第2章 意思表示
「俺は今から近くの村に行ってくる。家にあるものは食料でも何でも使っていい」
そう言って彼は家の方へ向かっていった。それに安堵した私たちはお互いの安否を喜んだ。
「ひとまず助かりましたね」
「そうですが...ルビナ様。申し訳ありません私のせいで...」
先ほど、一方的に負けたことに落ち込んでいるシャーレを私は慰めるように抱きしめた。
「シャーレのせいじゃないよ、私のために戦ってくれてありがとう。うれしかったよ」
「ルビナ様.....」
シャーレは私にとって母親のような存在、実の親や兄弟から蔑まれている私に、唯一優しくしてくれる人。
(本当にシャーレが無事でよかった....)
心の中でそう思いながらシャーレを見ると暗い表情は変わっていなかった。
いや、実際には一瞬は喜びと安心を持った表情をしてはいた。
なぜまたこの表情になったのかは直ぐに分かった。
「ルビナ様.....これからどうされるおつもりですか?」
きっとシャーレはこう言いたいのだろう。
このままアルデナ・リーヴァという男の言うことを聞き、あの家にいるか隙をついて逃げるかと。
でも私の答えは決まっていた。
「私たちは彼の言うことを聞きましょう」
その言葉にシャーレは返事を曇らせた。
「ですが、それではルビナ様は...」
「シャーレも分かっているはずでしょ?逃げ切れる可能性よりも見つかる可能性が高いって」
その言葉を聞いたシャーレは分かりやすいほどの動揺を見せた。
きっとシャーレも分かっていたんだろう、どちらが最善かを。
「それに、私は殺されないと思っているの」
それを聞いたシャーレは理解できないようで「何故ですか」と聞いてくる。
それは私にもわからない事ではあるけれど、シャーレを殺す気がないと言っていた彼は嘘を言っている気がしなかった。
「なんとなくよ」
そういうしかなかった。
でも漠然とそう思ってしまった。
シャーレは納得のいっていないようだったけど、素直に従ってくれて彼の家まで一緒に向かった。
家にはいるタイミングで入れ違いのように彼は家から出て行った。
今まで感じてた殺気は消えていた。
その後、彼の家でシャーレにご飯を作ってもらい湯浴みをした後、ベットを借りて睡眠をとろうとした時、シャーレが警戒するように言ってきた。
「何かあるかも知れませんので私が見張りをしておきます」
「だめよ、シャーレも疲れているのだから寝る必要があるわ」
「ですが寝込みを襲われる可能性もございます。」
「あのねぇ、彼は約束を破らない限り手出しをしないと言っていたし。見張りをしたところで抵抗はできないから考えるだけ無駄よ」
その言葉にシャーレは苦い顔をしながら納得した。
その後、床で寝ようとしているシャーレをベットに引きずり込んで一緒に寝た。
もちろんシャーレは抵抗したけれど、これが最後になるかもしれない、というと何も言わず抱きしめてくれた。
(怖くないわけではないけれど、大丈夫なはず....)
不安を抱きながらも私たちは眠りについた。
朝ご飯を食べて少しした頃の事、彼が帰ってきた。
鬼の仮面をつけた状態で...シャーレは私と彼の間に立ち、私を守ってくれるようだった。
そんな彼は昨日聞いた冷たい殺気を宿した声ではなく、優しい声だった。
「そこまで警戒しなくても三日間は手を出さない。そこは守る」
そういうと彼は袋をシャーレに渡す。
シャーレは警戒しているようで受け取ろうとしない。
「これはなんですか?」
彼はため息をつきながらそれを近くの机に置く。
「シャーレさんたちが使うものだ、必要ないなら捨てて構わない。修行してくるから中身を確認していろ」
そう言い残し剣を持って外へ出た。
彼がいなくなった後、私たちは彼からもらった袋を開けるか話した。
「この大きい袋....開けるべきでしょうか」
未だ疑っているシャーレ。
その目線の先には、いるものとは言っていたが、それにしては大きい袋だった。
「危険なものではないと思うから開けてみていいと思うわ」
私がそういうとさっきまで疑っていたシャーレも諦めたように「分かりました」といい袋に近づく。
「開けますよ」
そういってこちらを見てくるシャーレに頷き、それを見たシャーレは袋を開けて固まった。
「どうしたの」
シャーレの方に近づき、その袋の中身を見て「これって」と言い私も固まってしまった。
その袋の中には女性が日常で使うものと、三日分の服そして弓と短剣が入っていた。
「これは一体....」
そういいながらも、シャーレは中のものを取り出して机に並べていく。
「少しは安心できそうでしょう?」
少し笑いながら、彼の厚意を受け取るように促すとシャーレは呆れたように声を漏らす。
「あの人は何を考えているんでしょうか.....」
「私にもわからないけど、とりあえず着替えましょうか。流石に汚れているし。」
私もだけど特にシャーレは戦うことが多かったため、かなり服が汚れていて所々破けている箇所がある。
「そうですね....不本意ではありますが」
私たちが着替え終わり、袋の中身を見ていると彼が帰ってきた。
「.....無駄金にならなくてよかった」
そう言い残して「湯浴みする」といいまた消えていった。
お礼を言う暇がないほどに早かった。
「これを買うためだけに村に行ったんですかね」
彼が戻ってきたとき、これ以外のものが見当たらなかったので、その通りではあると思うけど.....
