第1話 我が主は、学園最弱の剣士なのですか?
はるか昔、この世界において次元崩壊と呼ばれる現象が起こった。
ワールドブレイク――多次元に存在する様々な世界が、次元の壁が壊れてしまったために混ざり合い、一つの世界となってしまったのだ。
その結果、世界は様々な種族が入り乱れた状態となった。世界中にモンスターや怪生物があふれている。
そして、最も数が多く、最も弱い種族が人類であった。
他の種族に生活圏を奪われないようにするため、世界を支配する種族として君臨し続けるため、人類は魔術や武術を修得し、未来へと繋ぐ人材を育てていた。
剣剣星は、先祖代々続く剣士の家系に生まれた。
一族の者は全て剣士であり、先祖の中には剣豪として名を残す者もいた。
剣家と言えば剣士の名門と評されるぐらい、剣の名を持つ者には優秀な剣士が多かった。
だが、何事にも例外はあるものである。
剣士の家柄に生まれながら、剣星には剣の才能がなかった。それも悲しいぐらいに。
物心付いたばかりの頃から剣の修行をやらされている。決してさぼってなどいない。むしろ他人より練習量は多いぐらいだ。
なのに彼の腕前はひどいものだった。人並み程度ならまだ救いもあったのだが、人並み以下なのだからどうしようもない。
宝探しに出掛けた翌日、剣星は街の北側にある学園へ向かって歩いていた。
その足取りは非常に重かった。今日もまた武術科の授業を受けなければならないのかと思うと帰りたくなってくる。
「はあ。なんで剣の才能がないのに剣術の勉強しに行かなきゃならないんだろ……どうせなら魔法の勉強をしたいよな……」
この世界では個人単位のステータスがアイテムなどによって数値化され、
技量、敏捷性、器用さ、体力に腕力といった項目の数値から総合的に判断され、その人物のレベルが決まる。
学園に入学する生徒はレベル3以上の者がほとんどなのだが、剣星はいまだにレベル1だった。
剣士の家柄に生まれた剣士なのにレベル1。剣術を習い始めたばかりの子供と同じレベル。
おかげで学園において剣星の名前を知らない者はいない。無論、悪い意味で。
学園にたどり着き、校門を抜けて校舎へ向かう。
周りにいる生徒達が剣星をチラチラと見て、ニヤニヤと笑う。笑われるのはまだいい方で、中には泣きそうな顔をして涙ぐむ者までいる。剣星の境遇に同情して憐れんでいるのだ。大きなお世話だと思う。
歩いている者のほとんどは武術科の生徒だが、ごく少数、制服の上からケープを羽織っている生徒がいる。魔法科の生徒だ。
魔道を収めるのは難しく、天性の才能に加えてかなりの知識がないと無理だと言われている。そのような理由から魔法科の生徒はエリート扱いされていた。
魔法科の生徒を見掛けるたびに、剣星はうらやましく思っていた。
自慢ではないがそれなりに魔道の知識はある。魔法の才能にしても、剣の才能よりはあるはずだ。
職業を剣士から魔法使いに変更してしまえば……と思うのだが、そんな事をすれば実家から追い出されてしまうだろう。今はまだ無理だ。
武術科専用の校舎に入り、一年生の教室が並ぶ二階へ移動し、教室へ向かう。
クラスの皆の反応も他の生徒と似たようなもので、剣星の姿を見るなりニヤニヤしたり、憐れむような眼差しを向けてくる者がほとんどだ。
ため息をつき、自分の席に着くと、そこへ生徒の一人が声を掛けてきた。
「よう、大先生。相変わらず景気の悪そうな顔してるな」
「おはよう、村上。大先生はよせって言ってるだろ」
彼の名は村上。背が高く、明るく陽気な男だ。一応、剣星の友人である。
剣星の家が剣士の名門なので大先生などと呼んでいる。皮肉以外のなんでもないが、親しい彼だからこそ口にできる呼び名だ。
「あらおはよう、剣君。まだ退学になっていなかったのね」
そこで声を掛けてきたのは、長い金髪を三つ編みにした、美しい少女だった。
