手を放して下さい!』
携帯から響くAI『
柊は「おっと」とソファーに座り、隣の籠坂が「も〜、あんまりからかっちゃダメよ〜」と康紘が掴んでよれた柊のブレザーの胸元を直す。
「あはは、ごめんね。もう邪魔しないからゆっくり考えてよ」
ぺろっと舌を出して、部屋の隅にいる日野船達に「お茶のおかわりちょうだい」と言う柊を目の当たりにして、康紘は頭を掻き毟った。
(なんやコイツは…! お前も『退学』がかかっとるんやぞ…! なんでそんなヘラヘラしてられんねん!)
お茶を味わいながら、康紘が苦悩する姿を眺める。
異名通り『閻魔』を気取っているつもりなのか。
『五分が経過しました』
そうこうしている内に、『
(…落ち着け。落ち着くんや)
康紘は首を横に振った。柊への怒りは後回しにするのだ。
(状況を整理しろ…ッ)
怒りでどうにかなりそうな頭を康紘は必死にクレバーに回転させた。
この『
……一番最良なのは康紘が『真』と答えて正解した場合だ。
土地開発計画もあり、柊も『退学』」させられる。
……一番最悪なのは『真』と答えて不正解の場合だ。
土地開発も嘘、黛から遠ざけられて『首席』を獲得するチャンスも失われる。
(…くそっ、『七等住家』とはいえ三軒買うのに俺も相当金使ったんや! ……いや、この三軒だけやない…ッ)
実は既に康紘は手頃な『普凡科』の生徒を何人かみつけ、計五軒の『七等〜六等住家』を買っている。
(この五軒の『住家』の価値が上がらなきゃ、かなりの損失やし…ッ、俺の評判はガタ落ちやッ)
今になって思えばいくらなんでも買いすぎた。
必要最低限の資金は残しているが、『翳麒麟』にまんまと騙された
……白虎学園での五年が終わってしまう。
(………だから落ち着け言うとるやろッ!)
康紘は舌を思いっきり噛んだ。
ブチっと肉が切れる感触と共に鉄の味が口の中に広がる。
ゴクリ、と生唾と一緒に血を飲み込み、康紘は思考を回した。
……もし、『嘘』と答えて正解だったら大きな損失が確定。だが柊を『退学』させられる。
……『嘘』と答えて不正解の場合は土地開発は『真』。利益は守られるが、黛との共同戦線だけ解消される。
(『真』と答えれば待っとるのは栄光か破滅。……『嘘』と答えればどちらにしても痛み分け)
勝負に出るか、傷は深くとも最悪な状況にならない選択を取るか。
……正に『
『十分が経過しました。…残り五分です』
制限時間十五分の内、三分の二が経った。
焦る心臓をドンッと自分で叩く。
(考えろ……考えろ……考えるんやッッ! 現実を見ろ…! 理想に縋るなッ! しっかり自分が化かされている可能性と向き合え! 自分が謀られたとしたらどのポイントや!? 脳の神経焼き切れるまで考え尽くせや!)
考えて、考えて、考えて、考えて苦しんで考えて悩ませて考えて考えて貧乏ゆすりして考えて手の平に爪を食い込ませて考えて考えて考えて口の中の血の味を感じて考えて考えて必死に脳をフル回転させて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて………………………………………
「………………………………………………決めたで」
そして落禅康紘は、答えを口にした。
■ ■ ■
(……
柊閃は目の前で限界の限界を超えて思い悩む落禅康紘の姿を見て元気が沸いてきた。
輝かしい未来を掴み取る為、殻をまた一つ突き破らんとする人間のなんと美しいことか。
(…落禅くん。僕にはわかってたよ)
閃は心の中で優しく語りかけた。
(君が普段どれだけ意地悪な振る舞いをしても、根っこにあるのは『ガムシャラに富と名声を掴み取る』姿勢なんだ。……誰になんと思われてもいい。最後に笑うのは俺だ、っていう勝利への貪欲な執着心。
……今、君の全てを感じることができて本当に嬉しいっ。これだから人の『輝き』を見ることはやめられないんだ)
閃はちらっと隣の爛々を見やった。
爛々がすぐに視線に気付き、楽しそうに微笑んで頭を閃の肩に乗せた。
そしてさりげなく閃の手に触れて、爛々は細い指で閃の手の平に文字を書く。
『にやけてるよ、せん』
そう書かれ、閃はこれはいけない、と軽く自分の頬を叩いた。
ここは勝負の場だ。
真剣に悩む人間の前で緊張感ない笑みを浮かべるのも興醒めしてしまうだろう。
閃は全神経を研ぎ澄ませ、時々目の焦点が合わないまま熟考する落禅の姿を眺めながら心から思った。
(本当に、君は最高の
「………………………………………………決めたで」
すると、落禅が覚悟を決めた強固な意思を感じる顔で言う。
「……どうぞ。君の答えを聞かせて」
閃が微笑む。
……もしかしたらこれで本当に『退学』かもな、柊はそんなことを考えながら、耳を澄ました。
落禅は大きく口を開き、大声で答えた。
「答えは『A.
『…………不正解』
残酷に、『
『落禅様、不正解。よって『
(…………ご馳走様)
放心状態の落禅に、閃は心の中で手を合わせた。
『
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