(殺そうとする相手にこんなことを....)
きっとシャーレも同じことを思っているのだろう。
だけどそれもすぐに分かることだ。
彼は湯浴みを済ませて帰ってきた、もちろん赤い鬼の仮面はつけたままだった。
そして椅子に座るとすぐに本題に入った。
「さてと、とりあえず聞きたいことを聞かせてもらおう。」
その言葉を聞いた瞬間、さっきまで緩んでいた空気は張り詰めた。正確には私とシャーレが警戒したからだ。
でも私には言うべきことがあった。
「それに答える前に言いたいことがあります。」
私は立ったまま彼の近くに行き頭を下げる。
「村まで行って、私たちに日常品を買っていただいたことお礼いたします。」
私がこういったからか「ルビナ様」といった後、シャーレも頭を下げた。
「俺が勝手にやったことだから礼はいらない。とりあえず話を進めたいから座ってくれ」
そういわれた私たちはアルデナ・リーヴァの前の席に座り話を聞く姿勢になる。
「聞きたいことはたくさんあるが、時系列順に聞いていく。嘘をつかないで答えろ」
彼の語尾が強くなったのは嘘をついたら殺すという事だと私たちは理解し、首を縦に振った。
「戦に負けたとのことだが、なぜ王女がいて負けた?」
それを聞いた私は理解した。
この世界では王族のみ人間とは異なる力が宿る。
それがある状態で負けることは大抵ない、あるとしたら敵国と大きすぎる戦力差があるか、相手の国にも王族がいるかの二択。
だけど今回は二つの要因が関係した。
「私たちの軍は一万の兵でしたが、敵国は五万の兵だったため、敗北しました。」
「それくらいなら、王族の力があれば勝てるだろう。能力は使わなかったのか?」
嘘ではないけれど説明不足だとバレたようで彼はそんなことを言ってくる。
私はなんて言っていいか分からず固まってしまうがそれを見て、シャーレが代わりに言ってくれた。
「ルビナ様には能力がないのです。」
「......にわかには信じがたいが、確か第三王女だよな」
「はい」
淡々と答えるシャーレに嘘ではないと感じ取った様で頭を悩ませている。
少し沈黙が続いた後、彼が口を開いた。
だけどそれは、私が分かっていても、目を背けたかった事実だった。
「つまり、いい機会だから能力のない第三王女を処分して、本当に存在を消そうとしたってところか」
私は下を向いた。目をそらしていた事実を突きつけられたから。
シャーレは悔しそうに「多分ですが....そういう事かと」と肯定していた。
「なら、国に帰ろうが何かしらの処罰などで殺される可能性もある。なぜ帰ろうとした」
ごもっともな意見だがこれは私が答えなければならない事だった。
シャーレが口開こうとした時。
「待って、それは私が言う」
止めた時のシャーレは驚いてはいたが、私の気持ちを読み取って、喋らないでくれた。
私は深呼吸をしてから伝えた。
「私はパラシアスの王になりたい。だから帰らないといけない」
それを言った瞬間、目の前の彼から殺気を感じた。それも明確に。
「やはり王族は変わらないようだな。なぜそこまでして王になりたい」
少しひるんでしまうが、私に気持ちを言わなければ、最悪の未来が待っていることだけは分かった。
「わ、私は...今のパラシアスを変えたいの」
それを聞いた彼の殺気は消えた。
「それはどういう風にだ」
「私はもっと民が幸せになれるようにしたい。税におびえることも、王族の横暴さに恐れることもないそんな国に、初代パラシアス王のいた時の国を目指したい!」
パラシアスは今では独裁国家と言われているけれど、昔は違った。
初代パラシアス王パラシアス・シャーロット。
あの方の名前はパラシアスだけではなく多くの国でも伝説として残されている。
慈悲にあふれ、民を気にかけ誰からも信頼された最高の王。
その栄光は色あせることがなく英雄の国・自由国家パラシアス。
それがこの国の呼ばれ方だった。
そのはずなのに、時がたつごとにその栄光を笠に着て王族が横暴になった。
そして今のパラシアスが生まれた。
「お前のような王族が......」
彼は葛藤しているようだった。
