第2話 SS級ダンジョン攻略
SS級ダンジョン、《アビス》。
東京都の地下を縫うように存在している、日本最大級のダンジョンである。
階層は、全部で78あり、当然のように地下に潜るごとに難易度は上がっていく。
第一階層~第20階層までは上層、21~40階層が中層、41~60階層が下層。そして、それ以降が深層となっている。
そんな、日本最大級のダンジョンの25階層にて。
学校が終わった俺は、一人洞窟のような通路を歩いていた。この時間帯、同級生達がパーティを組んで上層攻略に勤しんでいるはずだが、まあ俺は馴れ合いがしたくてダンジョンに来てるわけではない。
「なあ、あいつ見ろよ。ほら、腰のベルト」
「え? うわ、銃がさしてある。てことは」
「ああ、【
「大方、パーティを組んでくれるヤツがいなかったんだろうぜ」
「う~ん、でも、ここ中層だよね? 最弱職が1人でうろつけるような甘い場所じゃないと思うんだけど……」
「じゃあ、パーティからはぐれたんだろ。それか、使えないと判断されて捨てられたかだな。なんにせよ、ご愁傷様だぜ」
通り過ぎた見知らぬパーティが、なんか好き放題言っていた。
正直、陰口には慣れている。
少なくとも、パーティを組みたいなら、学校の連中にSSランクと明かせば待遇はよくなるだろう。俺だって、罵られても何も感じないような人間ではない。
けれど、日本に数人しかいないSSランクと明かしたら、いろいろ利用されたり、面倒くさいことに巻き込まれたりするに決まってる。
加えて、俺は遊びでダンジョン攻略をしているわけではないのだ。多少の理不尽は承知で、今のままでいた方が何倍も楽である。
「とりあえず今日の分、ちゃんと稼がないとな……」
俺は気合いを入れ直し、1人ダンジョンの奥へと向かう。
「あ、しまった! この後、紗菜たんのライブ配信あるじゃん!」
「マジ!? 早く言ってよ!」
「悪い悪い! とりあえず地上まで戻ってから、ゆっくり見ようぜ」
さっき通り過ぎて行ったパーティが、慌てたように駆けだしていく。
紗菜たん……ああ、花井紗菜さんか。
ダンジョン攻略配信動画サイト、略してダン動の、チャンネル登録者500万人を超える超人気配信者が花井さんだ。
あの熱気も頷けるな。
俺は、今日助けてくれた少女の顔を思い浮かべつつ、ダンジョンの奥へと潜っていった。
――。
『『グルゥアアアアアアアアアッ!!』』
モンスターの咆哮が、薄暗い空間に反響する。
真っ直ぐに続く洞窟の向こうに、爛々と光る赤い目が浮かび上がる。それらは疾駆する足音を伴って、瞬く間に近づいてくる。
「シルバー・ウルフか」
俺は素早く臨戦態勢をとる。と同時に、闇の向こうから敵がその姿を現した。
銀色の毛並みに鋭い牙、三つの赤い目、大型犬と遜色ない体長。ランクCのモンスターであるシルバー・ウルフが、二匹まとめて飛びかかってくる。
狭い洞窟内を縦横無尽に飛び回り、獲物を狩ることで有名であり、上層での攻略に馴れたての新米冒険者が中層に降りてきてまず洗礼を受けると言われるモンスターだ。
『『ガルルル!』』
よだれを垂らして飛びかかってくるシルバー・ウルフ。
その乱ぐい歯と鋭い爪を見せつけ、今まさに俺の喉元をカッ切ろうとした瞬間、俺は腰に挿した古式回転弾倉拳銃――パーカッション式リボルバーを抜いた。
水が流れるように正面へ向けられる銃口。
刹那、マズルフラッシュと共に、鉛玉が銃口から吐き出される。鉛玉は、至近距離まで迫っていたシルバー・ウルフの眉間を、狙い過たず射貫いた。
『ガ……』
事切れてその場に崩れるシルバー・ウルフ。
仲間がやられたことで怒り狂った残りの一匹が、飛びかかる勢いのままに爪を振るう。
が、俺は素早く重心を移動させてその一撃を躱す。
『ッ!?』
あっさりと攻撃を避けられたシルバー・ウルフは、驚愕に目を見開くが、流石はモンスターと言うべきか。
脇を通り過ぎるや否や、俺の背後で素早く態勢を立て直し、今度は背後から飛びかかってくる。
この間、僅か0.5秒ほど。
しかし、それだけあれば十分だ。既に、
たとえ振り向かずとも、当てられる。
パンッ!
乾いた銃声、一発。シルバー・ウルフの身体が真横へと崩れ落ちた。
――。
「今日は、こんなものでいいか」
シルバー・ウルフの討伐を終えた俺は、討伐証明部位となる魔石を革袋に入れて、肩にかける。
本来であればこのあと、最上階の1階層にある冒険者ギルドにて換金をするのだが、今回に関しては個人的な取引のためにギルドには寄らず、取引先から直接報酬を貰うことになっている。
「さて、じゃあ帰るかな」
俺は、近くにある
この
つまり、行ったことのない階層へは転移できない。
そんな
「
最下層。
未だ、俺以外誰も到達していないと言われる、難攻不落のSS級ダンジョンの最奥。
そして、俺の取引先がいる場所であり――同時に、俺の家がある場所だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます