混沌世界の魔剣使い ~レベル1の最弱剣士は最強クラスの魔剣の使い手~

之雪

第0話 魔剣発見! あなたが私の主《マスター》です!


「ここか。ついに見付けたぞ」


 街から遠く離れた郊外、名もなき小さな山の麓に、半ば崩れかけた石造りの建物があった。

 少年こと剣剣星つるぎけんせいは建物に入り、足元を注意深く観察しながら床の上を歩いた。

 とある場所で足を止め、膝をついてしゃがみ込み、床の上に積もった砂を払う。

 長い角の生えた山羊の頭部を象った、紋章らしきものが描かれている。持参したボロボロの地図を広げ、それに記されているのと同じ図形なのを確認し、笑みを浮かべた。


「同じだ。すごい、本物だったんだ……!」


 床の隅に、砂に埋もれた取っ手があった。取っ手を引くと、ズズッと石を引きずるような音が響き、紋章が描かれた部分の床が動いて四角い穴が開いた。

 隠し部屋への入り口だ。

 剣星は荷物からランプを取り出し、火を灯して、穴の中を照らした。下へと続く階段がある。

 ゴクリと喉を鳴らし、剣星は階段を下りていった。


 剣星がその地図を手に入れたのはまったくの偶然だった。

 街で開かれた古物市の片隅で古書を売っている魔法使いがいて、そこに並んでいた魔道書を購入したところ、本の間に地図が挟まっていたのだ。

 しかもただの地図ではない。伝説の大魔導師、ゴルデウスの隠れ家を記した地図だったのだ。


 魔導師ゴルデウスは、数百年前に存在したという伝説の魔導師である。

 魔道を極め、数々の呪文を構築し、様々な魔法具を生み出したと言われている、偉大なる大魔導師。

 数百年前、『この世界』が不安定の極みであった戦乱の時代、魔導師ゴルデウスの協力により、人類は魔族などの他種族からの侵略を食い止め、

勝利する事ができたのだという。


 今となっては、御伽話の中に存在するのみの、実在したのかどうかも怪しい人物ではあるが、『大魔導師ゴルデウス』の名は、しっかりと残されている。

 彼が構築したという数々の呪文は魔法使い達に継承されているというし、製作した魔法具などはレアアイテムとして存在しているらしい。たまに市場に出てきては、かなりの高額で取引されているとか。

