第13話 裏切り

 もし俺ならどう捜すだろう。

 花咲さんを見習って真壁のSNSを調べる。行動範囲を予測する。そして……人海戦術。

 金ならいくらでもあるんだ。そして都内には、金に困った人間が大勢いる。


 とはいえ、SNSもやっていないうえ、田舎にでも逃げられたらお手上げ。

 そもそも、どう調べてどう予測するのかも、俺には難しい。

 ネットは得意じゃないし。


 素直に警察を頼れば手っ取り早いだろうけど、それじゃあ俺があいつを好きにできない。

 徹底的に痛めつけてやりたいのだ。




 あれから数日、未だ花咲さんから連絡がない。

 家にも帰っていないようだ。

 村野を俺の実家に放置して、行方不明。


 お父さんだって心配しているだろう。


「花咲さん、大丈夫かな」


 突っ込みすぎて危険な目に遭っていたとしたら、申し訳なさすぎる。

 花咲さんは映画のヒーローみたいに万能だから、大丈夫だと信じたい。


 真壁のやつはもう母さんやサユに手を出してしまったのだろうか。

 気になるが、こちらから連絡する気にはなれなかった。





 さらに二日後、花咲さんからメッセージが届いた。


【あの家で待ってる】



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 あの家、十中八九俺の実家だ。

 家主不在の一軒家で、おじいちゃんが売却の手続きをしているはずだが、まだ業者は手を付けていない完全な空き家。


 鍵はかかっていない。

 家の中は酷く荒らされていた。

 窓ガラスを割って侵入した不届き者が、金目の物を物色したからだろう。


 リビングに入る。


「やっほー。藤井くん」


 花咲さんがいた。

 ソファに座る彼女の隣にはーー。


「よぉ、藤井」


「真壁…………」


「くくく、動画の件はよくもやってくれたなぁ。ユリカから聞いたぜ、いろいろとな」


「どういうこと?」


 なんで馴れ馴れしく花咲さんの下の名前を呼んでんだよ。

 花咲さんがクスクス笑う。


「ごめんね、藤井くん。いろいろ考えたんだけどさ、私実はずっと前から真壁くんに憧れてたんだよね。身長高いし、イケメンだし」


「……嘘だろ?」


 真壁が高らかに、声を上げて笑った。


「ギャハハハ!! 本当なんだよ藤井!! 街で偶然ユリカに会ってよ、ぜ〜んぶ知ったぜ。お前が大金を持ってることをなっ!! こいつは俺の女になった、また女に騙されたんだよてめぇは!! ギャハハハ!!!!」


 真壁がテーブルの上にあったオレンジジュースを飲んだ。


「花咲さん……」


「思ったんだよねぇ、藤井くんの金を奪って真壁くんと幸せに暮らすのが一番利口なんじゃないかって」


「ずっと、騙していたのか、俺を……」


 真壁がオレンジジュースを飲み干す。


「そういうこった。もうすぐ俺の仲間がここにくる。だろ? ユリカ」


「うん♡ ちゃんとここの場所伝えといた」


「藤井、お前をぶっ殺してカード奪い、暗証番号を吐かせる。怖いだろ? 悔しいだろ? ここで全裸になって土下座したら、殺すのは勘弁してやるよ、たぶんな!!」


「うふふ♡」


「おいユリカ、お前こいつとはヤったのか?」


「まだだけど?」


「けっ、情けねえ男だ。よし、こいつの目の前でセックスするぞ」


「え〜、恥ずかしいって〜」


「そういうなっ…………あれ、なんだ?」


 真壁が目元を抑えた。

 意外と遅かったな。


「どうしたの〜、真壁く〜ん♡」


「なんか……すごく……ねむ……」


 真壁の上半身が倒れかけ、花咲さんが支えた。

 ゆっくりと、横に倒していく。


 呑気な顔で眠ってやがる。

 反対に花咲さんは、スンっと真顔になった。


「ごめん藤井くん。思ったより効きが遅くてキモい演技に付き合わされた」


「わかっててもイラッとしたよ。真壁の喋り方がムカつくのか、花咲さんの演技力が凄いのか」


「ふふ、将来はアカデミー賞主演女優賞かな?」


 やつが飲んでいたオレンジジュースを一瞥する。

 実はこれに仕込んであった睡眠薬が一番金がかかった。

 市販じゃ買えない代物だからね。

 といっても俺の財産からしたら、たかが知れているけど。


「無事でよかったよ。ずっと連絡がなかったから」


「ちょっと忙しかったからねえ。お父さんには連絡してたけど」



 あの家で待ってる。

 花咲さんから送られてきたこのメッセージには、これまでの経緯も記されていた。


 まず花咲さんは真壁のSNSを探したが、なかった。

 なので真壁の学校の友達や、村野のSNSを再度調べ、ヤツの行動範囲を予測。


 過去に遊んでいたエリアを、おおよそ把握した。


「田舎に逃げてるとは思わなかったの?」


「ないね。藤井くん、村野さんだって大学生の彼氏の家に逃げたでしょ? こういう人間は、匿ってくれる悪い友達がいるもんなんだよ。まして真壁のようなタイプは、田舎なんて退屈な場所を避難先にはしない。よく遊んでいる繁華街に潜んでいるだろうって確信があった」


 あとはホームレスや少しやんちゃな男たちに金を握らせて徹底的に捜し回らせ、発見した。

 写真ならあるからね。例の動画から切り抜いたものが。


 その後花咲さん自ら接触し、俺の大金を餌にして、この家まで釣り上げたのだ。

 ワザと俺の恋人だと嘘をつき、真壁のことが好きだったと語ることで、ヤツの懐に上手く忍び込んだみたいだ。


 あいつからしたら、もう一度俺の女を奪って絶望させたいだろうから。

 そして見事、罠にかかった。

 不用心に、武器のひとつも持たず、何の警戒もせず、俺の前に現れてくれたのだ。


 この、呪われた一軒家に。

 マンションじゃあないから、多少騒いだぐらいじゃ誰にも気づかれない。


「あのさ、まさかとは思うけど花咲さん」


「ん?」


「恋人のフリしているとき、真壁になんかされたりした?」


「……ふふ、へ〜。心配なんだぁ。私たち恋人じゃないのに」


「そ、それはそうだけど、別に嫉妬心とかじゃない。ただ……」


「ひひひ、はいはい」


 などと、小悪魔スマイル。


「な〜んもしてないし、させてない。いくら私が名俳優でも、さすがに無理」


「そっか」


「ふふ、よかったね」


「別に……」


 ホッと胸を撫で下ろしてしまったけど。

 いくら演技とはいえ、嫉妬しちゃったのかな、俺。


 まぁいいや。


「さて、出てこいよ、村野」


 キッチンに隠れていた村野が顔を出す。

 彼氏との久々の再会だというのに、無反応だった。


「縄を渡す。縛れ」


「……はい」


「いいのかよ、恋人なんだろ?」


「こいつは、私を助けてくれなかった」


 そうかい。

 ちなみに、真壁の仲間とやらはここには来ない。

 すべて花咲さんの嘘だ。


 眠っている真壁の顔を見下ろしながら、俺は告げた。


「決着をつけようぜ、真壁」







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※あとがき

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