第25話 巨体、蠢く

 ヒバリとカイの住む街から離れた森の中、そこは青々と植物が生えていて、野生の動物がたくさんいた。


 そんな森に地響きのような音が響いていた。規則正しいリズムで聞こえるそれは足音だった。


 その足音が聞こえると、動物たちは逃げ出した。するとそこに大きな影が落ちた。そこには樹と同じだけの背丈のある巨人がいた。


 森に響いていたのは巨人の足音だったのだ。巨人が近づいてくると、その一歩で地面が揺れた。巨人は片手に大木を持っていた。


 その大木を振るって獲物を仕留めるのだ。


 巨人は最近では見かける機会が減っていた。それは人間による森林開発の影響だった。森林開発で森が減り、住処を追われ、個体数が減少していたのだ。


 そんな巨人は森を歩き回り、餌となるものを探していた。巨人は雑食で木の実から動物まで、口に入るものなら何でも食べた。


 そのため森は巨人にとって餌の宝庫で、住むのに適しているのだ。しかし巨人はのろまなため、なかなか素早い動物を仕留められなかった。


 巨人が動物を追いながら森を歩いていると、空が暗くなり始めた。雨雲が上空に来たのだ。するとすぐに雨がポツポツと降り出した。


 樹の木の葉に雨が当たり、雨音が大きく聞こえた。巨人は雨を嫌がった。服を着ていない巨人は体が冷えやすく、また地面が雨でぬかるんで歩きにくくなるからだ。


 巨人は雨をどこかで凌ぎたかった。どこかの木の下に入ろうとしたが、巨人を雨宿りさせられる大きな樹は存在しなかった。


 巨人は呻いた。そして早足で森の中を歩いた。雨宿りできる場所を探しているのだ。


 すると巨人は普段は行かない縄張りの外まで来ていた。そこに大きな洞窟を見つけた。その洞窟はとても大きく、巨人が屈めば入れそうなほどの広さだった。


 巨人は喜んでその洞窟に入っていった。雨宿りが出来て巨人は満足だった。


 巨人はそこで雨が止むのを待った。しかし巨人は腹が減っていた。腹の音で、餌を探している途中なのを思い出した。


 巨人は雨の中を歩き回るのを嫌がった。そのため巨人は洞窟の奥に何か食べられるものがないか探した。


 大きな体を維持するのには、相応のカロリーが必要だった。巨人が洞窟の奥に行くと、そこには厳重に縛られた何かがあった。


 しめ縄が何重にも巻かれていたそれは、祠だった。人が見たなら、その祠の厳重さに何かあると考え、触れないという選択が出来ただろう。


 しかし巨人にはそんな知性は存在しなかった。巨人からすればただの邪魔なものでしかなかった。


 人間社会のことがわからない巨人は、その祠を破壊した。バラバラになり祠は崩れた。そして中に封印されていたものが解き放たれた。


 中に封印されていたそれは、祠の残骸の下から這い出てきた。それは人間の左腕のようだった。


 それを見つけた巨人は餌だと思い、それを拾い上げた。それは巨人の指先に摘ままれると、そこから指先に埋まっていった。


 融合したのだ。


 巨人は融合の気味の悪い感覚に叫び声を上げた。洞窟中に巨人の叫び声が響いた。洞窟はその大きな音でビリビリと震えた。


 そして巨人と完全に融合したそれは、巨人の体を乗っ取った。のろまで鈍重な体だが、パワーがあり、遠くまでよく見えるため、巨人の体に満足した。


 そして体を乗っ取られた巨人はその洞窟を後にした。雨に濡れようが関係なかった。まずは腹を満たそうとした。


 洞窟を出て行く巨人の左腕には、赤黒い紋様が走っていた。

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