第17話:罰(その9)「寝言の代償、侍女の前で晒される屈辱」

その夜、サマルティアの王子は静かに寝室の豪奢なベッドの上で横たわりながら、隣で眠るムーンベリクの王女の動向を観察していた。柔らかな月明かりが、彼女の穏やかな寝顔を照らしている。寝息は静かで、規則正しい。その表情は、まるで何か心地よい夢を見ているかのようだった。


しかし、突如、彼女が小さく息を漏らした。


「……ローランシアの王子……どうか……。」


王子の目が鋭く光った。そのかすれた声は、甘く、切なげで、まるで恋人に縋るような響きを帯びていた。彼女の唇が微かに動き、幸せそうな微笑みが浮かんでいる。


「ほう……。夢の中でも他の男を求めるとは、実に忠実な妻だな。」


王子の口元に冷笑が浮かぶ。横目で王女の顔を見ながら、ゆっくりと体を起こすと、彼はさらに聞き耳を立てた。しかし、それ以上の寝言は続かなかった。ただ、王女の表情は今も微笑を湛え、まるで現実世界の夫の存在など知らぬかのように安らかだった。


「お前の中で僕の存在はどれほどの価値があるんだろうな。」


冷たく囁くと、王子は王女の下腹部にそっと手を添え、常人には聞き取れない言葉を呟いた。それは回復魔法だった。本来は傷や病気を癒すためのものだが、新陳代謝を飛躍的に高める作用がある。特に敏感な部位に使用すると、感度が増すという副作用を伴っていた。


