第2話 元カノを寝取った先輩、現る

 街中にある普通のアパート。

 俺はそこの二階のある部屋で一人暮らしをしていた。



「ここが俺の家」

「高校生で一人暮らしとか凄いね」


 階段を上がりながら井伊さんは感心していた。褒められたような気がして、ちょっとだけ嬉しかった。

 でも、意外と大変なんだよね。

 バイトもしているし。


「両親が海外へ移住しちゃってね。俺は日本で一人暮らしってワケ」

「そうなんだ。じゃあ丁度いいね」


 なにが丁度いいのだろう……?


 まあいいや。

 カギをカバンから取り出し、開錠。扉を開けた。



「どうぞ」

「お邪魔します」



 女子を招き入れるのは、これが初めてではないけれど久しぶりだ。

 妙な緊張感が俺を支配する。


 ――いや、井伊さんとはなにもない。なにもないはずだ……?



 無駄に2DKという間取りで広々としていた。これで家賃が四万なのだから破格かもしれない。



「適当に座って」

「わ~、広いね。ダイニングキッチンもあったし、部屋が二つなんて羨ましい」

「たまたまここを見つけてね。コンビニや駅も近くて立地は最高だ」



 本当に運が良かったとしか思えない。

 もともとこの部屋は親戚の爺さんが住んでいた。だが、俺が高校生になった頃に容態が悪化。そして亡くなった。

 それからタイミングよく、ここへ入居できたというワケだ。

 なので、こう言ってはなんだが軽く事故物件である。

 幸いにも親戚の爺さんで顔見知りでもあったので俺は気にならないが。


 だから家賃も安いんだろうな。


「いいね。住みやすそう」

「うん、快適だよ。学校も徒歩でいけるし」


「うんうん。これから住むには十分だね!」


「へ…………」



 井伊さん、今サラリと凄いことをおっしゃったような……?



「なんて?」

「だから、一緒に住むには問題ないねって」


「……本気か?」


「本気だよ。助けてもらったお礼をしなきゃ」



 大したことはしていないんだけどな。

 お礼と言うには、ちょっとバランスが悪すぎる気がするけど。

 でも、無碍むげにもできない自分がいた。



「なんでそこまで? 倒れそうになった井伊さんを助けただけだぞ」

「十分すぎる理由だってば」


 と、井伊さんは断言した。いいのか、その程度の理由で。


「そうかな」

「そうだよ。これから毎日お世話してあげる」


「ま……毎日!?」


「ご飯作るし、お掃除やお洗濯も任せて。家事は全部やってあげる」

「マテマテ」


「マテ茶?」

「どういうボケだ、それは!? じゃなくて、おかしいだろって」



 そうだ、こんなのはおかしい。

 初日で、隣の席で、突発的な居眠りで倒れそうになった井伊さんをちょっと助けただけ。それだけなんだ。



「言うの忘れていたけど、わたしは杏介くんのことが前から好きだったんだ」

「いきなり告白って……。つか、今日まで面識なかったと思うけど?」


「どうかな……ふふふ」



 な、何だその含み笑い。気になるじゃないかっ。




 * * * * * *




 次の日を迎え、夕方。

 井伊さんは大きなカバンを持ち俺のアパートにやってきた。


 マジで俺の部屋に住むらしい。

 しかもなぜかメイド服を着ていた。

 なぜメイド!



「……マジか」

「今日からお世話になります」


 爽やかな笑みを浮かべる井伊さんは、当然のごとく俺の部屋に上がった。……なんだろう、メイド姿に圧倒されて俺は断れなかった。

 これで追い返したら、なんだかいろんな意味で事件になる気がした。



「なあ、井伊さん。なんでメイド?」

「杏介くんのお世話をするからね。形から入らないと」


「凄い気合の入りようだな」



 井伊さん、本気なのだろうか。

 今は見守ってみるしかないかな。


 彼女は俺の部屋の片づけや掃除をしてくれた。しかも、かなり機敏きびんな動きで。


 あっという間に片付いてキレイになった。



「次はお夕食の用意をするね!」

「いいのかい?」

「任せて」



 そう腕をまくる井伊さんは、キッチンへ向かった。本物メイドみたいで凄いなぁ。と、感服していると井伊さんが戻ってきた。



「どうした?」

「杏介くん、料理をするところを生配信していいかな?」

「え、どういうこと?」


「わたしの趣味でね。ヨーチューブに配信してるんだよ~。これで稼いでいるから」



 どうやら、井伊さんは料理配信を毎日しているようだった。それでサラリーマンの月収を超える収入を得ているのだとか……。とんでもねェメイドだった!


 料理配信で稼げるのか。知らなかったぞ。


 チャンネルを教えてもらうと、20万人の登録があった。バケモノかよ! つか、ガチのインフルエンサーじゃないか。何者だよ。



「驚くことばかりだよ……」

「だからね、わたしが養ってあげるからねっ」


「えぇ……」



 いったい、なにがなんだか分からないっ!


 井伊さんは、なぜここまでしてくれるんだ!? なんでこんな優しいんだ?


 助けたから?


 そんな単純な理由で?



 ありえないだろう……普通。




 理解が追い付かない中で生活は始まり、毎日を一緒に過ごす。

 三日、一週間と時間が経てば井伊さんが当たり前にいて、当たり前の生活になっていた。もう違和感なんてまるでなかった。



 だけど、そんな特殊な生活をしていれば当然、学校で噂になった。



 俺と井伊さんが付き合っているだとか、メイドにして調教しているだとか、元カノを寝取られて乱心しているだの、あることないことウワサになっていた。


 最後の方は意味分からん!



 けど、雑魚共の声などどうでもよかった。

 俺は井伊さんと一緒なら、高校生活ラスト一年を切り抜けられる。そう感じたから毎日をがんばれた。



 だが、二週間が経ったある日。



 大林先輩が俺のアパートを訪ねてきた。

 俺の元カノを寝取った……先輩が。



 ……なぜ、今更!

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