第34話 セーラー服


 瑠美とリリスが話し合って、食事は交替で用意することになったようだ。

 今日の夕食は、瑠美が作ってくれている。

 


 ……ん、携帯が震えている。


 瑠美の母親の陽子さんから、メッセージが届いていた。


 

 『面太君、今すぐに『一人で』家に来て……。いい、絶対に、一人で来るのよ』


 ────何か、用事かな?




 瑠美が今日から、この家で暮らすことになっている。陽子さんが、俺を呼び出すとすれば、それに関することだろうか……?

 

 俺は取り敢えず用件を聞く為に、彼女の要望通り、一人でお隣に向かう。




 チャイムを押すと、家の中から『鍵はかかってないから、中に入って来て……』という陽子さんの声が聞こえて来た。


 俺はドアを開けて、玄関に入る。




「……面太君、一人よね? 他には誰もいないわね?」


「一人できました、入りますよ────?」


 俺は一声かけてから、陽子さんの元へと向かう。



 ────懐かしいな。


 お隣の、幼馴染の家だ。

 

 昔はよく、この家に遊びに来ていた。


 そう思いながら家の中を進むと、リビングに陽子さんの姿を見つけた。


 



 ────彼女の『その姿』を見て、俺は驚きで声を上げそうになった。


 陽子さんは、セーラー服を着ていた。


 昔の、彼女の物なのだろう……サイズが合っておらず、いたるところがパツパツになっている。

 

 思わず『無理すんな、ババア』────というツッコミが、頭をよぎった。

 そんな無礼なセリフは、口に出さなかったが……。



 陽子さんはセーラー服姿で、僕の方をチラチラ見てくる。そして、真っ赤な顔で『こ、これで、良いのでしょう? ……約束通り、その……』と言ってきた。


 ……約束、はて?


 そんなもの、した覚えはない……。

 今の俺に心当たりがない、ということは、恐らく────


 今朝、意識を失っている間に、魔王状態の俺が陽子さんと、何か約束したのだろう。彼女のコスプレ姿も、俺の指示なのだろう。


 だが、俺には、その時の記憶がない。

 どんな約束をしたのか、言って貰わないと分からない。




「あの、……約束とは?」


「もうっ、とぼけて……、意地悪な子ね。私の口から言わすつもり……?」



 陽子さんは意を決したように、俺を見つめて、こう言った。


「この、制服を着たら、……その、朝みたいに、もう一度、キスしてくれるって、言ったじゃない! ……ちゃんと着たわ。……だから」



 陽子さんはそう言うと、目を閉じて、俺にキスを促す。


 ────何してるんだ。魔王状態の俺は……。


 陽子さんは目を閉じて、俺を待っている。

 これは……、しない訳には、いかないだろう。


 俺は陽子さんに近づくと、目を閉じる彼女と口づけを交わした。



 ……。


 …………。



 一仕事終えた俺は、お隣の渡辺家から自宅へと帰還する。


 家に帰ると、料理が出来上がっていた。


 可もなく不可もなくといった味だったが、好きな人が作ってくれたものだと思うと、それだけで、とても美味しく感じた。


 

「────やっぱり、我が家が一番だな」


 俺はしみじみと、そう言った。



 



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「まさか、色欲の魔王の封印が解かれるとは……、厄介な……」


 悪魔リリスの暗躍により、色欲の魔王の力を持った人間の封印に綻びが生じた。



 封印の監視を担当していた天使、『カミーユ』は──

 その顔に焦りと、苛立ちを滲ませる。

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