第2話 さっそく死亡エンド!?
四限目の授業が終わると、俺は颯爽と神崎の前に登場する。
「おい、雅人。メシを食いに行こう。本日の学食のおすすめはカレーうどんのようだ」
「白シャツキラーのカレーうどんか……」
「ブレザーを着ればガードできるだろ!」
「だが、それだと暑いんだが。まあいいや、行こう」
神秘の存在するこの世界で僅かな異変を見せれば神崎やその他の魔術師にマークしかねないので、今まで通り友人キャラに徹する。
ここで何も言わずにスルーしたら、「コイツ、何か妙だな。もしや敵組織の仕業?」とか思われそうなので気を付けなければならない。
「あ、私も一緒に行っていいかな? 弁当忘れちゃってさ〜」
横からメインヒロインの金城さんが聞いてくる。
ラノベを終盤まで読んでいるので分かっていることだが、彼女は神崎が好きで昼も一緒に食事がしたいのだ。
ここは空気を読んで二人っきりに、というイケメン友人ムーブをしたいところだが、俺が転生した浅霧はそういかない。
「あっ、全然いいですよ! ぜひ! むしろこっちがいいでんすかね〜?」
と頭をかきながらデレデレするフリをする。
浅霧は可愛い女の子が好きで、金城さんも無論どストライクゾーンなのだ。
「やれやれ、ただでさえ悠一人だけでも
「あっ! ひっどーい! 私は全然うるさくないよ!」
「現に騒がしいんだが。まったく、せっかくの静かな食事が台無しだ」
「可愛い幼馴染が一緒に食べてあげようって言っているのよ!? もっと光栄に思った方がいいわよ雅人!」
「はいはい」
二人は何故か俺を置いてきぼりにして先に行ってしまう。
「ちょっと二人、待ってよ〜! 俺を差し置いてイチャイチャすんな〜」
教室に取り残されそうになった俺は間抜けな声を出しながら二人を後を追うのだった。
演技している俺が言うのもなんだが疲れてくる、俺の実際の性格はこんな陽気じゃないし空気は読める方だと思っている。
友人キャラも簡単じゃないな。
死なずに結末をたどれば、何でもするので我慢するけど。
―――――
午後も違和感なく自分のキャラに徹した俺は、学食でカレーうどんを食して体力回復すると、昼休みに校舎裏に行く。
周りに誰もいないのを確認すると、懐から古びた本を取り出す。
うちの家系で代々から受け継がれてきた魔術について記された本である。
「魔力を流して、魔術を発動する。までのプロセスには慣れたけど、これを更に成長させる手段が見つからないんだよな……」
本に書いてある通りに、手のひらに火の玉を作る。
触ると俺でも火傷する実態を持った”火”だ。
火以外にも水、風、土、光、闇、
魔術家系にはそれぞれ得意属性があるみたいだが、俺の家系はどの属性が得意なのか分からない。
去年、失くなった祖父に聞いたことがあるが知らなかった。
まあ、使っていくうちに解ることか。
そんなポジティブなことを考えていたが、あれから数年。
情報があまりにもなさ過ぎるため伸び悩んでいる。
万が一、敵と戦うことがあれば殺されて終わりだ。
そう思いながら火の玉を手のひらから消すと、
(殺気……!?)
頭上からとんでもない殺気を感じ取って、とっさに回避すると、立っていた場所が粉砕された。
衝撃と砂埃で目を細めると、ほぼ同時に口元を鷲掴みにされて壁に叩きつけられる。
(ぐおっ!?)
