第16話 海の怪物
先ほどヒバリのナンパに失敗した男たちは、海に入りながら砂浜にいる人たちを眺めていた。男たちは女性しか見ていなかった。
男たちは品定めをしているのだ。
「あそこの子とか、どうよ?」
「良い感じじゃね。でもさっきの子よりは見劣りするなー」
男たちはヒバリを最初に見てしまったため、他の女性では満足出来なくなっていた。
「あのグループ、女の子しかいないっぽいぞ」
「お、どこどこ?」
そんな会話をしている男たちの近くに、水面下から黒い影が近寄っていた。
※
ヒバリとカイは海の家で軽食を取り、また海に入っていた。カイは飲み物を飲むため、ヒバリだけが先に海に入った。
「若夏くん、早くー!」
ヒバリがカイを呼んだ。その声でカイは海に向かおうとした。すると海の方から悲鳴が聞こえた。
「うわぁ! だ、誰か、助けてくれ!」
声が聞こえた方向にヒバリとカイは視線を向けた。海水浴客も皆が目を向けた。すると先ほどヒバリをナンパした男の一人が、海中に引きずり込まれていた。
「何だ、何があったんだ?」
「どうしたの?」
ビーチにいる人は何が起こっているのか把握出来ていなかった。そして次の瞬間、水中から男の体が飛び出してきた。
男の体には赤い触手が巻き付いていた。触手には吸盤があり、蛸の足のようだった。しかしその触手は人の胴体よりも太く、大きかった。
男たちの近くの海面下には大きな影が出来ていた。そしてその影は体を持ち上げて姿を現した。それは怪物サイズの蛸で、クラーケンのようだった。
蛸の怪物を目の当たりにした海水浴客は悲鳴を上げた。
「きゃあー!? 何あれ!?」
「逃げろー!」
蛸は触手を振るい、掴んでいた男を投げ飛ばした。男は砂浜に体を打ち付けられた。そして蛸はより魔力の多いヒバリの方に向かって行った。
「ヒバリさん! 逃げて!」
カイはヒバリに声を掛けた。ヒバリはその場から逃げようとしたが、水と砂に足を取られて、思うように逃げられなかった。
そしてヒバリの元に触手が伸びていった。触手はヒバリに絡みついた。触手は万力のような力でヒバリを締め付けた。
そのせいでヒバリの大きな胸がより強調される形となっていた。
「離せっ! このタコっ!」
それを見たカイは急いで荷物から杖を取り出した。そして蛸に向かって魔法を撃った。
「ヒバリさんを、離せ! 『赤矢』!」
放たれた赤い光の矢は、ヒバリに巻き付いている触手に命中した。そしてヒバリに巻き付く触手が離れた。その隙にヒバリは逃げて、カイの元へ駆け寄った。
「ありがとう、若夏くん!」
「ヒバリさん、大丈夫ですか!?」
「何とか大丈夫!」
ヒバリは怪我はしていないようだった。それにカイは安心した。
そしてヒバリ荷物から杖を取り出して、応戦の構えを取った。他の海水浴客の魔法使いたちも杖を出して、蛸と交戦していた。
砂浜に上陸した蛸は魔力の多そうな人物に触手を伸ばしていた。それに掴まれないようにしながら、ヒバリとカイは蛸に魔法を撃った。
「『赤矢』!」
魔法が当たった触手は千切れていった。しかし触手は大きく太いため、なかなか切断出来なかった。
それでもビーチ中の魔法使いの攻撃により、蛸はどんどん弱まっていった。
すると蛸が大きく震えた。そして蛸から赤黒い紋様が走った触手が伸びてきた。それは生き物の触手ではなかった。
その触手は素早く、そして強靱だった。触手は人を刺し貫こうとしていた。
「『青盾』!」
カイは伸びてきた触手を防御魔法で防いだ。そしてカイは攻勢に転じた。ヒバリを傷つけようとした蛸に怒りのままに、攻撃魔法の雨を降らせた。
すると蛸は全身を攻撃魔法で穴だらけにされて、ようやく絶命したようだった。蛸は砂浜に倒れて、力なく広がっていた。
そんな蛸の触手の一本がヒバリとカイの方に伸びていた。するとその触手から何かが飛び出してきた。何かはカイに当たった。
「うわっ!?」
そしてそれは一瞬でカイと融合した。そのためカイは何が起こったのか把握出来なかった。
「若夏くん、大丈夫!?」
「は、はい、何ともないです」
カイは特に何も変化を感じなかった。そして通報を受けた警察や上級魔法使いがやって来た。ヒバリたちは蛸から遠ざけられた。
蛸の周りには規制が敷かれ、その日のビーチは一旦封鎖となった。
事件が落ち着いてきた頃、ヒバリとカイは混雑するバスに乗って、家路に着いた。
「今回はごめんね。あたしが海に行こうなんて言わなければ……」
ヒバリはカイを事件に巻き込んでしまったことを悔いていた。
「そんなことないですよ! 怪物には確かにビックリしましたけど、海で遊ぶのはとっても楽しかったです!」
「ほんと? それなら良かった」
そして二人は、次はどこに遊びに行こうかと話しながら、バスに揺られた。
カイは背中に少しだけ違和感を抱えていた。
※
夜になり、蛸の死骸も片付けられた暗いビーチ。そこに黒いローブを着た一人の人物がいた。
「ここにいたようだな」
黒いローブが風で揺れると、その人物の赤黒い紋様が走った右腕が露わになった。それは蛸から現れた触手にあったものと同じだった。
黒いローブの人物はビーチに残滓を感じていた。そしてこの場に目的のものがないとわかると、その場を後にした。
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