義両親と思い出を語る

 そして話は私と出会った時、康子が義母に相談していたことを聞いた。母と娘、女同士ということで話が弾んだようだ。そのことは2人だけの話、ということにしていたが、康子が亡くなった以上、私にも知っていて欲しいということで語り始めた。


「康子が将雄さんと出会った時だけどね、自分がとても失礼なことをしたと言っていました。そこではきちんと謝ることはできなかったけれど、その直後、偶然近くの蕎麦屋さんで会ったそうですね」


「はい、そうです」


「あの子は人見知りなんで、初めて会った人と食事をするなんてことはありません。でも、自分の言葉であなたを傷付けたんじゃないかと思ったので、相席を承諾したそうです。話をするうちにとても誠実な人だと理解できたので、自然に打ち解けたそうです。初めてですよ、康子がそんなことを言ったのは。学生時代、友達はいたようですが、グループ行動していて、特定の恋人はいませんでした。告白する人はいましたが、すべて私に相談していましたからよく知っています。でも、将雄さんは初めて会ったのにもかかわらず、緊張せずに2人だけで話せたと言ってました。よっぽど第一印象が良かったんでしょうね」


「僕もあの時は頭が真っ白になっていて、なかなか話し出しにくく、でも話し始めたらよく分からないことをペラペラ話していました。それで調子に乗って、深大寺あたりを案内してもらえないかとお願いしたら、神代植物公園に行ってもらえることになったんです」


「実は康子もね、あなたと神代植物公園に行くことをとても喜んでいたんです。前の日なんかは、どんな服が良いかなって私に相談していました。あんな嬉しそうな康子を見たのは初めてでした」


「神代植物公園での康子、とても可愛かった。ちょうどバラフェスタの時期でしたので、花に埋もれたような様子は私の目に焼き付きました。だから、花よりも康子のほうをじっと見ていたんですよ」


「そうですか。・・・お父さん、康子は最初から将雄さんに思われていたんですね」


 義父はその話に黙って頷いている。


「僕がプロポーズするまでの間、映画や食事、買い物など、普通の恋人同士がやるような時間を過ごしました。でも、だんだんそういうことだけでは心が満たされていないのでは、と思うような瞬間もありました。嫌われたのかなと焦りました」


「将雄さん、それは違いますよ。そういう頃のこと、康子は私に相談していました。自分は本気であなたのことを好きになったけど、将雄さんの本心が分からない、と言っていました」


「そうだったんですか。知らなかった。僕も康子のことが好きでしたが、何か言ったらこの時間が終わってしまうのではと怖かったんです。だから行きつけの喫茶店のマスターに相談して勇気づけてもらったんです。康子はお義母さんに相談したようですが、僕は家族と相談することはありませんでしたから・・・」


「恋愛話、父子で話すようなことじゃないからな」


 私の父が言った。


「でも、康子。そのお店でみんなが演出してくれて、将雄さんがプロボースしてくれたこと、信じられないくらい驚いたし、とても嬉しかった、と言っていました。帰ってきた時、とても興奮していて目には涙を溜めていました。ずっと将雄さんからプロポーズを待っていた、と言っていました。なかなか話が出ないことに不安を感じていたから少し不機嫌な態度が出ていたのだと思います。私に将雄さんからもらった指輪を見せて、嬉しさ満開でした」


 少しずつ葬式の暗さが晴れてきて、私と康子の思い出話、家族と話したことを聞くことができた。


 だが同時に、改めて康子がいなくなった現実を感じる自分もそこにいた。


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