 ここが彼の隠れ家だとすると、とんでもないお宝が隠されているのかもしれない。

 期待と不安に胸を躍らせながら、剣星は石造りの階段を下りていった。


 どのぐらいの深さまで下りたのか。ようやく階段の終点にたどり着いた。

 階段を下りた先にあったのは、円形のかなり広い部屋だった。

 壁に青白い光を放つ水晶のような物がいくつも設置されていて、ランプの光なしでも部屋の様子が分かった。

 家具の類は一切なく、床一面に魔方陣が描かれていて、いかにも魔導師が何かしていそうな部屋だった。

 魔方陣の中心に妙な物があり、剣星はハッとした。


「なんだあれ……剣、かな?」


 四角い石碑のような物が床の上に置かれ、その上に剣らしき物が生えているというか、突き刺さっている。


「そう言えば、魔導師ゴルデウスは魔剣を作ってたって聞いた覚えが……じゃあ、あれって魔剣?」


 ゴクリと喉を鳴らし、剣星は少しずつ歩みを進め、魔剣らしき物体に近付いてみた。

 近くで見てみると、やはりそれは剣に見えた。露出しているのは柄の部分のみで、刀身は石碑に埋まっている。

 柄の色は真っ黒で、グネグネした不気味な装飾が施されていて、まさに魔剣といった感じだ。

 大きさから見て、かなり大型の剣だと思われる。


「すごいな。これが魔剣か……」


 うかつに触れては危ないのでは、とも考えたが、せっかくここまで来たのだ。

 意を決し、剣星はそろそろと柄に手を伸ばした。そうっとつかんでみたが、罠が発動したり呪われたような気配はない。

 長い柄を両手で握り締め、両脚を肩幅に開いて踏ん張り、力を込めて真上に引いてみる。


「おりゃっ! って、うわあ!」


 ズルッと。

 あまりにもあっさりと剣を引き抜いてしまい、剣星は勢い余って後ろ向きに倒れ、尻餅をついてしまった。

 痛みに顔をしかめながら見てみると、握り締めた剣の柄から幅広の黒い刀身が伸びていた。


「あ、あれ? なんだこれ?」


 刀身が湾曲し、刺さっていた石碑まで伸びている。というか、まだ抜けきっていない。

 予想していたよりもかなり長い剣のようだ。それにしてもこれだけ反り返ってしまうとは、意外と弾性のある材質でできているのか。


「と、ともかく引き抜いてみよう……よっ、はっ……」


 立ち上がり、剣を引っ張りながら後ろに下がる。幅広の刀身がズルズルと石碑から出てきて、いくら引いても途切れない。

 なんだか変だと思ったが、今さらやめるわけにもいかず、剣星は広い部屋の壁際まで後退した。


「んっ、あれ、なんか引っ掛かって……ぬ、抜けない……!」


 やっと終わりかと思いきや、今度はそれ以上動かなくなった。剣星は歯を食いしばって踏ん張り、どうにかして剣を引き抜こうとした。


「んんっ、んんんんんん……てやあ!」


 ズボッと剣が抜け、石碑が粉々に砕け散る。長々と伸びた剣の先に何か大きな物体が生えているのに気付き、剣星はハッとした。


「えっ……ええっ!? ひ、人が生えてる……?」


 そう、それは人間らしき物体だった。木の根のように長く伸びた剣の先に、人間が生えている。

 丁度、剣先が頭頂部に突き刺さったような状態だ。石碑があった場所にうずくまっている。

 剣星は驚き、握り締めていた剣の柄を放り出し、その人間らしき者に駆け寄った。


 床下に埋まっていたのだし、普通に考えれば生きているはずはないのだが、どうも生きているらしかった。大きく伸びをしてあくびを漏らしている。

 それはとても美しい少女だった。長い黒髪に白い素肌、細身で華奢だが出るところはかなり出ていて、発達しまくった胸のふくらみが目を引く。

 黒い、肌にぴったり張り付いた服を着ていて、身体のラインが丸分かりだった。

 ものすごい美人ではあるが、絶対に普通の人間ではない。もしかすると封印されていたモンスターなのかと思い、剣星はゴクリと喉を鳴らした。


「あ、あの……」

「?」


 おそるおそる声を掛けてみると、謎の少女は剣星に目を向け、小首をかしげた。

 そこで少女はハッとして、すばやく立ち上がり、薄く笑みを浮かべて剣星を見つめ、呟いた。


「私の封印を解いたのはお前か? ……ふふふのふ」


 なんだか芝居がかった仕草と台詞だ。

 変な人(?)だな、と思いつつ、剣星は尋ねてみた。


「え、ええと、あなたは一体……もしかして、モンスター?」


 すると少女は眉根を寄せ、不愉快そうに答えた。


「こんなにプリティーでチャーミングな私がモンスターなわけがないでしょう。失礼しちゃいますね……」

「モンスターじゃない? じゃあ、一体……」


 首をひねる剣星の前で誇らしげに胸を張り、謎の少女は叫んだ。


