原作の主人公に殺される残念モブに転生してしまったが、敵対しないよう友人キャラに徹します。〜何故かヒロイン達が関わってきて、英雄と呼ばれるようになったのですが〜

灰色の鼠

第1話 友人キャラに転生したが、どうやら主人公に殺されるみたいです


 朝のホームルーム前、2年B組の教室。

 窓側で眠そうな黒髪と、陽気そうな茶髪の男子高生の二人が会話していた。


「おはよう雅人まさとよ! 今日も死んだ魚の目をしているなっ!」

「はぁ……なんだゆうか」

「なんだじゃねぇよ! 親友に話しかけられたのに、煙出がったような眼向けんなよぉ。俺は悲しいぞっ!」

「朝から元気過ぎんだろ。お前のせいで、こっちはテンション爆下がりだがな……やれやれ」


 頬杖をついてため息を吐く。

 ノリで言っているのではなく、素でテンションが低い。


「くぅ! お前のその無気力さは一体どこからくるのか!?」

「ほっとけ」

「隣の席が我らが白世高等学校が誇るナンバーワンの超絶美少女! 城金しろがね 結城ゆうきさんだというのに! 自分が世界で一番幸せ者だって自覚しろや雅人!」

「は? アイツのどこが超絶美少女だよ?」

「嘘だろっ、おまっ」

「そういう風にアイツを見るなって。何処にでもいる普通の女の子だよ」


 神崎かみざき 雅人まさとは呆れたように言う。

 カッコつけるための強がりだとか隣の席だからという余裕があるからではなく、この男は本当にそう思っているのだ。


「あのなぁ……」


 キーンカーンコーンカーン。

 それに抗議しようとしたが、チャイムが鳴ってしまう。

 ホームルームが始まってしまうので、急いで黒板側にある自分の席に戻る。


 雅人は後ろの窓側の席に座っており、窓の外を眺めている。

 彼の隣の席は空いており、噂の超絶美少女の姿はない。


 遅刻なのだろうか、それとも今日は休みなのだろうか。

 どっちかは分からないが、雅人はまるで気にしていない様子だった。






 単刀直入に言おう。

 俺は、この世界の住人ではない。

 この世界に転生した、異端者なのである。


 前世は、アニメラノベが大好きなオタクだったのだが、交通事故に巻き込まれて死亡。

 目を覚ましたら、読んでいたライトノベルの世界に転生してしまっていたのだ。


 タイトルは《黒騎士の黙示録》。

 なんだかファンタジーチックなタイトルなのだが、実はこの世界は俺のいた現代日本とはかなり異なった世界観をしている。


 現代ラブコメではない。

 現代ファンタジーにいるのだ。


 一万年以上も前。

 かつて空にドラゴンが飛んでいたり、スライムなどのゲームで定番のモンスターが生息していたことがあった。


 俺ら人とは異なる種族エルフやドワーフも存在していたという伝説も残っており完全なファンタジー世界だったのだが、ある『戦争』によって殆どが滅んでしまう。


 時代は、俺達の知る歴史通りに進んで”魔術”や”モンスター”などの超常現象は衰退、有り得ない事象と言われるほどまで人々の記憶から消えていってしまったのだ。


 時代の流れとは怖い。

 だけど、何もかもが失くなったわけではない。


 密かに、それらを代々から受け継いでいる家系が存在する。

 人々の見えないところに生息しているモンスターもいる。

 それらを秘匿して、権力争いをしている組織も存在しているとのことだ。


 そして、俺の転生したこのキャラ『浅霧あさぎり ゆう』も魔術師家系である。


 しかし残念なことに我々の一家はほぼ魔術とは程遠く、知識も浅い。

 先祖の中に、魔術を継承することに対してあまり乗り気じゃない人物がいたかららしい。


 その結果、うちに残されている魔術の情報はほぼなくなってしまったのだ。

 手のひらに小さな火を付けたり、水を出したり、体をちょっぴり強化したりすることしかできない。


 もうお気づきのお方もいるかもしれないが。

 このラノベ世界の主人公は俺ではない。


 浅霧あさぎえり ゆうは他とはちょっと違うが、普通の男子高校生活を送りたいだけの青年なのだ。


 ちなみに、このキャラにとっての普通の男子高校生活とは。


 可愛い女の子にモテたい。

 美少女に付き合いたい。

 リア充になりたい。

 と、残念な思想の持ち主。


 しかし、さらに残念なことに浅霧のこの作品のポジションは友人キャラ。

 そう、主人公の友人キャラなのだ。


 平穏を望む主人公に事あるごとに話しかけて色々と解説したり、ヒロインにやらた詳しかったりと、うっとおしい実況者のような存在。


 デリカシーのない発言でヒロインに気持ち悪がられたり、主人公に馬鹿にされたりと、かなり不遇な扱いを受けるキャラであり、転生したこの浅霧も例外ではない。


 ちなみに主人公とは先ほど俺が会話していた黒髪黒目の死んだ魚の目をした『神崎かみざき 雅人まさと』である。


 一見普通の男子高校生なのだが。

 その正体は『黙示録』という、この世界で最も貴重な書物を遺した『黒騎士』の子孫である。


 ちなみに書物はすでに神崎の手に渡っており、それを狙って襲ってくる組織と戦っている真っ最中だ。


 死んだ魚の目をしているのも、四六時中かかわらず敵組織が襲いかかってくるため疲労困憊アンド寝不足になっているのだ。


 神埼が扱う魔術はすべて浅霧家の魔術と比べ物にならないほどレベルが高く、教室で眠たそうな顔をしているが、夜になると漆黒のローブを身にまとった最強の魔術師という、中二病をくすぐられる属性てんこ盛りの主人公である。


