けものフレンズ ふるびたぼうしとあらたなきせき
焦げたマシュマロ愛好家
#1 歩み出し
一体どれ程横になっていたのだろうか。
目を開き、木々の中から青空を見上げて初めに頭に浮かんだ考えはそれだった。
こんな場所に寝転んだ記憶は一切無い。
ひとまず、身体を起こして周囲を確認しようとゆっくりと体勢を起こす。
「……なんだこれ」
周囲に広がる虹色の結晶に思わずそう呟いてしまう。
その虹色の結晶は自分を中心に爆発したかの様に放射状で広がっている。
こんなスピリチュアルな場所で昼寝をしていたとは考えにくい、間違いなく"何か"があった。そうとしか考えられない。
今更になって気付く。思い出せる事が少なすぎる。
恐らくだが、記憶喪失。間違いなく。
人間の感覚とは不思議なものでそう考えると、妙に頭の中が霞みがかっている様な感じもしてくる。
思い出せる事は、ここが超巨大総合動物園ジャパリパークであるという事だけである。
完全に予想だが、アトラクション体験中か何かに事故にあったのだろう。
今頃誰かが捜索してくれているはずであるからして、焦る必要は無い……多分。
その場に座り込んだまま、少し考えを整理しようと深呼吸をする。胸に感じる鼓動が不安定ながらも、確かに自分が「生きている」と教えてくれる。
視線を虹色の結晶から外し、周囲を見回す。木々のざわめき、遠くで響く小鳥のさえずりが、自然の中にいることを再確認させてくれるが、どこか違和感がある。まるで、全てが異様に鮮明でありながらも、現実味が薄い。色彩が濃すぎるのだ。
「……とにかく、移動するか」
虹色の結晶が自分を中心に広がっているという状況が、どうにも落ち着かない。
何かの「痕跡」だとして、そこに居続けるのは安全ではない気がする。
立ち上がり、少し足を動かして感覚を確かめる。幸い、身体に大きな異常は感じない。
大きく伸びをしてから、ふと周囲を見渡すと何かの残骸の様な金属片が周囲に突き刺さってるのに気付く。
近づいてみると、その金属片は明らかに人工物であり、表面には黒焦げの痕や歪んだ形状が見られる。何かが爆発したか、あるいは墜落した跡だろうか。虹色の結晶が広がる中心に自分がいることと関係があるのかもしれない。
「……ん?」
金属片の下から1枚の布切れがひょっこりと顔を出しているのに気付き、慎重に金属片を退かす。
「これは……帽子か」
その布切れを手に取ると、それが薄汚れたブーニーハットであることが分かった。形は崩れているが、かろうじて元の姿を保っている。手触りからして長い間使い込まれていたことがうかがえる。
「……これ、自分のか?」
ふとした疑問が浮かぶ。手に取った瞬間、どこか懐かしい感覚が込み上げてきた。それと同時に、頭の奥に微かな痛みが走る。
忘れかけていた何かが、ほんの一瞬だけ浮かび上がるような感覚だ。
記憶の断片――荒れた地形、巨大な影、誰かの叫び声――が頭の中を駆け巡る。
しかし、それらはすぐに霞み、霧の中に消えていく。
焦って追おうとするも、掴みどころがなく、結局何も思い出せない。
「日差しは洒落にならない……とりあえず借りてくか」
ブーニーハットを頭にかぶり、深く息を吐く。
奇妙な安心感が広がるのを感じる。自分のものかどうかも分からないが、少なくとも今の自分に必要な「拠り所」のように思えた。
「さあ……どうしよう」
呟いた声が森に吸い込まれる。
ここがジャパリパークであるという確信はあるものの、具体的にどのエリアにいるのか見当もつかない。
ひとまず、道路まで出られれば誰かしらが拾ってくれるだろう。
そんな安直な考えで歩みを進めた。
しかし、歩けど歩けど道路らしきものは見えてこない。
森はどこまでも広がっているように思える。
木々の間を縫うように歩いていくが、景色に大きな変化はなく、周囲の音も変わらない。
まるで、同じ場所をぐるぐる回っているかのような感覚に襲われる。
「……おかしいな」
呟きながら立ち止まり、再び周囲を見渡す。木々の間から差し込む陽光が、地面の上に不規則な模様を描いている。
その中に、自分がつけた足跡らしきものは見当たらない。
「迷った……か?」
冷たい汗が背中を伝う。
方向感覚を失っているのは明らかだ。軽い焦燥感を振り払おうと深呼吸を繰り返すが、胸の鼓動は速まるばかりだ。
その時、ピョコ……と言う妙な音が聞こえた。
その妙にコミカルな音の方角に思わず顔を向けると、丁度その方向に何か古いログハウスの様な建物があった。
「とりあえず、調べてみるか……」
慎重に足を踏み出しながら、ログハウスに近づいていく。
地面を踏むたびに乾いた草が微かに音を立てるが、それ以外に聞こえるのは森のざわめきだけだ。
近づくにつれ、ログハウスの細部が徐々に明らかになっていく。
薄汚れた窓ガラスや、所々に生えた苔が目に入り、年季の度合いを感じさせる。
扉の前に立ち止まり、横の小窓から中を覗こうと視線を向ける。
薄暗い内部は静まり返っており、人の気配はないように思える。
それ程まで荒れている様子は見れないのが、逆に不気味である。
「……入ってみるか」
誰もいないと分かっていても、何処かで見たホラー映画を思い出し、背筋に一瞬悪寒が走る。
だが、ここでじっとしていても仕方がないと自分に言い聞かせ、ゆっくりと扉に手をかけた。木製の扉は驚くほど軽く、わずかな力で「ギィ……」という音を立てて開いた。
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