第7話 師匠と友達

 翌朝、いつもと同じように朝食を食べ、村に遊びにいくと言って家を飛び出す。普通の家なら5歳といっても家の手伝いや、弟の面倒をみろと言われるかもしれない。だが両親は冒険者になる夢を応援してくれて自由を許してくれている。必ず想いに応えなければいけないだろう。だから今日はいつもと同じことはしない。


 父に大事な話をし、許可を得て家を出る。森へと向かう道を歩いて行きその途中、村の端の家、森に一番近い家の前で止まる。そこは当然ロウ爺の家だ。毎日毎日飽きもせずに森の方角を向いて日向ぼっこをしているロウ爺に話しかける。


「ロウ爺、おはようございます!」


「ああ、おはようアレン坊」


 いつもと変わらずに挨拶してくれるロウ爺。なぜロウ爺がモンスターがいる森の一番近いところに家を建て住んでいるのか、なぜロウ爺が朝から晩まで森の方を向き日向ぼっこをしているのか考えた。そして1つの結論に辿り着いた。ロウ爺はこの村を守るために森を見張ってくれているのだと言うことに。


「ロウ爺!俺に剣を教えてください!」


「ほ?」


 完全にロウ爺の意表をつき、ロウ爺から一本取った。俺がこんなことを頼むなんて想像だにしていなかったようだ。


「ほっほっほ。もちろん、構わんよ。」


「ありがとう、ロウ爺!いや、師匠!」


 少しは躊躇うんじゃないかと思っていたが、なんと好々爺のお手本の様な笑い声の後に二つ返事で了承してくれた。もしかして朝から晩まで椅子に座っていて暇だったで暇つぶしのつもりで受けてくれたのではないかと失礼な考えを一瞬抱き、すぐにその考えを頭から振り払う。ロウ爺は人生における貴重な時間をただの近所の子ども相手に使ってくれるのだ。それを善意と言わずなんと言おう。


「今からやるかの?」


「はい!お願いします!」


 子供の声で、精一杯大人のように返事をする。これからは師匠と弟子の関係になるのだし少し年齢不相応な言葉遣いをするかもしれないが、教示を受ける立場ならその方が相応しいと小さい頭で考えた。


「まぁ、教えると言ってもまずは素振りと型じゃな。持ってみなさい。」


「……タダで良いんですか?」


 ゲーム「ジョウキ」ではサブクエストを完了すると絶対にアイテムや重要な情報などを得られた。まぁこれは当然だ。適当な村に立ち寄り、困ってる人の悩みを苦労して解決したのに何も褒美が無ければプレイヤーは不満を抱くだろう。「ジョウキ」大好きな俺でもがっかりしてしまう。


 地球でもそうだ。例えば道場。家族などの場合は無料だろうが他人からは金銭を得なければ生活もままならないだろう。学校もそうだ教師が無給で働いているわけがない。


 要約すると俺とロウ爺は同じ村の住人だが他人だ。ならばその技術への対価を払わなければいけないだろう。


「は……。ふぉっふぉっふぉっふぉ!」


 なんてことを考えていたのだが帰ってきたロウ爺の言葉は……いや言葉ではなかった。先程の好々爺のお手本の様な笑い方を進化させ仙人の様な笑い方でとても愉快そうに笑っている。剣を教わる前に2本も取ってしまった。


「ごほごっほ」


「!大丈夫!?」


 ロウ爺が笑いすぎて咽せてしまい、俺は思わず敬語も忘れてロウ爺の背をさすりに行った。


「ほっほ。咳程度ではくたばらんよ」


「ロウじ、師匠……」


 俺はロウ爺が1日中家の庭で椅子に座り、フォレ森の方を向いているのをロウ爺がこの村で1番強いからそうしているのだと考えてその考えを疑わなかった。


 だが見方を変えれば、満足に歩けないからずっと椅子に座っているのではないかという考察もできる。


 自分の信じたいものしか見ずに、それ以外の選択肢を視界に入れない人間など冒険者になって窮地に陥れば真っ先に殉職するだろう。


「報酬……じゃったな。」


 ロウ爺がこちらの考えなど気にせず、話を戻そうと問いかけてくる。持病の有無などについて問いたいが、今は完全にロウ爺のペースだ。この話の後に聞くとしよう。


「う、はい」


 もしロウ爺が弱っていて満足に歩くことさえできないと言っても剣の振り方などは教われる。それならばどちらにとっても利益しかないと考え、頷く。


「何か差し出せるのかの?」


「え、と。朝お父さんに話したら「冒険者になってお金を返しに来るならいい」って言ってくれたから無制限だけど……1日1万ゴルでお願いしたいです」


 家でした大事な話というのはこのことだ。5歳にしては割と厳しいことを父は言うなと思ったがお金の貸し借りについて誠実なのがうまくいく冒険者としての生き方なのかもしれない。ちなみに初めは父から教わろうと考えたが、父は畑仕事で手が開かなく、主要武器が大剣ということで断念した。