「我こそは魔導師ゴルデウス作による、グレートでスペシャルな究極武器……魔剣なのです!」

「えっ、じゃあ、お姉さんは魔剣の一部って事? おまけ的な存在とか」

「誰がおまけですか、失礼な。私が魔剣本体に決まっているでしょう? ぷんぷん」


 自分自身が魔剣そのものだという少女に、剣星は首をひねった。

 本当だろうか。どうも怪しい。やはり彼女はモンスターで、剣星を騙してどうにかしてしまおうと考えているのではないのか。


「と、ところでその、頭に剣が刺さってるみたいだけど……」

「ああ、これですか。誰かが無理に引っ張るから伸びちゃっただけですよ。ほら」

「!?」


 幅広の長い刀身がシュルルル、と引き戻され、少女の頭に収納されていく。

 やがて柄の部分まで頭部に飲み込まれてしまい、完全に同化した。

 収納前よりも少女の髪の毛がボリュームを増しているのに気付き、剣星は目を丸くした。


「ほ、本当にお姉さんが魔剣そのものなんだ……魔剣って人間の姿に変身できるものなの?」

「さあ? 他の魔剣はどうだか知りません。私は独学で覚えましたが」

「独学って、どういう事?」

「ずっと眠りについていて暇だったので、人間の姿になれば自力で歩き回れるんじゃないかと思いまして。厳重に封印が施されていたので出られませんでしたが」

「そ、そうなんだ。大変だったね」


 なろうと思ってなれるものなのか、そもそも武器が自分の意思を持っている時点でおかしくないか。

 色々と疑問ではあったが、何しろ彼女はあの魔導師ゴルデウスが作り出した魔剣なのだ。そこらの武器とは違う、すごい能力を備えていても不思議ではない。


「あなたの名は?」

「つ、剣剣星」

「ツルギ・ケンセイ? いい名前ですね。まるで剣士になるために生まれてきたような」

「そ、そう……かな……」


 それは剣星が最も気にしている事なのだが、初対面の彼女に分かるはずもない。剣星はぎこちない笑みを浮かべ、流しておいた。


「そ、それで、お姉さんの名前は?」

「えっ? 私は魔剣ですが」

「魔剣っていうのは種類でしょ。なんていう魔剣なの?」

「なんてと言われても……ああ、〇三八と呼ばれていたような……三八本目の魔剣だからと」

「番号だけ? 名前はないんだ」


 すると魔剣の少女は暗い顔をして俯き、悲しげに呟いた。


「どうせ私なんか……究極の魔剣を目指して作られたのに、使い道もないまま封印されてたし……所詮、ただの道具ですよね……」

「そ、そんなに落ち込まないで。じゃあさ、今ここで名前を決めようよ」

「無理しなくていいです。『魔剣女』とでも呼んでください……」

「いや、むしろ呼びにくいし。そうだな……サヤっていうのはどう?」

「サヤ?」


 〇三八だし、剣の鞘に引っ掛けてサヤ。

 ちょっと適当すぎるかな、と思った剣星だったが、少女はうれしそうにニコッと微笑んでいた。


「悪くないですね。サヤ……とても可憐で清らかな感じがします」

「そ、そうかな?」

「では、私の名前はサヤという事で。よろしく、我が主マイマスターよ」

「えっ? マスターって、僕が?」


 目を丸くした剣星に、魔剣の少女ことサヤは、コクリとうなずいた。


「私の封印を解いたのだから、あなたは私の主で決まりです。名前まで付けてもらったのだし、そういう事でよろしく」

「い、いや、でも……えーっ?」


 なんだかおかしな事になり、剣星は戸惑うばかりだった。

 魔導師ゴルデウスが残した何かが手に入れば、と思ってここに来たのだが、まさか魔剣の主にされてしまうとは。

 しかもただの魔剣ではなく、自我を持っていて美少女の姿をしているのだから困ってしまう。主などと言われてもどうしたものか。


「参ったな……魔剣とか持ってても使いようが……」

「剣星は剣士なのでしょう? 武器として私を使えばいいじゃないですか。何か問題でも?」

「う、うん、まあ。かなり問題があるんだよね……」

「?」


 暗い顔で呟く剣星に、サヤは首をかしげた。

 彼女は知らない。剣星が、どういった素性の人間で、どのような人生を送ってきたのかを。


「よく分かりませんが……とりあえず、よろしく」

「あっ、うん。よろしく……」


 サヤが一歩前に出て手を差し出してきたので、剣星はおずおずと手を伸ばした。

 手に触れた瞬間、まばゆい光が弾け、サヤの姿は消えてしまった。


「あ、あれ? 消えちゃった……な、なんで?」


 あたりを見回してみたが、どこにも彼女の姿はなかった。

 もしかすると、彼女は幻影か何かだったのだろうか。

 首をひねりつつ、剣星は隠し部屋を後にした。

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