さっき言っていた言葉から察するに彼も王族の暴挙にあった一人なのだろう。
「......もし、本当にそう思っているなら、犠牲になるかもしれない民がいた時、お前はどうする」
その言葉に私は迷いなく答える。
「私が目指している初代パラシアス王なら、すぐに助けに行くというでしょう」
私は一息おいて続ける。
「私はたとえ一人でも犠牲を出すことなど許さない。絶対に助けに行きます!」
その答えは正解だったと思う。
だけど彼の言葉に少し戸惑ってしまった。
「能力のない王女一人に出来る事なんてない」
そう、初代パラシアス王のように仲間がいるわけでも自分自身に力があるわけでもない。
これは力があるから言えること、それに言い返せないでこぶしを握り締めると、その拳に温かい手が載せられる。
その手の主を見れば....
「シャーレ?」
「大丈夫です、ルビナ様」
そういったシャーレは彼に向かって、私の心を温めてくれる言葉を言ってくれた。
「一人ではありません!私がいます!」
私は涙が出そうだった。
一人じゃ何もできない私にも、ついてきてくれる人がいる。
胸の中が暖かくなる感覚、これはシャーレだけがくれたもの。
「最後に聞かせてくれ。二人はどういう関係だ?」
その言葉に私はどう答えるか迷った。
シャーレをただの従者などと思いたくなかったからだ。
私にとってはお母さんのような人だったから。
迷っている私に答えをくれた人がいた。
「私とルビナ様は主と従者です.....でも私はルビナ様の事を娘のように思っています」
それを聞いた私は、涙をこぼした。
私だけの一方的な感情じゃなかったと分かったからだ。
お互いに親子のように思っていたその事実があるだけで私は何でもできるようだった。
だからこそ私も答えた。
「私もシャーレをただの従者だと思ったことはありません。本当のお母さんのようで家族だと思っています」
私たちの真剣さが伝わったようで、「そうか」とつぶやいた彼だが私は見逃さなかった。
彼の仮面から水滴が零れていることと、それが涙だという事を。
「なら、いいことを教えてやる。俺が行った村だがそっちに向かっているミクラナ帝国の軍を見かけた。多分だが略奪が行われる可能性が高い」
それを聞いた瞬間理解した、彼のあの言葉の本当の意味。
「犠牲になるかもしれない民がいた時あなたはどうする。」そして試したかったんだ言葉だけじゃないかを。
なら私のやることは一つだ。
「今すぐ助けに行きます!場所を教えてください!」
彼は少し笑ってから、聞き逃していることが多くあると教えてくれた。
「相手の数もかかる時間も聞かないで行くのは無謀だぞ。間違えるなよ、二人になったところであまり変わらないんだから」
それから私たちは相手の事と村に着くまでの時間などを教えてもらった。だけど...
「敵兵が100兵.....」
一人で五十人は倒さないといけない。
それは私たちに出来るかと言われればできないとは思う。
でも目指しているものがあるからこそ、これくらい乗り切って見せる。
「行きましょう。シャーレ!」
少し不安そうにしているシャーレに勢いをつけるため大きな声で鼓舞する。
「分かりました。ルビナ様....最後までお供します」
それを聞いた彼は立ち上がり、甲冑と弓、剣を机に置いた。
「これを使うといい、多少勝てるかもしれないしな」
「あなたは行かないのですか?」
「人に頼りすぎるのは良くないぞ。俺は寝る」
それもそうだ、私たちの事に彼まで巻き込むのもおかしな話だ。
私は「ありがとう」と彼にいい家を出た。
そして目の前にあるものに、私とシャーレは笑ってしまった。
「こんなものまで用意して、本当に彼は何をしたいのでしょうかね」
「分からないけど、使わせてもらいましょう」
私たちが家を出た瞬間に見えたのは、昨日までいなかったはずの馬が二頭、ご丁寧にリードをつけ鞍まで用意されている。
それに私たちは乗り村を目指した。
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