第12話 冬の雪山でヒロインと二人きりだが
冒険者の仕事とは依頼主から依頼を受け、それを完遂することである。その内容は下水道の獣駆除から人に危害を加える魔獣の討伐、はたまた犯罪者の捜索、及び捕獲または討伐の他、未知の食料や植物、前人未到のエリアの踏破と測量などなど、多種多様なものが挙げられる。
一流の冒険者は季節と地形を選ばないという言葉があるが、何時でも。何処へでも赴き、依頼を完遂して帰還を果たすのが冒険者の役割なのだ。
そして、そんな冒険者に最低限必要なスキルはないかと言えば、単純な強さもそうだが、どんな環境であっても必ず生きて帰ってくるサバイバル技術なのだ。
このイベントはそんな冒険者の生活を表したイベントの1つであると言えるだろう。
それが雪山で一夜を過ごすという、普通にあり得ないサバイバル課外授業だ。
1年目の今年はまだマシだ。
雪山で明かすのは1日だけだし、インスタントでもマトモな温かい食事ができるのだから。
2年になる来年はヘルウィークと呼ばれる1週間の雪山行軍だ。
温かい食事?舐めてるのか?冒険者ならレーションでも齧ってろ!
寒いだと?防寒対策を怠るな!死ぬ気か?
指定された目標地点まで雪山を縦断して来い。出来ないなら冒険者辞めちまえ!
という実に香ばしい地獄だ。まるで第1空挺団に来たような錯覚を覚える。
これだけ聞けば自殺行為のようなものだが、ちゃんと安全面の配慮も当然ある。
それでも本当の冒険者生活の疑似体験でもあるため、死ななければいい程度のものだが。ヘルウィーク実施までにサバイバルに関する知識と技術は教えているのだから、それくらい自分で解決しろということだ。
幸い、過去に死者は1人も出ていないのが救いなのかもしれない。
そして、俺は今、吹雪が吹き荒れる雪山の中を学校の仲間達と共に20キロ近い荷物を背負いながら予定されているキャンプ地に向けて歩いている。
寒いし、雪で足は前に進むことすら大変だし、何より吹雪で5メートル先は真っ白。微かに学校から支給された統一の防寒着が視認できるくらい酷い吹雪だ。
前世の世界ならプロの登山家だってアタックを中止するだろうが、ここは冒険者を目指す冒険者学校。
「吹雪だから中止になると思っただと?舐めてるのか?もしお前が依頼を受けて、その1日ないし数日後回しにして、依頼主、またはその周辺の人達に取り返しのつかない甚大な被害が出たらどうするんだ?」
普通にそう返されるだろう。
冒険者の世界とはかくも厳しいものである。
それでも冒険者学校が名門進学校並みに人気があるのは、冒険者になれば一攫千金と名誉を得るチャンスが、冒険者にならなくても卒業すれば職に困る事はないため将来を約束されたものだからだ。
数時間後。俺達は1人の脱落者もなく目的地へと到着した。
したのだが、辺りは一面雪景色。吹雪は酷くなるばかりだ。
「今日はここでビバークをする!決められたペアと二人一組で雪穴を掘って野営に備えろ!」
引率のガイ先生が指示を出すと、俺達は各々に穴を掘ったりなど準備に取り掛かった。
因みに先生はこの吹雪の中半袖でいる。
この人、もう人間じゃない気もする。
俺とペア組んでいるのはチョロインのミナ。
俺はミナに横穴掘りを頼むと、太めの枝を探し出して雪を枝の周りに固めたら、転がして更に大きくする。
すると中央に枝の入った雪でできた円柱のものが出来上がる。さらにそこへ枝を外して横穴を開けると簡易性のコンロの完成だ。俺はそれを抱えながらビバークをする穴に入ると、ミナは不思議そうな顔をする。
「なにそれ?」
「雪で作ったコンロみたいなものだ」
穴の中に木の枝を入れて火を付けると、火が穴の中で勢い良く燃え上がる。
「ちょっと!?何してるの?!雪だから溶けちゃうでしょ?!」
「それが大丈夫なんだよな」
不思議な事に雪が溶けることなく火が燃え続けている。
「ほえ〜不思議ね」
「これなら暖が多少なりともとれるから火を絶やさないことと空気穴が塞がれないに気をつければいい」
「へ〜物知りだね!どこで知ったの?」
「村でハンターをやっていた人からの知恵さ」
当然ウソである。
たまたま知った前世での知識だ。
きっと世界の何処かではこの技術はあるのかもしれないが、この冒険者学校では教わらないようだ。
俺は時折集めていた枝を入れてる。雪穴の中は防寒着で過ごす分なら幾分かマシなくらい温かい。俺はミナと交代しながら仮眠を取り、目が覚めたらヤカンに雪を入れては温めのお湯にして水分補給に努める。
「ねえ…君はなんで冒険者になろうとしたの?」
夜、横になったいるミナに唐突に話しかけられた。
なんで冒険者にか……
考えたこともなかった。
この世界は俺にとってはゲームという仮想空間の中で経験していた世界だからだ。だからこの冒険者というのになるのはある意味必然だったからだ。ただ、それをどう説明してよいのか考えていると。
「私は……」
ミナが勝手に自分の話をし始めた。
俺は黙って聞いている。
聞いてるという聞いてるフリだけしている。
彼女が冒険者になろうとした理由を知っているからだ。だから敢えて何も聞こうとはしなかった。
彼女が話をしている間、俺は頭の中で話を組み立てていく。
彼女が話し終えた後、俺はゆっくり話をし始める。その内容は冒険者になって、有名になって親に楽をさせてあげたいというありきたりなものだ。
そんな話を俺はし始めてすぐに…
「すぴー…………」
こいつ、人の話を最初から聞いちゃいなかった。
恐ろしく速い寝落ち。
俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
雪玉を顔面に投げつけたい欲求を抑えるのにかなりの労力を費やしながらも俺達は夜を明かした。
次の日の朝には天候が回復し、太陽が眩しいくらいに輝いている。
「んー!良く寝た!ごめんね〜寝てばっかいちゃって♡」
「イエイエ、トンデモナイデス」
「どしたの?表情硬くない?」
「サムカッタノデ」
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