第12話 真壁の逆襲
急いで自転車をこぐ。
呼吸を整える余裕もなく、俺は病院へ急いだ。
受付で手続きを済ませていると、俺に連絡してくれた警察官が声をかけてきた。
二人で病室へ。
頭部を包帯で巻かれたおじいちゃんが、ベッドで眠っていた。
「おじいちゃん!!」
側で待機していた女性警官が立ち上がる。
「藤井りくさんですか?」
「はい……」
事前に警察から話は聞いている。
おじいちゃんの叫び声を聞いた近隣住民が警察に通報。
到着した頃には、すでにおじいちゃんは頭から血を流して倒れていた。
金品などは盗まれていない。
ただ頭部や腹部を鈍器のようなもので叩かれていた。
何発も、何発も。
犯人は大胆にも窓ガラスを割って侵入したらしい。
十中八九、恨みからくる犯行。
明確な殺意が感じられる。
なんとか一命は取り留めたものの、いつ目覚めるかわからない。
「突然のことで動揺しているでしょうが、ゆっくりでいいので答えてください。犯行時刻は深夜4時頃。まずその時間、あなたは何をしていましたか?」
形式的な質問だ。
俺を本気で疑っているわけではないが、一応確認しておきたいのだろう。
もちろん、素直に応じる。
混乱して文法や単語の意味やらめちゃくちゃになってしまったが、どうにか素直に答える。
だんだん、俺の脳細胞が容疑者の特定に集中する。
母さん……いや、おそらくは……。
「では藤井さん、犯人に心当たりはありますか」
「はい」
おじいちゃんはとりあえず大丈夫だ。
後遺症が心配だが、いくら金を注ぎ込んででも完治させてみせる。
それから病院や警察署で諸々の手続きを済ませて、俺は家に帰った。
さっそく花咲さんにすべてを伝える。
彼女も酷く驚いて、申し訳無さそうに目を伏せた。
「ごめん、村野さんを監視するのに集中しすぎた」
「いいや。この可能性をわかっていながら楽観視していた俺が悪い」
「犯人は……」
「あいつしかいない」
また電話がかかってきた。
非通知だった。
「もしもし」
『よう、藤井』
「真壁……」
『大好きなおじいちゃんは元気か?』
「お前……」
『おいおい、俺はな〜んもしてないぜ? 俺の知り合いがやったんだ。勝手にな。けけけ、小学生のころ、お前から聞いてたからよ、お前のじいさんがどこに住んでるのか。あの頃はよく一緒に遊んだな〜』
「警察に話したぞ、お前の仕業に違いないってな」
仮にその知り合いとやらが逮捕されたら、芋づる式にお前に繋がる。
そんなこともわからないのか? それとも、父親の力を使ってもみ消す気か。
『俺はよぉ、もはやどうなってもいいんだよ。親父に勘当されて縁を切られた。名前も顔もネットに上がって、もう俺に未来はねえ。だがな、お前も道連れだ。お前もまた地獄に引きずり落としてやる!!』
「…………」
『次はお前のアホな家族だ。そして最後にお前を殺す。前に言ったろ? 絶対ぶっ殺すってな!! お前が俺に頭を下げるなら、考えてやってもいいがな』
てことはこの野郎、マジでおじいちゃんを殺す気だったのか。
『ぜんぶお前が悪いんだぜ? ザコのくせに調子に乗りやがって。身の程をわきまえろ!! ザコが!!』
一方的に通話を切られる。
自分が犯行予告をしている自覚はあるのか?
やつはもはや自暴自棄。リスクなんか考えちゃいないだろうが。
次は家族とか抜かしていた。
家族。母やサユか。
あいつに居場所がわかるのかよ。いや、あの二人のことだ。真壁から会いたいと誘われたらのこのこと顔を出す可能性がある。
ぶっちゃけどうでもいいが、これ以上あいつの思い通りになるのは癪だ。
「…………」
「藤井くん? なんて言ったの真壁は」
「……クソッ!!」
思いっきり地面にスマホを叩きつけてしまった。
なんとか冷静を装って会話していたが、腹立たしい。
どこまで俺の人生を狂わせれば気が済むんだあのゴミクズは。
無関係な、まったく関係のない人間を傷つけやがって。
「俺が甘かった。社会的制裁を与えてやれば反省すると、心の中で勝手に思い込んでいた。けど、クズはどこまでいってもクズなんだ」
村野もそうやって反省せず彼氏の家に逃げて、痛い目に遭った。
だがこいつは、まだそれほどの苦痛を味わっていない。
まだ、俺への逆恨みを抱いていやがったのだ。
真壁は今どこにいる。
勘当されたとか言っていたな。村野と同じように、家から追い出されたのか。
チッ、あの父親、自分のバカ息子くらいちゃんと管理しておけよ。
「おい村野、真壁はどこにいる」
「ま、まかべ? わかんない……」
「手がかりはないのかよ!!」
「ひっ!! わかんない、わかんないよぉ!!」
使えないな。
こいつを使えば真壁を引っ張り出せるか?
いや、花咲さんが語った村野の話を聞く限り、真壁はこいつを避けている。
理由は不明だが、たぶん助けを求められたりするのが嫌だったのだろう。
「藤井くん」
花咲さんが俺の手を握った。
「私に、なにしてほしい?」
そうだ、俺には花咲さんがいる。
俺一人で抱え込んでいてもしょうがない。
「花咲さん、前払いで一億渡す」
「ん、ん?」
「この一億を使って、どんな手段でもいい。真壁を俺の前に引きずり出してほしい」
「…………」
「あいつは『リスク』とか『失う恐怖』とか忘れて暴走状態になっている。俺が、引導を渡してやる」
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※あとがき
この作品書いていると精神が削られていきます。
楽しんでいただけるよう、頑張りますが。
(予約投稿のミスで次回と次次回のエピソードがうっかり同時公開されてしまいました。読んだ方には申し訳ありませんが、非公開に戻しますっ……)
応援よろしくお願いしますっ!!
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