「紅白」を支えたSMAP。原動力は司会6度の中居正広だった。


昨日紹介したのと同じ「別冊宝島」に書いた文章。

2016年末に「NHK紅白歌合戦」とSMAPについて論じたものだ。

ウインウインの関係が壊れることは珍しくないとはいえ、その後のジャニーズ騒動におけるNHKの手のひら返しはひどいものだったなと、改めて感じつつ、これも載せてみる。


・・・・・・


 今から20年くらい前の正月、田舎に里帰りしてきた同世代の友人から『紅白』の話を聞いた。彼いわく、実家で一緒に見た親が「SMAPくらいしかいいと思えるものがなかった」と言ったらしいのである。曲目的には『がんばりましょう』『SHAKE』『セロリ』あたりの時期で、たしかに名曲ぞろいだが、それだけが理由ではないだろう。当時50~60代とおぼしき彼の親がSMAPを特に評価したのは、そこに『紅白』らしさというものを無意識に感じたからだと考えられる。

 では『紅白』らしさとは何か。それは「みんなが知っている人がみんながわかる曲を歌う」ことで生じる親しみであり安心だ。かつて、大衆が歌番組を家族一緒に見ていたような時代にはそういうものが世にあふれていたから『紅白』も人選に苦労することはなく、それゆえ怪物番組となった。が、しだいに探すことが難しくなり『紅白』はらしさを保つために懐メロ志向になるしかなかった。そんななか、連日テレビに出て、わかりやすいヒット曲を連発するSMAPは貴重な存在、おおげさに言えば救世主と化していくわけだ。 

 そもそも、90年代以降、大衆が家族一緒に見そうな歌番組など『紅白』くらいしかない。その年に一度の機会と、SMAPは蜜月関係を持ち続けてきた。デビューした91年に初出場。歌い終わると、司会の浅野ゆう子が「白組のぼくちゃんたち」と呼びかけ「シーちゃんも頑張って」と対戦相手の工藤静香を送り出した。木村拓哉のデキ婚はこの9年後だが、ここからもう何かの物語が始まっていたかのようである。

 翌年にはトップバッターを務め、97年には中居正広が初の司会に起用された。その後、彼の司会は通算6度に及んでいる。そして03年には『世界に一つだけの花』でソロ歌手以外では初となる大トリ。以降も『さかさまの空』で朝ドラ主題歌を担当するなど『紅白』視聴者層への目配りを怠らなかった。05年からの9年間では5度、大トリに選ばれている。これほどの重用ぶりは北島三郎にもなく、63年から10年連続でトリ(うち、大トリ8度)をこなした美空ひばりに迫るものだろう。

 歌謡界の女王と呼ばれたひばり同様、SMAPもまた、年越しに欠かせない「ありがたい」風物詩となっていたのである。

 ただし、両者には大きな違いがある。歌唱力だ。しかし、それも時代の必然といえる。かつて『紅白』らしさは実力派の演歌勢が担っていて、非力とされるアイドル系は脇役だった。それが演歌の衰退により、主役に躍り出たわけだ。なかでもSMAPは歌謡曲性を保ったまま、Jポップ化することに成功。それぞれのテイストを好む世代のコミュニケーションギャップを埋める共通言語としての役割を果たすようになる。

 また、アイドルの歴史がグループサウンズあたりから始まるとすれば、もはや日本人の大半がそういうものに慣れ親しんでいるというところも大きい。それこそ、昔の子供や若者は、好きなアイドルの歌唱力を上の世代にとやかく言われたりして、肩身の狭い思いをしたものだが、いまどきの大人や老人はものわかりがよく、下の世代に意見することには消極的だ。というか、コドモ的なものとオトナ的なものとがすこし曖昧になってきた世の風潮を象徴するのが、中年になってもアイドルであり続けたSMAPなのかもしれない。まして、アイドルが世界に誇る日本文化となった今、バカにできる人も減ったことだろう。何せ、由緒正しき国民的歌番組の大トリがあのSMAPなのだから。AKB系グループのファンなどは、彼らに大いに感謝すべきである。

 そんな何かと「ありがたい」SMAPという存在。事実上のプロデューサーだった飯島三智はそのあたりをよく心得ていたようで、事務所からの独立を画策するにあたり、もうひとつの国民的歌番組への接近を試みていた。『のど自慢』である。東日本大震災の被災地での開催に合わせた特番で、地元の老人や子供と仲良く触れ合う5人。それは『紅白』の顔をめぐって激しく追い上げてきた後輩・嵐のへの対抗策でもあったのだろうが、老若男女に愛されるSMAPという強みをしっかりアピールできていた。

 しかし、SMAPは解散。16年の『紅白』に出場するかどうかは現時点では不明だが、いずれにせよ、NHKは国民的な知名度と人気曲を持ち、番組に親しみと安心をもたらしてきた「ありがたい」存在を失うことになる。和田アキ子を「演歌」だと思っている若者と、ピコ太郎もRADIO FISHも理解不能な老人とをつなぐ最高の潤滑油が使えなくなるのだ。いや、歌手別視聴率でも常にトップ争いをしていた彼らはある意味、老いた怪物番組の延命措置でもあった。

 終わるべきなのは、SMAPよりも『紅白』なのかもしれない。


・・・・・・



この記事を書いてから8年余りが過ぎ「紅白」は延命措置を取り換えながら存続している。SMAPのあとは嵐、そして昨年はB'z。そのあたりが怪物番組たるゆえんだろう。芸能人もまた、それぞれに延命を目指して活動しているわけだが、その命が突然、ぷっつりと絶たれることもある、ということを中居正広が教えてくれた。「紅白」司会6度という偉業もしばらくは語られにくい雰囲気となるはず――。せめて、こういう文章を載せることで、その流れに抵抗していきたい。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る