第35話 事件の匂い



「この私が、直接、動くしかないか……」


 彼女は魔王との対決を想定し、思考を巡らせていく。


「今、動かせる『ラジコン』は……、生徒の森山だけ────こいつ一人では心もとないな……、さらなる力を与えて、魔王にぶつけるしかないか……」



 手駒を増やしたいところだが、天界の力を与えることの出来る適合者というのは、滅多に見つかるものではない。


 今ある戦力を、強化するしかなかった。



 天使カミーユは、森山に自宅待機を命じる。


 …………。


 ……。



「これで、始末できれば良いのだが……」

 

 カミーユは作戦の成功を、神に祈った。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 




 俺が魔王に覚醒してから、数日が経過した。


 今日は休日である。 



「んっ? ……あれ?」


 携帯に着信があったので、確認すると、相手は川村紗耶香(かわむら さやか)さんだった。



 川村さんは美羽のマネージャーだ。

 以前、川村さんが美羽を迎えに来た時に、俺と連絡先を交換していたのだ。


 緊急時に連絡が取れるようにと番号を教え合っていたのだが、これまで彼女から連絡が来たことは無かった。



 ────美羽に何か、あったのかもしれない。


 瑠美を襲った森山は、あれ以来、ずっと学校を休んでいた。だが、ついに沈黙を破って動き出したのだろうか────?


 俺は慌てて、川村さんからの電話に出た。


「────もしもし、あの……、美羽に、何かあったんですか?」


「落ち着いて下さい、池野君……。彼女に何かあった訳ではありません。────今後の事で、少し、あなたと話をしておいた方が良いと思いましたので、連絡させて貰いました。……近くの、ゆっくりと話の出来る場所で、待ち合わせて────話をしませんか?」



 ……どうやら、美羽の身に、危険があった訳ではないようだ。

 

 そうと解り、俺は一先ず安堵する。

 


 それにしても、川村さんが俺を呼び出すなんて……、何の話だろうか?


 彼女に関する事ならば、ちゃんと話を聞かねばなるまい。



「わかりました。それでは、駅前のファミレスで、落ち合いませんか────? えっと、場所は……あっ、はい、そうです。その店です。……三十分後ですね。はい、では……後ほど……はい、失礼します」



 俺は川村さんと、待ち合わせの約束をした。


 何の話かは分からないが、美羽のマネージャーをやっている人から、会って話がしたいと言われたのだ。……直接会って、話を聞いておいた方が良いだろう。


 俺は外出する為に、身支度を整える。


 するとそこで、瑠美とリリスが声をかけて来た。




「────話は、聞かせて貰ったわよ」


「私たちも、お供いたしますわ」


 せっかくの休日なんだし、二人とも家でくつろいでればいいのに……。

 俺はそう思ったが、二人の意志は固いようだ。


「そんな訳にはいかないわ……。だって、事件の匂いがするんだもの」


「私は魔王様の参謀ですから、当然、付いて行きます。────情報収集は基本ですので……」



 瑠美は『探偵ごっこ』がしたいようだ。

 そして、リリスは『参謀ごっこ』がしたいらしい。


 ────二人とも外で遊びたいようなので、一緒に連れて行くことにした。


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