「ほう。ならわしへの報酬は、将来アレン坊がした冒険を聞かせに来とくれ」


「え?」


 思ってもいなかった要望の報酬に困惑の声をあげてしまう。だってそうだろう。


 報酬が「俺がした冒険をロウ爺に聞かせる」なんて報酬にしなくてもこれから師弟関係になるのだとして帰郷したら話を聴かせるのは当然だからだ。実質タダということだ。ロウ爺は子どもからお金を貰うのは申し訳ないと思っているのかもしれないけど俺はお金のことは大人だろうが子どもだろうが関係ないと考えている。


 いや、一瞬そう考えたがロウ爺は俺の何倍も生きているし何か意味があるのかもしれない。危うく先程したミスを繰り返すところだった。


 数秒経ち、俺が困惑で沈黙していたせいで途切れてしまった会話をロウ爺が要点を簡潔に喋り出す。


「アレン坊に剣を教える報酬はわしに、アレン坊がした冒険を聞かせる。ダメかの?」


「!それでお願いします!」


「よかろう」


 そういうとまるで足が動くのが当たり前かの様に「ひょい」という聞こえない音を立ててロウ爺が椅子から立ち上がった。


「え」


「ん?どうしたんじゃ?」


「いや、なんでもないです」


 どうやらロウ爺が咳をするから深読みしてしまったがロウ爺は健康体で当初の予想通りこの村で一番強いからこのフォレ森に1番近い家に住んでいるらしい。心配して損した。


「まずは型と握り方じゃ持ってみなさい」


 ロウ爺に促され、いつものように自分の〈木剣〉を両手で握る。この木剣は片手剣だが、子どもの自分には片手で持つには大きすぎるので、両手で握っている。


「アレン坊は右利きかい?」


「そうです!」


「剣術にも色々な流派があり、構え方が違う。それぞれの流派に弱みもありまた、強みもある。アレン坊にはアストリア王国で一番主流のアストリア流剣術を教えよう」


「はい!お願いします!」


 ものを教わる時は素直に元気よくをモットーにロウ爺の全てを集中する気持ちで取り組む。



「子どものうちから鍛えすぎるとよくないという噂がある。朝から始めて太陽が真上に来たら切り上げよう」


 時刻は正午。ちょくちょく休憩を挟みつつ行っていた指導が終わる。


 ちなみにこの世界は「ジョウキ」を元にした世界。時計は当然あるし、俺はメニュー画面でいつでも確認できる。


「はい!ありがとうございました!」


「ほっほ、かまわんさ」


 普段よりも運動したせいか、いつもは朝と晩の2食しか食べないが、今日はお腹が減ったのでどうせなら森の中で朝、アイテムボックに入れたパンを食べることにする。


「お?」


 ふとフォレ森に向かいながらマップを観てみれば、昨日の子犬がいることがわかる。一度助けた子犬だ。無事か気になったのでもう一度見に行くことにする。


 子犬は昨日と同じ木の根元に蹲って寝ていた。じーっと見つめていると、子犬がハッと目を覚ました。


「……」


「……」


 両者無言で見つめ合う。昨日とは違い、唸られていない。昨日助けられたことがわかるのかもしれない。なかなか賢い犬だ。


「わっふ」


「ん?」


 優しく吠えられた。お礼を言われたのかもしれない。前世では生き物を飼ったことがなかった。ほぼ確実に自分よりも先に旅立ってしまい悲しくなるだろうし、ゲームばかりの自分に命を預かる権利などないと思っていたからだ。もし飼っていたとしても置いてけぼりにしてしまうので結果的には良かった。


 一度助けたのだ、どうせなら子犬の足が治るまでは時折面倒を見てあげよう。俺はインベントリからパンを取り出し、子犬に半分ちぎってあげた。当然水も昨日と同じ場所に出してやる。


「わふ?」


「たべていいよ」


 子犬が「食べていいの?」とでもいうかのようにこちらを窺う眼差しで見つめてくる。子犬はパンの匂いを嗅ぎゆっくりと齧り付いた。


 俺も一応マップで敵が近くにいないか、警戒しつつ、大自然の美を感じながらパンを噛み締める。


 「花より団子」というが、俺はどちらも好きなのでどちらも取る。


 パンを食べ終わり、今日は中層にリベンジしに行くこと。


 徐に立ち上がり、ふと子犬を見て気が付いた、この森に住んでいるならまた会うだろう。ならば名前がないと不便だと。俺にネーミングセンスはないが、呼びやすいように何かいい名前は無いかと、空っぽな脳みそで考える。