「……ふうぅ……ん……」


王女の唇から甘い吐息が漏れる。その様子を見て、王子は満足げに微笑む。そして、再び横になりながら王女の動向を観察し、そのまま眠りについた。



******************



翌朝、王子は意図的に早起きし、侍女たちが朝の準備を整える場で、わざと昨夜の出来事を話し始めた。


「昨夜、実に興味深いことがあった。」


明るく軽快な声に、侍女たちは手を止め、興味深げに王子の言葉に耳を傾けた。王女もその場にいたが、彼の口調に不吉なものを感じ取り、思わず顔を強張らせる。


「ムーンベリクの王女が、寝言で『ローランシアの王子』の名を呼んでいたんだ。しかも、随分甘ったるい声でね。」


侍女たちの間に小さな笑いが漏れる。その瞬間、王女の顔が真っ赤に染まり、身じろぎもせずに俯いた。


「おいおい、笑い事じゃないぞ。」


王子は愉快そうに肩をすくめながら続ける。


「『抱いてください』とか『あなたの子供を産みたい』とか、いろいろ囁いていたんだ。あれはなかなかの熱情だったよ。」


王女は目を見開き、慌てて顔を上げた。


「そ、そんなことは言っておりません!」


しかし、王子は余裕の笑みを崩さず、侍女たちの反応を見回した。


「では、確認してみようか。寝言は無意識のものだから、自覚がないのも仕方ない。だが、証拠は残っているかもしれないな。」


王女の呼吸が浅くなる。まさか、と思いながらも、王子の次の言葉を恐れていた。


「彼女の下着が濡れていないか、確認してもらおう。」


部屋の空気が凍りついた。王女は息を呑み、侍女たちの間に緊張が走った。沈黙が流れる中、王女は震える声で叫んだ。


「やめてください! そんなこと、必要ございません!」


しかし、王子は冷ややかに微笑み、まるで遊ぶように肩をすくめた。


「それとも、自信がないのか?」


王女の顔は羞恥と怒りで真っ赤になり、拳を握りしめた。しかし、彼女の抗議を無視し、王子は淡々とした態度を崩さなかった。


侍女の一人が、おずおずと王女の前に跪き、躊躇いながらそっとスカートの裾に手をかけた。


「……失礼いたします。」


王女は震えながらも、どうすることもできなかった。侍女の指が慎重に布へと触れた。


「……これは……」


侍女の声が震えた。彼女は王子を見上げると、躊躇いながらも事実を告げる。


「申し訳ありません……王女様の下着が……湿っております。」


王女は目を見開き、耐えきれず俯いた。


「嘘……そんなはずは……。」


王子は侍女をじっと見つめ、冷ややかに命じた。


「正確に報告しろ。どんな状態だ?」


侍女は戸惑いながらも視線を伏せ、小さな声で答えた。


「……か、かなり……ぐじょぐちょになっております……。下着が肌に張り付き……その形がくっきりと浮かび上がっております……。」


王女は羞恥に耐えきれず、さらに俯いた。


王子は満足げに微笑み、ゆっくりと王女の顎を持ち上げた。


「ふむ……。お前は昨夜、僕の名前を一度も口にしなかったというのに、不思議なことだな。」


王女は震える声で叫んだ。


「そ、それは……っ!」


王子は耳元で囁く。


「夢の中で求めたのは本当にローランシアの王子だったのか? それとも、無意識に僕を求めていたのか……どちらだろうな?」


王女は息を詰まらせ、震える声で答えた。


「と、当然……サマルティアの王子を……求めていたものです……。」


王子は意地悪そうに微笑み、ゆっくりと首を傾げた。


「ふむ。求める、とはどういうことを求めたのだ?」


王女の肩が震える。侍女たちが息をのんで見守る中、彼女は羞恥に塗れながら言葉を絞り出すしかなかった。


「サマルティアの王子さまに……やさしく……抱かれた夢です……。」


王子の目が鋭く光る。


「もっと具体的に言ってくれないかな。毎晩肌を重ねている僕には大体わかるが、侍女たちにはわからんだろう。」


侍女たちは赤面しながらも、羞恥に塗れた美しい王女の姿に釘付けになる。王女は涙を滲ませながら、しどろもどろに口を開いた。


「王子に……やさしく……貫かれながら……子種をいただく夢を見ました……。あまりのすばらしさに……夢の出来事にもかかわらず……濡らしてしまったようです……。はしたない妻を……どうかお許しください……。」


王女の顔は羞恥で真っ赤に染まり、涙が静かに頬を伝う。


「これはつまり、お前の体は僕のものだということだな。」


王子は低く囁きながら、王女の耳元に口を寄せた。彼女の肩は小さく震え、目を閉じて耐えるように呼吸を整えた。


「はい……そのとおりです……。あなた様の……愛玩動物として……末永く……可愛がってください……。」


王女の声は震え、羞恥と服従が入り混じった響きを帯びていた。


その瞬間、侍女たちの間から驚きと興奮が入り混じった声が上がった。


「まぁ……! 愛玩動物、ですって……!」


「あの気高く凛々しい王女さまが……まるで可憐な仔猫のように……!」


「さすが王子さま……女性の心を掌握する術に長けていらっしゃる……。」


「なんという……なんという甘美な主従の形……!」


彼女たちは頬を紅潮させ、羨望のまなざしを王子へと向けた。


王子は満足げに微笑み、王女の顎を持ち上げてその表情を確認する。


王女の目には涙が滲んでいた。唇はかすかに震え、羞恥に耐えきれず呼吸も浅く乱れている。王子の手の中で逃れようともせず、それでも瞳の奥にはかつての誇り高き王女の影が残っていた。


だが、その誇りも今、完全に崩れ去ろうとしていた。


彼女は知っていた。

侍女たちがこの光景を目撃していることを。

かつての王女としての気高さや威厳が、今や見る影もなく打ち砕かれたことを。

それでもなお、彼女の口から出たのは、覆しようのない服従の言葉だった。


「……失礼……します……」


彼女はそっと王子の手のひらに唇を寄せる。そして、ためらいがちに舌を突き出し、ゆっくりと舐め上げた。舌先を使い、何度も何度も丁寧になぞるように。まるでミルクを啜る猫のように、慎ましく、それでいて甘えるような仕草だった。

羞恥で全身が震え、内臓が焼けるような感覚に襲われる。


王女はかつて、民から敬われ、臣下から忠誠を誓われる存在だった。

それが今や、王子の掌の上で、愛玩動物として可愛がってほしいと口にする羽目になったのだ。

王女としての誇りは、もはや幻想のごとく崩れ去る。


侍女たちの熱を帯びた視線が、王女の肌を刺すように突き刺さる。


「王女さまが……!」


「こんなにも屈服するなんて……。」


「さすが王子さま……。」


ささやき合う声が耳に響き、羞恥と絶望が混ざり合った感情が胸を締め付ける。


王女の唇が震えながらも、ゆっくりと動いた。


「……私は……王子様の……愛玩動物でございます……。」


その言葉を口にした瞬間、胸の奥で何かが砕ける音がした。

二度と戻れない一線を越えたのだ。


王子の低く優雅な囁きが、王女の耳元を甘く打った。


「いい子だ。」


羞恥と絶望で真っ白になった王女の心に、その言葉は不思議と安らかさを響かせていた。

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