第6話 下りはじめる

 昼頃、母さんから電話がかかってきて俺は目を覚ました。


『りっくんがやったの!?』


「なにが?」


『なにがじゃないわよ!! あんな……動画をお母さんが勤めている会社に送りつけて!!』


 あー、やったんだ、花咲さん。

 真壁やサユ、村野を含めたセックスの動画を、花咲さんがサユにだけモザイクをかけて会社に送った。

 小規模の会社で経理をやっているのだ、母さんは。


『おかげで母さん恥かいて……ま、また後で電話するからね!!』


 恥とか感じるんだ。


 さて、はじまったな。

 それにしても花咲さんはどんな手を使ったのだろう。

 送ったのは会社で使われているすべての社用パソコン。


 まるで映画に出てくるスパイだな。

 こんな技術を持っていたなんて、通りで自信満々で復讐に手を貸してくれたわけだ。


「てことは、サユもそろそろか」


 案の定、サユからも電話がかかってきた。

 いまは中学校にいるはずだが。


『お兄ちゃんのしわざ!?』


「なにがよ」


『なにがって……動画!!』


「知らないなぁ。もしかしてヤバいことしてて、ガッツリ顔が映ってたとか?」


『映ってないけど、母さん私の名前呼んでるし、制服着たままだったし、私の家に来たことある友達がみんなに言いふらしてるの!!』


 嫌な友達を持ったな。


『なんで!? なんでこんなことするの!!』


 ん? 泣いてるのか?


『クズ!! 真壁お兄ちゃんに嫉妬したからって最低!!』


 クズはどっちだ。


「かわいそうに。きっとネットにばら撒かれて二度と消えないだろうね。中学生の娘を巻き込んで母親がセックス。もはや大スクープだ」


『死ね!!』


 そんな言葉を使うような子じゃなかったんだけどな。


「サユは一応俺の妹だし、中学生だ。顔は隠してあげたんだから、反省しろ」


『黙れ!! クソ童貞!! 男として負けてるゴミ!! 気持ち悪いんだよ!!』


 そこで通話が切れた。

 言いたい放題しやがって。


 スマホから口座アプリを開き、花咲さんの口座に1000万を振り込もうとする。

 口座残高に記された数字、何度見ても圧巻だ。

 バグや冗談なんじゃないかって、未だに勘ぐってしまう。


「ん、さすがに桁が大きすぎてアプリじゃ無理か」


 しょうがない、散歩がてら銀行に行こう。


 振り込みを済ませたあと、俺は近所の公園で花咲さんと落ち合った。


「振り込んどいたよ」


「早いって、はじまったばかりなのに。ありがと」


「さっそく母さんとサユから反応があった。ふたりとも職場や学校で大慌てみたい」


「だろうね。でも、まだまだ終わらない」


「とことん追い込む。精神的にも経済的にも」


「そそ」


 一度やると決めた以上、容赦はしない。

 家族だからとか、良心だとか、そんなもの俺は捨てた。

 悪を懲らしめるために、俺も悪になる。


「ところで藤井くん、今後もおじいちゃんの家を拠点にするの?」


「いいや、ホテルに寝泊まりしようと思う。お金ならいくらでもあるし」


 きっと母さんはおじいちゃんの家に来る。

 サユも、下手したら真壁も。

 そう予想できるから、一旦おじいちゃんの家から離れるのだ。


 あんまり、迷惑はかけられないから。


「ん〜? 藤井くんまだ16歳だよね? 一人で泊まれるの?」


「え、無理かな」


 スマホで検索してみる。

 あ〜、さすがに保護者同伴が必須か。

 参ったな。


「いいよ、私の家に泊まっても」


「はぁ!?」


「事情を話せばお父さん、許してくれるはず」


「い、いやいや!! さすがにそれは……あっ!! そ、そうだ、いっそ部屋を借りて一人暮らししちゃえばいいんだ!! おじいちゃんに保証人になってもらってさ!!」


「ふふ、なに慌ててんの」


「だって……」


「ちなみに、冗談だから」


「なっ!?」


「ふふふ、もしかして変な期待したんじゃない?」


 などと、小悪魔スマイル。

 花咲さんめ、意外とイジワルな性格していらっしゃる。


「この前告られるんじゃないかって勘違いしたくせに」


「それはもう過ぎたことでしょっ!! もう」





 夕方、俺が荷物をまとめていると、おじいちゃんの家に母さんとサユが押しかけてきた。

 が、おじいちゃんは俺に会わせる気などまったくなく、むしろよくも息子(父さん)を裏切ったなと詰め寄って、警察まで呼んでしまった。


 やっぱり怒り心頭だったんだな。

 玄関の外で、二人が叫ぶ。


「待ってくださいお義父さん!! その件は別の機会に謝りますから、まずはりっくんに会わせてください!!」


「お兄ちゃんは私たちを盗撮したんだよ!! 犯罪者だ!!」


 ちなみに、カメラとマイクは前日の内に回収してある。

 それに花咲さんのことだし、誰がメールを送ったか、なんて証拠も残さないだろう。


「私もう学校いけない!! お兄ちゃんのせいだ!!」


「どうして、どうしてこんなことするのよりっくん!!」


 ここまで来ると笑えてくるな。


「お義父さん!! とにかくりっくんに会わせてください!! りっくん!! 聞こえてるんでしょ!! せめて顔を見せて!! りっくんはこんなことする子じゃなかったはずよ!!」


 こんなことする子だったんだよ。

 あんなことする親だったように。


「ワシの家から去れ!!」


「黙ってください!! これは家族の問題ですっ!!」


「家族? 母としての自覚と責任もない尻軽女が」


「なっ!!」


「ぜんぶ聞いてるぞ。息子には散々無理をさせておいて、お前は男遊び。あの子が稼いだ金で男に貢いでいたらしいじゃないか。しかも中学生の娘まで巻き込んで、恥をしれ!!」


 そこで警察が到着し、一悶着あったのち二人は強制的に帰らされた。


 リビングで一息つくおじいちゃんに、お茶をだす。


「ごめん、迷惑かけて」


「気にするな。実は前々からあの女のことは信用していなかったんだ」


「そうなの?」


「死んだ婆さんが、あの女から疫病神の臭いがしていたらしいからな。まぁ、ワシは神など信じちゃいないが」


 なのに父さんとの結婚を許したんだ。

 いや、確か強引に結婚したんだったかな。




 それからおじいちゃんと相談して、俺は近所のマンションに引っ越すことにした。

 家具や食器などを買い揃えている時間はないけれど、どうせ仮の住まいにするつもりだし、問題ない。


 たまたまおじいちゃんの知り合いがマンションのオーナーらしく、翌日から空き部屋を使わせてもらえることになった。


 諸々の手続きは、後日に行う。


「おじいちゃんありがとう。いくらか振り込むから、自由に使ってよ」


「いらん」


「え?」


「金なんかいらん。貯金なら充分にあるし、年金もある」


「けど……」


「自分のために使いなさい。そのお金は、お前の努力が報われた結果なんだから」


「…………」


 目頭が熱くなる。

 努力が報われた結果、か。

 おじいちゃん、神様はいると思うよ。


 悪い神も、良い神もね。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※あとがき

ここからどんどん転がり続けます。

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