ミウル・シュナイダー。騎士の家系に籍を置く、剣の才能に恵まれた少女。
レベル10の剣士であり、一年生ではトップクラスの実力者だ。
すごい美人ではあるのだが、剣星は彼女が苦手だった。実家の関係から剣星をライバル視しているらしく、やたらと絡んでくるのだ。
「剣家の剣士は優秀な方ばかりと聞いていたのに、期待外れもいいところだわ。あなたは一体、今まで何をしてきたの?」
「え、ええと……主に素振りを……」
「ふざけないで。もっと真面目に鍛えたらどう? みんなに馬鹿にされて恥ずかしくないの?」
恥ずかしくないわけがない。いつものように説教をされ、剣星はうんざりした。
ミウルのように才能があって実力もある人間は、剣星が努力していないからだめなのだと考えるのだ。
世の中には努力をしても結果に結び付かない人間がいるという事を理解していない。
剣星を助けてやろうと思ったのか、そこで村上が割り込んできた。
「それよりさ、大先生。さっきからずっと気になってる事があるんだけど」
「あら、奇遇ね。実は私も気になっているのよ」
ミウルが同意し、二人そろって剣星に妙な目を向けてくる。
「な、なんだよ? 僕の顔に何か付いてる?」
「いや、顔じゃなくて後ろに……」
「後ろ?」
怪訝に思いつつ、背後に目を向けてみる。
するとそこには、長い黒髪をなびかせた美しい少女が立っていた。
「おはようございます、剣星」
「き、君は昨日の……!」
それは魔導師ゴルデウスの隠れ家で出会った、魔剣が変化した少女、サヤだった。
身体にぴったりとフィットしたノースリーブの黒いワンピースミニを着ていて、手にはロンググローブ、スラリとした長い脚にはニーソックス、ショートブーツという、昨日と同じ出で立ちでたたずんでいる。
笑顔で挨拶をしてきたサヤに、剣星は目を丸くした。
「ど、どうしてここに? ていうか、いつからいた?」
「剣星が家を出た時からずっと、後を付いてきました。なぜここにいるのかと言えば、それは剣星がいるからです」
「僕がいるから? どういう事?」
「剣は剣士と共にあるべきだからです。傍にいて当然でしょう」
昨日はいきなり消えたので幻覚だったのかと思ったが、どうも違ったらしい。
「でも、昨日はなんで消えたの?」
「侵入者撃退用のトラップを踏んでしまいまして。隣の山まで強制転移させられたのです」
「そ、そんな罠があったのか……でも、よく僕を見付けられたね」
「剣星の気配は覚えましたので。居場所を特定するのは簡単でした」
すまし顔で胸を張るサヤに、剣星は戸惑うばかりだ。
「なあ、大先生。その子は誰だ? ここの生徒じゃないよな」
村上から質問され、剣星はハッとした。
見るとミウルが不審そうな目で見ていて、他のクラスメイト達もサヤに注目している様子だった。
「え、ええと、彼女はその……ちょっとした知り合いというか……」
なんと説明したものかと迷っていると、サヤが落ち着いた口調で呟いた。
「私は剣星の所有物です」
「しょ、所有物?」
村上が驚き、クラスの皆がざわめく。ミウルは目を丸くして固まっている。
剣星は赤面し、慌ててサヤを注意した。
「ちょっと! 誤解されるような言い方はやめてよ!」
「誤解? いえ、私は剣星の所有物で間違いありませんが……何か問題でも?」
「問題大ありだよ! もう少し言い方を考えよう!」
するとサヤはコクンとうなずき、改めて皆に告げた。
「私は剣星の道具です」
「おいいいい! 何を言い出してくれてんの!?」
「だめですか。では、剣星に絶対服従な、とても便利な女とでも言っておきましょうか」
「やめて! みんなの視線が刺さってきてすごく痛い!」
「もっと単純に言うと、剣星の女です」
「も、もういい、黙れ! 君は何も言わないで!」
サヤに悪意はないのか、不思議そうに小首をかしげている。