「アナタのそれ……魔術じゃないの? そこに落ちている本も、私の家に置いてあるのと一緒」
殺されるのではと涙目になりながら、掴んできた人物を凝視する。
そこにいたのは小柄な金髪のロングヘアーの少女。
鋭い八重歯がギラついており、獲物を見つけた獣のように瞳孔が収縮している。
まるで吸血鬼のような見た目に、俺はさらに呼吸を加速させてしまう。
「き、き、君は……」
恐怖もあったが、俺はこの少女を知っていた。
見た目がちょっと怖くなっているけど、制服を着ているおかげですぐに誰なのかが分かった。
「エミリア・ヴァン・フランソワ。浅霧くん、アナタも魔術師だったのね……」
エミリアさんはヨーロッパからやってきた日本語が流暢な留学生で、転校してから数ヶ月しか経っていない。
物静かな性格だが、クラスの人気者でいつも周りを人が固まっていた。
本人は難しい本を読んで退屈そうにしていたが、その正体は悪の魔術師や異形の存在モンスター(主に吸血鬼)を狩るロンドンの魔術師。
「離して……くれ……俺は敵ではないっ……」
無論、彼女も原作に不可欠な存在。
原作ではサブヒロインだけには留まらず、エミリアルートなる物語が存在するほど重要なキャラなのだ。
エミリアさんは主人公である神崎が黒騎士の子孫だと知り接触する。
彼女は戦闘経験が豊富なため、この世界で魔術やモンスターなどの神秘が存在することを数ヶ月前まで知らなかった神崎に色々と知識を授ける。
そして、まだ未熟な戦い方しかできない神崎に戦闘についても色々と教え込む師匠のような立場になり、そしていずれ恋に落ちる。
エミリアさんは真面目で気難しい性格なのだが、事あるごとに主人公の言動に赤面したりするチョロインで、読者の間でメインヒロインよりも人気だったりする。
「それじゃ聞くわ。どうして、校舎裏で魔術を使用していたの?」
「……れ……練習をしていたんだっ……」
「練習? 何の為に?」
エミリアさんは淡々と質問をしてくる。
まるで尋問するような口調で、怖い。
言葉を間違えれば抹消される。
エミリアさんは自分の不利益になる存在を消すことをモットーにしているため、冗談だとかではなくマジで消されるかもしれないのだ。
「……俺の家系は……継承された魔術の情報があまりにも少ない……だから弱い……」
「弱いから練習していたの? なら、聞いていいかしら? アナタが強くなる理由、目的を言いなさい」
「……」
エミリアさんは見定めるような眼差しで瞳で、俺をジッと見つめる。
宝石のように青く輝く、彼女の瞳孔に見惚れながら告げる。
「『原始の鎮魂歌(ゼロ・レクイエム)』どもを殲滅する……」
『原始の鎮魂歌(ゼロ・レクイエム)』の目的は黒騎士が遺した黙示録を回収して、中身に記されている力で世界をかつての神秘全盛の時代に還すというものだ。
つまり魔術師やモンスターが普通にいた時代に戻して、誰よりも先に世界の特権を握って好き勝手しようというのが『原始の鎮魂歌(ゼロ・レクイエム)』という組織の計画だ。
エミリアさんや、その他大勢の魔術家系は組織の計画を阻止するために奴らと人知れず戦っている。
浅霧家は、その戦いから逃げた。
逃げたからこそ衰退して魔術の情報がほとんど残されていない。
「俺の祖母は殺され……両親は廃人にされた……!」
浅霧の両親は、小学生の頃に組織の襲撃によって崩壊している。
祖母は殺され、母父は奴らの呪いを受けて、現在も病院で植物状態になっている。
だからこそ浅霧 悠は魔術を拒んだのだ。
自分の大切な人たちを傷つけた魔術師を酷く嫌った。
「仇討ちということね……ほう、なるほど」
エミリアさんはそこまで聞くと、口元から手を離してくれた。
体の力が抜けて、その場にへたり込んでしまう。
彼女は、顎に手を当てて何かを考え込む。
俺をどうするのか悩んでいるのだろう。
まずい、せっかく破滅エンドを避けようとしていたのに、裏校舎で魔術の練習をしていたせいで絶体絶命のピンチに陥っている。
しかも、相手は主人公の神崎と深く関わるポジションのキャラクター。
「しかし、君のその魔術のレベルは、お世辞にも奴らに対抗できるとは思えないわ……それもワケありね……ふむ」
エミリアさんは俺の顔を覗き込むようにして近づいてくると、良いことを思いついたかのように微笑んだ。
「浅霧 悠。アナタ、私の弟子にならない?」
(へ?)
原作では本来エミリア・ヴァン・フランソワは神崎の師匠になる人物だ。
友人キャラの浅霧のことは女子のことばかり考えているキモい奴としか認識していない彼女が、この俺に弟子にならないか聞いてきたのだ。
それは俺ではなく、神崎にかけるべき台詞だ。
初っ端から変えてしまったのだ。
原作の本来のストーリーを。
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