住みバレ

◆ 【オフ会】 *近坂視点


「みゃ、こっち見て~!」


「はぁい?」

 男性に呼ばれ、なんだろう、と振り向いたその瞬間。



 パシャッ! ──フラッシュがかれ、その眩しさに思わず手で顔を覆った。



「ちょっ……」


 目が眩んで、傍の椅子に片手で掴まる。

 すると、すかさず私の前に誰かが立ちはだかる気配があった。


「貴様ァっ! 写真は最後って言っただろォっ!?」


 その声で、あぁヒカリさんだ、と分かる。


 レベル99のヒカリ──私の活動を応援してくれているリスナーさんの一人だ。



『オフ会まだ?』


 ライブ配信中に、ぽんと投げ込まれたそのコメントが、すべての始まりだった。

 私は読み流していたのだけど、



  :やるなら行く。


  :三連休ならありがたい。


  :この会場オススメ http:──


  :この前そこ行ったわw


  :@みゃ は初オフだから気を遣え


  :マ? オフヴァージン? いく


  :@みゃ 日程のアンケ取ってみては?


  :小規模にしよ 話せなければ元も子もない


  :@みゃ 他のライバーさんが段取りまとめてくれてる http:──


  :@みゃ の私服みたい!


  :バカか制服だろ おまえ死ねよ


  :制服がいい


  :いっそみんな制服で集まる?


  :制服オフwww


  :お前らおちつけ。一回 @みゃ の意見きこうぜ



 私が別のことに気を取られている間に、話は膨らんでいた。

 ネットの人たちとリアルで繋がることに抵抗はあったけれど。


 ……まぁ、いっか。


 それで少しでも『アクセス数』が稼げるのなら、それは私にとって『アリ』だった。


「『お前らおちつけ。一回 @みゃ の意見きこうぜ』 ありがとー。いきなり話広がっててビックリだけど……そうだねぇ、初めてだし、少人数でならやってもいいかな」



 そんな訳で、

 率先してオフ会の段取りをまとめてくれたのも、彼──ヒカリさんだった。


 20代と聞いていたけど、実際に会ってみると、40代に見えた。

 他のライバーのオフを何度も手伝ったという彼は、怖いくらいに手際が良かった。




「カメラは没収したから安心していいよ、みゃ」

「え……」


 化粧室を出ると、すぐ目の前にヒカリさんがいて思わず身をすくめてしまった。

 背は私より少し高いだけなのに、太っているせいで大柄に見える。


「それにしてもあのバカタレ、みゃにこんなショボいカメラを向けるとは正気か」


 彼の手に、インスタントカメラが握られている。


「あとで僕のライカたんで美しく撮ってあげるから安心してね」

「う、ん……──あっ」


 ヒカリさんは、外から包み込むようにして私の両手にそのカメラを握り込ませた。


「と言う訳で、これはきちんと君に渡しておくから……デュフッ。帰ったら処分するんだよ」


 指が太く、手のひらは汗で湿っていた。


「え…………へへ、ありがとぉ~。助かりますー」


 いやな手つきで手首までなぞられ、悪寒がおさまらなかったけれど。


 アクセス数、アクセス数。


 なんとかその場を笑顔で乗り切った。







 集合写真を撮り、その日は解散となった。辺りは暗くなっていた。


「何やってんの? 乗りなよ」


 駐車場でリスナーさんを見送っていると、ヒカリさんは車を動かして私の横につけた。


「えっ、大丈夫だよ。家近いし」

「あ、徒歩? なら、なおさら乗りなよぉ。それ持ったままは帰れないでしょうよ」


 花束や小物など、たくさんの”贈り物”を私は両手にぶら下げていた。


 中でも一番重かったのが、ヒカリさんから贈られたプレゼントだ。

 マイクやオーディオインターフェースなど、ライブ配信のパフォーマンスを上げる機材らしい。


「まぁ……そう、なんだけど……」

「それに、その格好じゃJKマニアの変質者に襲われちゃうよ」


 その格好──

 そう言われて、私は自分自身の服装に目を落とした。制服のままなのだ。


「デュフ。次から制服は、現地で着替えた方がいいよ」

「あはは……慣れてないから」

「まぁ、ひとのことは言えないけど」


 そういう彼もまた、学ラン姿のままだった。


「さ、乗った乗った」


 ヒカリさんが助手席に腕を伸ばしてドアを開けてしまい、仕方なく私は車を回り込んだ。

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