(羨ましいぃ、なんでよりにもよって俺は……浅霧とかいうキャラに転生してしまったのか)


 奥歯を噛み締め、何も知らない神崎の方に振り返る。

 こちらの視線に気づくと、鬱陶しそうに視線を返してきた。


「おーい、ホームルームを始めるぞー」


 うちらの教室を担当するジャージを着た担任が、プリントを手に教室に入ってくると。


 その後ろをこっそりと付いていっている少女の姿があった。

 銀髪をポニーテールにした赤い瞳、日本人離れした美貌を持つ彼女こそ我らがメインヒロインの『城金しろがね 結城ゆうき』である。


「こら城金、忍び込んでも私の目は誤魔化せんぞ。遅刻だ」


 担任に気づかれ、丸めたノートで頭を叩かれる。

 城金さんは涙目になりながら返事をする。


「す、すみません……実は道端に百万円の入った財布を見つけまして。交番に届けるか持ち主を見つけるまで大切に保管するか迷っちゃいまして……それで遅刻しちゃいました」


 テヘッと舌を突き出し、両手を合わせて言い訳を口にする。

 謝っているつもりなのだろうか、担任に通じるはずがなく頭を二度も叩かれてしまう。





「えへへ、雅人〜遅刻しちゃった。ごめんね〜」

「……? 何故俺に謝る?」

「だってぇ、私がいなくて寂しかったでしょ?」

「なわけ無いだろ。勘違いも甚だしい。いっそのこと学校に来なければ、どれだけ嬉しかったのか」

「うわ〜! ひどいぃ! 幼馴染に対して辛辣すぎ〜!」

「静かにしろ、頭に響く」


 そう言って神崎は机に突っ伏して睡眠をとる。

 まだ朝のホームルームなんですけど、とツッコミを入れたいところだが頑張って悪の組織と戦ってくれているので寝かせてやろう。


 そんな彼を幼馴染であり、この作品のメインヒロインである金城さんは愛おしそうに見つめていた。


 主人公がメインヒロインに好意を持つ。

 なんら異変はないことなのだが、当の主人公の神崎は鈍感なので城金さんの好意に気づいていない。


(死ねっ!)


 主人公の友人らしい感想が浮かぶが口にはしない。

 彼とは敵対したくないので。


 友人キャラなのに敵対したくない理由?

 ああ、実はあと数ヶ月すると友人キャラである浅霧あさぎり ゆうは死んでしまうのだ。


 この作品『黒騎士の黙示録』の主人公。

 神崎 雅人の手によって――――





 浅霧が死ぬのは、神崎の正体を知ったからである。


 学業、魔術、人間性、すべてにおいて彼に劣っているという現実を突きつけられた浅霧は神崎に対して嫉妬心と劣等感を感じるようになり。


 興味のなかった魔術にのめり込み、その末に敵組織『原始の鎮魂歌(ゼロ・レクイエム)』の幹部『セロ』という人物に接触して、敵に寝返る。


 そして必然的に神崎と衝突することになり敗北。

 死ぬ間際に神崎は、彼に「お前を友だちだと思ったことがない」と吐き捨てトドメを刺す。


 ラノベの中盤で死んだ浅霧は読者からも忘れ去られるという、ちょっとだけ同情したくなるようなキャラだが、まあ自業自得感は否めない。


 そうならない為に立ち回るだけだ。


「朝から騒がしいよね、あの二人」


 隣から声をかけられ視線を向けると、留学生の美少女エミリアさんが黒板に目をやったまま微笑んでいた。


 あまりにも魅力的すぎる横顔に引き込まれそうになったが、なんとか堪えて返事をする。


「うん、そうだね。ああ〜羨ましいなぁ、俺も可愛い幼馴染が欲しかった〜」


 それらしい台詞を口にすると、エミリアさんはこちらに視線を向けてクスリと笑った。


「面白いわね、アナタ」


 エミリアさんは金城さんと並ぶ作中屈指の人気を誇るヒロインの一人。

 気を利かせて何かを言うべき場面なのだが、彼女も神崎に深く関わる人物。


 何かの間違いで注目されたら嫌なので、あえて無視するように黒板に視線を向ける。


 ジーッ。


 なんか、すごく見つめられているような気がするのですが、誰か助けてくれませんか……?

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