教室がざわめき、生徒達が剣星に好奇な目を集中させてくる。
いつもとは違う意味で注目されているのが分かり、剣星は真っ赤になった。
「へ、へえ、大先生もやるねえ。なあ、ミウル」
「……」
「ミ、ミウル? だ、大丈夫か?」
ミウルは無言でたたずみ、サヤを見つめていた。
視線を剣星に移し、ギロッとにらんでくる。
「剣の腕はてんでだめなくせに、女の子を引っ掛けてくるなんて……そういう人だったの、あなた」
「い、いや、違うんだ。これには色々と複雑な事情が……」
「ふん、好きにすればいいじゃない。私には関係ないし」
不愉快そうに呟き、剣星にクルリと背を向け、ミウルは自分の席へと戻っていった。
うろたえる剣星にサヤが身を寄せ、囁いてくる。
「生意気な女ですね。斬っちゃいますか、剣星」
「怖い事言わないでよ。それにミウルは一年でトップクラスの剣士なんだぞ。僕なんかが敵う相手じゃ……」
「そうでもないですよ。あの程度の相手なら楽勝です」
「あの程度って……ミウルの実力も知らないでそんな……」
「レベル10の剣士でしょう? 大した事ないですよ」
サラリと呟いたサヤに、剣星はギョッとした。
「な、なんでミウルのレベルを知って……誰かに聞いたの?」
「私には相手のレベルを計測する能力がありますので。この目で見れば分かります」
通常、レベルの判定には特殊なアイテムが必要だ。
サヤにはそういったアイテムと同等の
「レベルが分かるんなら、僕のも分かるよね。このレベルで勝てると思う?」
「確かに剣星のレベルは低いですね。ですが、問題ありません。私を武器として使えば、その程度のレベル差を埋めるのは容易です」
「そ、そうなの? すごいんだね」
自信満々に言うサヤを見つめ、剣星は感心した。魔剣とはそこまで強力なものなのか。
実力では絶対に勝てないはずのミウルに勝てるというのなら、ちょっと試してみたい気もする。
「それより、勝手に入ってきちゃだめだろ。授業が始まる前に教室から出てよ」
「お断りでございます」
「なんで!?」
「私は剣星の剣です。傍から離れるわけにはいきません。なので、ここにいます」
「い、いや、でもね? ここは関係者以外立ち入り禁止だし、部外者がいてもいい場所じゃなくて……」
「私は剣星の関係者です。部外者ではありません」
サヤはすまし顔で淡々と呟き、剣星の傍から動こうとしなかった。
周囲の注目を集めまくっているし、教師に見付かれば追い出されるに決まっている。なんとかしなければ。
「じゃ、じゃあさ、せめて隠れててよ。先生達から見付からないように」
「……それは命令ですか?」
「命令じゃなくてお願いだよ。頼むから言う事を聞いて」
「……」
サヤは不満そうだったが、主である剣星の頼みでは断れないのか、コクンとうなずいた。
彼女が目を閉じると、その姿がフッ、と消えてしまい、見えなくなる。剣星は胸をなで下ろし、自分の席に着いた。
「はあ、どうなるかと思ったけど、これで安心かな……」
「……いや、そうでもないみたいだぜ?」
「えっ?」
村上が呟き、教室の後方、隅の方に目を向ける。そこにはゴミ箱があった。
ゴミ箱の陰に身をかがめて隠れているサヤを見付け、剣星は冷や汗をかいた。
瞬間移動か何かでどこか遠くへ行ったのかと思いきや、単にすばやく動いて物陰に身を潜めただけのようだ。
「まだいるし……見付かったらどうするつもりなんだ……」
「見付からないよう祈るしかないんじゃねえの? がんばれよ、大先生」
「大先生はやめてくれよ……」
なんだか面倒な事になってしまい、剣星はため息をついた。
そんな彼の姿を離れた席から見つめ、ミウルは眉根を寄せていた。
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