第5話 花咲ユリカの事情
花咲さんがどうして俺に復讐を煽るのか。
どうして、協力したがるのか。
まずはそこを知りたい。
花咲さんがポケットからミニサイズのペットボトルを取り出した。
健康的な、ウーロン茶だった。
蓋を開け、ぐいっと飲む。
「ふぅ……うーん。そうだな〜。たぶん、八つ当たり的な」
「八つ当たり?」
「前にも言ったけど、私の母さんが浮気したのよ。でね、私はその浮気相手との子供だったの」
托卵だ。
サユもそうだったように。
「お父さんブチギレ。私も……自分のことが大嫌いになった。自分の人生が無価値なもののように感じたの。だって私は生きてるだけでお父さんを悲しませる存在で、母さんの愚行の結晶でしかないんだから」
語る花咲さんの声に、涙が混じった。
「怖かった。あんなに私のこと愛していたお父さんが、私をゴミを見るような目で見たときは」
「でも花咲さんは悪くないだろ?」
「うん。だからお父さんは、改めて私を娘として育てるって決意してくれたの。おかげで今は仲良し。……でも母さんはそれを許さなかった。親権を奪おうとしたうえに、慰謝料まで取ろうとした」
「浮気したくせに?」
「お父さんから日常的にDVを受けていたって、でっち上げたの」
どこまで面の皮が厚いんだ。
「まぁ、弁護士さんが頑張ってくれたおかげで結局払わずに済んだし、私は今もお父さんと暮らしてる。けど、あいつは何のお咎めもなく、逃げ切った」
「じゃあ、八つ当たりってのは」
「あのとき晴らせなかった『あいつ』への復讐を、同じようなやつで晴らしたいってこと」
「そっか……」
「どうして、意味もなく人を不幸にしてまで、しょうもない欲望を満たそうと思えるんだろうね、ああいうやつらは」
全くもってその通りだ。
どこの誰と恋愛しようが、自由ではある。
けど、わざわざ他人の尊厳を蔑ろにするのは、人非人のやることだ。
「わからせてやりたい。花咲さんと一緒に」
ニコリと、花咲さんが笑った。
「いいね、やろっか」
「一人に復讐するごとに花咲さんに報酬を渡すよ。一人いくらがいい?」
「うーん。正直な事言うとウチ貧乏なんだよね。お父さんまだメンタル回復しきれてなくてさ、たまに休むし、私のバイト代プラスしてもたかが知れてる。だから本音を隠さず言うなら、割と高めがいいかも」
「お金に困ってるなら、なおさら無償で半分上げるのに」
「それはさすがに気が引けるんだって。そこまで追い詰められてないし。だから、報酬としていただきたいわけ」
「……じゃあ、一人につき1000万。四人で4000万」
「おぉ〜。わかった、契約成立」
「でも、何をどうするの? 15億で怖い人でも雇うとか?」
「そんなんじゃないよ。まずは社会的制裁を受けてもらう。藤井くんの15億が活きてくるのはそのあと」
「???」
「一度裏切った相手に救いを求めるとき、人はなりふり構わなくなるんだよ」
まずは15億受け取りまでの一週間、俺はおじいちゃんの家で過ごすことにした。
おじいちゃんには、洗いざらい話した。
何も語らなかったが、父方の人間だから怒りを覚えているのは間違いない。
母さんは心配して電話してきたりおじいちゃんの家まで来たりしたけれど、無視した。
だって『バイトはちゃんと行けてるの? 稼いでくれないと厳しいわ』なんて質問してきたんだぜ?
家のローンがまだ残ってるから、俺に払ってほしいんだ。
母親としてのメンタルケアなんかまったくしてくれない。
誰のせいでこうなったと思っていやがる。
サユも『心配だよー』なんてメッセージを送ってきたけど、心配なら会いに来いよ。
本当に、つくづく思い知る。
あいつらの価値観や倫理観のズレを。
毎日顔を合わせて大事に想っていたのは俺だけ。あいつらは上っ面の愛情を向けていたにすぎない。
気持ち悪い。
さて、この一週間で俺は花咲さんの指示に従い、自宅のリビングや俺の部屋に隠しカメラと小型マイクをセットした。
昼時なら誰もいないし、簡単だった。
なるほどね、隠し撮りしてそれを晒してやろうってわけだ。
案外普通だけど、確実ではある。
しかし後々15億が活きてくるってどういう意味だ?
そして来たるべき日、俺は銀行で15億を受け取った。
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※あとがき
次回から復讐開始です。
最初は軽いジャブ、だんだんパワーアップしていく予定です。
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