「名前をつけてもいい?」


「わふ」


 この子に許可も貰えたようだし、真剣に考える。よっし決めたぞ。




「マシロ……はどうだ?」


「わっふ!わっふ!」


 どうやら気に入ってくれたらしい。名前の由来は当然その真白の毛だ。

なんだか、名前をつけたからかわからないが、マシロとの間に繋がりができたような気さえしてくる。


「じゃあ俺はもう行くけど気を付けろよ?」


「わっふ」


 名前…わっふわっふって鳴くしワッフルでも良かった気がする…でもオスかメスか俺には判別できないし、まぁマシロが無難だろう。



 中層の方を向きマップを見ながら歩いていく…

 白い点が後ろからついてきている。当然マシロだ。


「……もう怪我は平気なのか?」


「わふ」


 平気!と言っているような気がする。マシロは平気でも俺が平気じゃ無いんだが。


「付いてきたら危ないぞ」


「わっふわっふ」


「そうか……また怪我しても知らないぞ。」


「わっふ」


 この時の俺は気付いていなかったがあまりにも自然にマシロと会話をしていた。


 無事に中層に着いた。

 俺はもう昨日の俺とは違う。何が出てきても容赦しない。


 しばらくはスライムにしか遭遇しなかったが、15分ほど探索すると昨日と同じように近くの草むらが動いた。

 今度は失敗しない。すぐさま草むらから離れ、剣を正面に構える。


「来い!」


「キュー」


 飛び出してきたのは案の定、ジャンピングラビットだった。俺目掛けて一直線に跳び掛かってくる。


「ハッ!」


「キュッ—」


 昨日よりも確実に、鮮やかに、より洗練された一撃がジャンピングラビットの脳を揺らし倒れる。HPが0になり、消える。今のレベルで一撃だったのならクリティカルだろう。ともかくリベンジ成功だ。


「わっふわっふ」


「ありがとう。」


 マシロが褒めてくれる。が、ここで俺は疑問が浮かんだ。犬は人間の数倍鼻がいいはずだ。草むらにジャンピングラビットがいることなんてわかっていただろう。


 マシロからは恩義の様なものを感じ取れるし、もしかして俺がジャンピングラビットにリベンジしたいのをわかっていて何も言わなかったのか?


 いや、そんなはずはない。なんの訓練も積んでいない子犬がこちらの意図を汲み取り行動するなどあり得ないだろう。


「わっふ」


 変な思考の渦に囚われていたが、マシロの一吠えによって現実に戻される。マシロの吠えた先にあったのは、ジャンピングラビットの確率ドロップアイテムのジャンピングラビットの肉だ。


「おお!ラッキー」


「わっふわっふ」


 マシロが褒めてくれる。やっぱり子犬にしては賢すぎるな。なんの訓練も積んでない犬なら目の前に肉があったら我先にと肉に齧り付くだろう。マシロは頭がいい犬種なのかもしれない。


「食べていいぞ」


「わーふ」


「遠慮しなくていいって」


「わーふ」


 どうやらもらってばっかりで悪いから、今度は自分で倒し、自分でドロップさせたいらしい。正直気にしなくていいし、俺は肉よりも経験値が欲しいので、倒したいのだがまぁ可愛いしマシロの好きにさせる。


 それから1時間ほど中層を探索して4匹目のジャンピングラビットにマシロが爪で引っ掻き、トドメを指し、ついにその瞬間が訪れる。


「お、やったなドロップしたぞ!」


「わふ!」


 マシロが胸を張ってドヤ顔をしている。わかりやすいやつだ。マシロは肉を食べられて満足げだ。キリもいいし、今日の探索はここまでにする。(マシロにわかりやすいように自動回収をOFFにしていた。)


「俺は家に帰るけど、マシロはどうする?付いてくるか?」


「わっふ」


 どうやら着いてくるみたいだ。

家族のみんな、許してくれるかな?まぁ許してくれなかったらこの森で放し飼いでもいいよね。


 俺は、マップを見ながらいつものように、帰路につく。


「今日はかなりモンスターを倒したしレベルアップしてるだろうな〜もしかしたらスキルも……ふひひ」


 レベルのことで頭がいっぱいになり自室にて脳内で呟く。


(ステータス)


――――――――――


・名前:アレン

・年齢:5

職業ジョブ:見習い剣士LV6

・控え職業ジョブ:見習い魔法使いLV0、見習い支援魔法使いLV0、見習い神官LV0、見習い魔物使いLV0

・HP:22/22

・MP:22/22

・ATK:16

・DEF:16

・MATK:10

・MDEF:10

・SPD:16

・DEX:10

《スキル》

『スラッシュ』

《魔法》


《装備》

〈木刀〉

『ATK-3』


《従魔》

・マシロ(ベビーウルフ)LV2


――――――――――


「———え?」




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