【TS転生忍者短編小説】現代武神転生絵巻 ~戦国くノ一異聞~(約23,000字)

藍埜佑(あいのたすく)

序章:現代最強の終焉

 薄暮の闇が、総合格闘技の聖地・両国国技館を包み込んでいた。


「さあ、いよいよメインイベント! 無敗の帝王、神崎竜也選手の十度目の防衛戦です!」


 場内アナウンスが轟く中、スポットライトに照らされた男が、悠然とリングへと歩を進めていた。身長185センチ、体重82キロ。引き締まった筋肉は、まるで彫刻のように美しい均整を保っている。


「どうだ、緊張するか?」


 セコンドを務める師匠の古賀竜胤が、含み笑いを浮かべながら声をかけてきた。


「いいえ、むしろ楽しみです」


 神崎竜也は、淡々とした表情で答える。その瞳の奥には、獰猛な闘志が燃えていた。


「現代武神」と呼ばれる所以は、単なる強さだけではない。幼少期から空手、柔道、合気道と日本古来の武術を学び、それらを現代格闘技に昇華させた稀有な才能。そして、戦いの中で相手の動きを瞬時に読み取り、最適な対応を導き出す卓越した戦術眼。彼の試合は、まさに現代に蘇った武術の極みだった。


 今日の挑戦者は、ロシアの新鋭ミハイル・コズロフ。ボクシングの世界チャンピオンであり、その破壊力は「シベリアの戦車」の異名をとるほどだ。


「神崎選手に勝利すれば、私はすべてのタイトルを統一する。それが、今夜の運命だ」


 コズロフは、氷のような青い瞳で神崎を見据えていた。


 試合開始のゴングが鳴る。二人の格闘家が、慎重に距離を測り合う。コズロフの繰り出す重量級の打撃は、まさに「戦車」の異名にふさわしい破壊力を持っていた。しかし、神崎はそれらをすべて読み切り、的確なカウンターで応酬する。


「なぜだ……なぜ私の拳が届かない!?」


 コズロフの焦りの声が響く。神崎の動きは、まるで水が流れるように自然で、しかし相手の死角を突く一撃は鋭利な刃物のように冴えわたっていた。


 そして試合開始から4分後、神崎は完璧なタイミングでコズロフの懐に潜り込み、古流柔術の投げ技から現代格闘技の関節技への連携を決めた。


「ギ、ギブアップ!」


 コズロフの断末魔のような叫びと共に、試合は終わった。


「やはり、お前は人間離れしているよ」


 勝利後、古賀が感慨深げに語りかける。


「いや、まだまだ。俺はもっと極めたい。もっと高みを目指したい」


 神崎の瞳は、さらなる高みを見据えていた。しかし、運命は彼に思いもよらない「極み」への道を用意していた。


 その夜、海外遠征からの帰途、神崎は車を運転していた。秋の夜風が心地よく、彼は穏やかな気持ちで山道を進んでいく。しかし、その平穏は突如として破られた。


 急カーブを曲がったその先で、一頭の鹿が道路に飛び出してきたのだ。


「くっ!」


 神崎は咄嗟にハンドルを切った。しかし、路面は雨で濡れており、タイヤは空を切る。車はガードレールを突き破り、闇の中へと落下していく。


「そんな……俺はここで、終わるのか……?」


 意識が遠のく中、神崎の脳裏に、これまでの人生が走馬灯のように駆け巡る。幼い頃から武術に没頭した日々、数々の激闘、そして更なる高みを目指す自分の姿。


「まだ……終われない」


 そう思った瞬間、不思議な白い光が彼を包み込んだ。それは、まるで彼の魂を別の場所へと導くかのようだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る