第19話 仕掛け人”達”

「……で? なんでこんな面倒なことをしたんだ?」


 ルシェルを解放した俺は、ため息をつきつつそう聞く。


「今朝、おぬしの家に行った時、そこの女子に聞いたのじゃ。「ストーカーから逃れるためなのはよいが、果たして黒崎維莢という男を手放しに信用できるのか」、とな」


 なるほど。

 ルシェルが家に来た理由はそれだったのか。合点がいったにはいったが。


「なあ、俺ってひょっとして信用ない?」

「なにを言っておる。年頃の娘が、男と2人で一晩を明かしたんじゃ。何も無かった、と考える方が不自然じゃろうが!」

「お前の頭の中はいったいどうなってるんだ」


 まあ、言いたいこともわからなくはないが。

 よく考えてみれば、ストーカーから逃れるために、ただクラスメイトというだけの俺を信用して同居を申し込むのはリスクが大きい。

 俺に襲われてしまえば、それこそ本末転倒だからだ。


「じゃが、なんとも憎たらしいことに、そこの女子――紗菜は、二つ返事で「信用する」と言ったからのう……それで、お主を試そうと思ったのじゃ」

「……え」


 俺は、驚いて紗菜さんの方を見る。

 すると、紗菜さんは顔を赤くして目線を逸らしてしまった。

 マジか。俺を信用してくれるのか……なんて良い子なんだ。どこかのアホドラゴンとは大違いだ。

 それはともかく。


「なるほど。それで、俺がいざというときに紗菜さんを守り抜くのか、確かめたわけか」

「そういうことじゃ! じゃから、我が責められるいわれなどない! むしろ、2人の絆を確かめる舞台装置として、素晴らしい活躍を――!」

「アホか! お前の発案のせいで、家はボロボロ! どう弁償してくれるんだゴラァアアアア!」

「んぎゃぁあああああああああ!」


 ヘッドロックをしかけつつ、俺は涙目でルシェルを責める。


「ていうか、せっかく紗菜さんが心を休められる安住の地なのに、お前等が変なことしたせいで怖がらせたでしょうが! ちゃんと彼女に謝りなさい!」

「ふっ……その点は心配無用じゃ」

「……は?」


 無駄にドヤ顔決めるルシェルに対し、俺は眉をひそめ――


「あの……ごめんなさい!」


 紗菜さんが、頭を下げて何かを取り出した。すなわち――「ドッキリ☆大成功!」の小さなプラカードを。


「え、は? ど、どういう……」

「紗菜には、事前に襲うことを承諾してもらっておいたのじゃよ。しかし、なかなか上手い演技じゃったぞ? 流石は映り馴れしているダンチューバーじゃな」

「ご、ごめんなさい維莢くん。私も、仕掛け人でした」


 ――そんな、とんでもない事実を聞かされた俺は、しばらくの間思考が空白に侵されて――


 つまり、今の今まで茶番から必死に格好付けて守ってた、というわけで――


「うわぁあああああああああああああああああ!」


 精神が崩壊した俺は、両手で顔面を覆って掛けだした。

 ――黒崎維莢、17歳。人生でもっとも恥ずかしい日だった。


――。


 ――その後、心に傷を負った俺は、ルシェルや紗菜さん、他の《ネオ・ピース》の人達に励まされ、とりあえず立ち直る。

 その後は、家を壊した張本人であるワディさんに家の修理を丸投げし、《ネオ・ピース》達との交流会へと洒落込んだ。

 もっとも、これは新たな住人となった紗菜さんの歓迎会に近かったが。


 紗菜さんのコミュニケーション能力の高さもあって、(俺をダシにして謀っていたのもあるし、)わりとすぐ意気投合していたのだった。


――。


「ふぅ……気の良い方達でしたね」

「まあ、根は悪い奴じゃないからな」


 夜。直った小屋に戻ってきた俺達は、そう言って笑い合う。


「それと、すいません。交流会でご飯を食べてしまったので、約束が果たせなくて」

「ああ、夕飯を作るっていうのだろ。別にいいよ」


 ちょっと楽しみにしていただけに、残念なのは内緒だ。

 そう思う俺の前に、紗菜さんは湯気の立つカップを置いた。中には、飴色の液体が入っている。


「これは……」

「オニオンスープです。いろいろ忙しくてこれしか作れませんでしたが、どうぞ」


 そう言って、紗菜さんははにかむ。

 律儀な人だ。気にしなくていいのに。

 俺はそう思いつつも、胸の奥が温かくなる気持ちを覚えながらスープを飲む。

 とたん、甘い香りと深いコクが胃に向かって落ちていく。


「……落ち着く味だ、すごく美味しい」

「よかったです」


 そう言って、紗菜さんは心の底から嬉しそうに笑った。


「明日も学校休むんだったよね?」

「はい。明日は用事があるので」


 紗菜さんは真剣な表情で言う。

 今日は身体を休めるためだったが、明日は違う。


「ダンジョン運営委員会から呼び出されているので、インタビューに答えてきます」

「そう、だったね」


 世間は、彼女の言葉を待っている。

 ダンジョンに現れた脅威と、それを倒したSSランクの冒険者。その詳細を知っている彼女は、有名人ということもあり、情報を欲している者は多いのだ。

 今も、俺や彼女の動画の話題は世間を駆け巡り、例の動画の再生回数は1億回を突破。加えて、紗菜さんのチャンネル登録者数も750万人を突破したくらいだ。


「ごめん……俺の分まで、いろいろ任せちゃって」

「大丈夫ですよ。維莢くんは一般人なんですから……情報を世間に伝えるのは、インフルエンサーである私の仕事です」


 なんでもないふうにそう告げる紗菜さん。

 しかし、忘れるわけにはいかない。彼女がこの最下層で暮らしている理由は――


「そんな顔、しないでください。ダンジョンの階層を通って、一階層の手前にある支部まで行くだけですから」


 紗菜さんは微笑む。

 確かに、ダンジョンの外にでるわけではない。人が多いダンジョン内で、怪しい行動をとる人などいないだろう。

 しかし、どうにも胸騒ぎがしてならない。が、だからといって俺にできることはないのだ。それが、もどかしかった。


「気をつけて」

「はい」


 そう告げるのが精一杯で。

 柔らかい微笑みを浮かべる紗菜さんの顔を、ただ見つめることしかできなかった。

 

 

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