第17話 飯テロ回!!


 妹のサユが、公衆電話から電話をかけてきやがった。


『た、助けて、お兄ちゃん……』


「助けてって?」


『いろいろあって、逃げてきたの……それで……お金もなくて……』


 やっぱり金を無心してきたよ。

 逃げてきたってことは、母さんと喧嘩でもしたのか?

 昔からサユは母さんが大好きで、言い争ったことなど一度もなかったのに。

 状況が状況だし、しょうがないけど。


「サユよ」


『う、うん?』


「前に俺に死ねって言ったよな?」


『………』


「サユの望み通りお兄ちゃんは死にました。もういません。自分で頑張ってください」


『あ、謝る。謝るから……』


 声が弱々しいな。

 生命力を感じない。

 喉も枯れているみたいだ。


「ちゃんと食ってんのか?」


『コンビニ弁当だけど……』


「そっかあ。お金ないのにコンビニ弁当か」


 今どきコンビニ弁当はご馳走だろ、値段的に。

 自炊してないのかよ。


『お兄ちゃん、お願いだから話だけでも……』


「死んだ人間と話すの? 霊媒師になったんだ。かっこいいね」


『いや、お願い、本当にお願い!!』


「じゃあそろそろお兄ちゃんは成仏します。さよなら」


『ま、待ってーー』


 一方的に通話を切ってやった。

 以前の電話でサユにやられたことだ。


「さて花咲さん、なんか食べに行こうよ」


「いいけど、妹ちゃんはなんて?」


「コンビニ弁当ばっかで飽きたって」


「コンビニ弁当? ふーん。藤井くんはもう食べてないの? コンビニ弁当」


「いや、ちゃちゃっと食欲満たしたい時は食べてるよ」


 本来そういうものだろ、コンビニ弁当は。

 忙しい人の味方であって、決して貧乏人の味方ではない。

 どうせあいつら、ロクに働き口もなくて暇なんだから、節約したご飯を自分で作ればいいのに。


 どうでもいいけど。


「花咲さん、ラーメンとしゃぶしゃぶだったらどっちがいい?」


「う〜ん、ラーメンかなぁ。え、まさか……」


「今日は割り勘」


「なぬっ!?」


「うそうそ。俺から誘ったんだし、奢るよ」


「わ〜い!! ごちそうさまですっ!!」


「じゃあメケを家に戻したらさ、食べに行こうよ。まだお昼前だけど、並んでいるうちにお腹も空くでしょ」


 てなわけで、地元のラーメン屋に訪れた。

 チェーン展開している店で、味噌ラーメンを専門に扱っており、日本各地の味噌を楽しめるのが売りだ。


 とくにチャーシューが分厚くて、味もよく染み込んでいて、美味い。

 俺は味が濃いめの北海道味噌ラーメンチャーシュー増し煮卵トッピングに、味噌チャーハンを頼んだ。


 花咲さんはややあっさりな九州味噌ラーメンに、味噌餃子。


 二人合わせて結構な値段になるが、俺には関係ない。

 毎日食っても家計に何の影響もないのだから。


 さすがに毎日は食わないが。


「すごいね、なんでもかんでも味噌なんだ」


「花咲さんは何味が好きなの? ラーメン」


「うーん。味噌も好きだけど……豚骨かなあ。たまにね、お父さんと食べに行くの、博多ラーメン。国道沿いにあるでしょ?」


「んじゃあ、次に行くときはそこにしよう」


 良いもんだなぁ、好きなものを自由に食べられるって。

 ん、また非通知で電話がかかってきた。

 サユのやつかな。無視しよ。


 注文していた品が運ばれる。

 さっそくスープを一口。


 っ!! 濃厚ッッ!!

 お冷で口直しをすると、また欲しくなる。

 たまらん!!


「ほ〜、味噌餃子って、味噌に付けて食べる感じなのね。てか意外とボリューミー」


「食べきれなかったら俺が食べるよ」


 次に麺をすする。

 もちもち食感!!

 咀嚼した麺を胃に流し込むために、またスープを飲んでしまう!!


 お次はチャーシューだ。お楽しみのチャーシュー!!

 あぁもう、また電話だよ。


「しつこいやつだな」


「話、聞いてあげれば?」


「なんでさ」


「ここ最近真壁と村野さんばかり気にしてたから、あのふたりがどうなってるのかよく知らないんだよね」


「……」


 確かに、多少気になりはする。


「あのふたりへの復讐はまだ終わってないんでしょ? 経過観察的はしとかないとだし。何度も電話してくるってことは、相当切羽詰まってるんじゃない?」


 しょうがないなぁ。

 話だけでも聞いてやるか。


 スマホを手に取る。


「もしもし」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 なんでも、サユは今地元に戻ってきているらしい。

 実家やおじいちゃんの家を訪ねたが、誰もいなかったから電話をかけたのだとか。


 ならどこかで会うか? 母さんがどっかに潜んでいて、ふたりで俺を殺しにかかる可能性もあるが。


 どのみちサユに俺の現住所を教えるわけにはいかないけどいかない。

 母さん共々、繰り返し訪れる可能性がある。

 

 結果的に、先ほどの公園で待ち合わせることにした。

 公園なら人通りも多いし、物騒なことはしないだろう。

 たぶんね。


 花咲さんと公園に向かう。

 ベンチに誰かいる。

 少年のように短い髪、上下スウェット姿の少女。


「サユ?」


 久方ぶりに会った妹に、かつての面影はなかった。

 顔は青く腫れ、おでこには火傷のあと。

 顎には切り傷。


「お兄ちゃん……」


 前歯が2本ともない。

 明らかに異常な外見。

 この子の顔が物語っている。俺と別れてから、どんな目に遭っていたのか。


 俺に取り入るための小細工。

 にしてはやりすぎている。

 しかしあの母親なら、やりかねない。


「いったい、何があった」


 花咲さんが口を挟む。


「その前に、私の家に行こう」


「なんで?」


「こんな状態の子、いつまでも周囲の目に晒しておけない」


 それは優しさによる提案なのか?

 まぁいい、花咲さんがそうしたいなら。

 隣が俺の家だってことは、わかりやしないだろう。


 サユが立ち上がる。

 歩き方がおかしい。

 痛みに耐えているような歩き方だ。


 本当に、なにがあったんだ?






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

次回、サユが逃げ出した理由が明かされます。


応援よろしくお願いしますっ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る