好きな女の子にBL推しカプにされちゃったけど、おれは普通の恋愛がしたい
内田ヨシキ
第1話 「付き合ってください! ……彼と」
「付き合ってください! ……彼と」
「もちろん、喜ん――ん? 誰と!? 彼と!?」
おれは思わず、素っ頓狂な声を上げてしまっていた。
目の前の彼女――
でも隣の席のおれは知っている。
よく見れば顔かたちは整ってるし、長く艶のある髪をかき上げる仕草には色気を感じるし、真剣な表情で本を読む横顔はとても綺麗だ。
そんな江口は、じっとおれを見ているときもある。目が合って、慌てて視線を逸らす仕草には胸キュンものだ。
ずっと告白のチャンスを狙っていた。
もうすぐ文化祭だし、その当日、あるいは準備期間に……と覚悟を固めていた。
そこに江口から呼び出されて、ふたりきりで、いい雰囲気の空き教室。
これはもう告白だ。うん、告白でしょう。先手は取られたけど、即答で受けるつもりだった――んだけど……。
「えっと? おれが? 誰と付き合うって? 江口さんとじゃなくて?」
「いやいやいや、わたしじゃないです! えっと、
「まあ、みのりとは長い付き合いだよ」
「彼と付き合って欲しいの!」
わからない。いったい、江口はなにを言っているんだろう?
「……説明してもらえる?」
「高橋くんと豊原みのりくんで、男女交際ならぬ男々交際をしてください!」
……???
「もっと詳しく説明してもらえる?」
「不躾なのはわかってるんだけど……でもでも、高橋くんは背も高くてクールなイケメンで、でもみのりちゃんは、背が低くて声も高くて可愛い系で活発で……ふたりで仲良くしてるの見てると、なにか……こう! わたしの中に、熱いなにかが迸るの! わたしがよく読んでる本にもあるんだけど、いわゆるカップリングって概念だと思うの!」
「……続けて?」
「しばらく観察したり、空想してたりしてたけど……けど……もうそれじゃ刺激が足りないの! ふたりには是非とも交際してもらって、もっと濃厚な絡みを見せて欲しくって!」
「……えーっと、もしかして、江口さんが真剣に読んでいた本は、いわゆる
「ひゃっ、み、見てたんですか……っ?」
そりゃ見るよ。教室で堂々と読んでんだもん。絵になってたよ。内容で台無しだけど。
「……で、たまにこっちを見てたのは、おれをネタに妄想してた?」
「あっ、それはその……えへへへっ」
笑ってもごまかせてないんだよなぁ……。
「で、でもでも! 彼と付き合うのは悪い話じゃないですよ! 恋愛は青春の醍醐味! きっと高橋くんの青春は薔薇色になります!」
「嫌だよ! それ、男の同性愛を示す隠語の『薔薇』色でしょ!?」
「おぉ、意外とお詳しい」
「おれもそこそこオタクだからね! 少しは知ってるけどね! つか、おれは普通に女の子が好きだよ! 男と付き合うなんてあり得ないって!」
「ええっ、ちょっと待ってください。えっと、あった。ほら、こんなにお似合いなのに!」
江口がスマホを操作してから見せてきたのは、おれとみのりの写真だった。
おれとみのりが、肩を寄せ合って寝ている。体育祭のあと、疲れて居眠りしていたときのもののようだ。
「ね? どう見てもベストカップル」
「いや盗撮。やめなよこういうの」
おれは江口のスマホを取り上げて、ささっと削除してやった。
「あぁんっ! でもクラウド保存してるからノーダメージ!」
「くっそっ!」
「うへへぇ……永久保存版だしぃ~♪」
「ひでえ笑い方……。というか、さっきから早口で口調まで変わってるんだけど……。江口さん、これが素?」
「へっ、あっ、あ、あはははっ。し、失礼しました。興奮しすぎました……」
「いやべつにいいけど……」
内容はともかく、自分の好きなものを語ってる様子は、なんだかキラキラしてて可愛かったし……。内容はともかく。内容はともかくね?
「いいってことは、豊原くんと付き合ってくれる、と?」
「そっちじゃない! さっきも言ったけど、おれは女の子が好きなんだよ。というか、おれは江口さんが好きなんだよ! なんなら呼び出されて、告白かもって期待してたんだよ! むしろおれと付き合ってくれよ!」
「……ッ!?」
江口はびっくりしたのか、目を大きく見開いて固まった。
それから少しずつ顔を赤く……することもなく、微妙に険しい顔をした。
「解釈違いですッ!」
「はいぃ?」
「わたし、『薔薇の間に挟まる女』になりたくないですからぁ!」
「なにそれ。『百合に挟まる男』の対義語?」
「そ、そうです! わたしは高橋くんと豊原くんの絡みが見ていたいだけだから……!」
「えぇー……」
「と、とにかく、お願いします! 高橋くんと豊原くん、絶対いいカップリングですから! 推しますから!」
そう残して、江口は空き教室を出ていってしまった。
あれ? これ振られた? おれ振られたの?
いや、どうなんだ? 状況がわけわからなすぎて、理解が追いついていない。
とりあえず、考えるのはあとにして、おれも帰るとするか……。
荷物を取りに、とぼとぼと自分の教室に戻る。
「おっ、やっと戻ってきたな!」
そこで待っていたのは、みのりだった。
江口が言っていたとおり、背は低く、顔も可愛いため私服だと女の子にすら間違えられることもある。実際、クラスの女子には、「みのりちゃん」なんて呼ばれて可愛がられたりしているくらいだ。そのたびに「女じゃねーよ!」と、男言葉でツッコんでいる。とはいえ声も高いため、それですら可愛いと言われる始末だが。
しかし、江口に言われた手前、なんか意識してしまうな……。
男子の制服を着てても、つい可愛いとか思っちゃうし……。
小さく首を振って、そんな思考を追い出す。
「わざわざ待ってたのか。なんか用でもあったか?」
「なに言ってんだよ。新作の格ゲー今日が発売日だろ。今朝ダウンロードしといたから、一緒にやろうぜ。今日はうち両親いねーから徹夜しても文句言われねーぞ」
「おっ、いいねえ。ボコボコにしてやんよ」
「へへっ、そう簡単にやられるかよ」
というわけで、さっそくみのりの家に向かうおれたちだったが……。
「……なあ、なんで江口さんいんの?」
先ほど解釈違いを起こして帰ったはずの江口が、いつの間にかおれたちと一緒に歩いていたのだ。
「だって……こんな美味しいイベントを見逃すわけにはいかないじゃないですか! たとえおうちの中には入れなくても、その雰囲気だけでも……」
おれには苦笑しかできないが、事情を知らないみのりは、あっけらかんと答えた。
「いやいや中に入れないわけねーじゃん。江口さんも遊びてーなら、一緒に遊ぼうぜ」
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