第18話
認めたのは、娘だった。
「そう、わたくしは貴方様がお考えになる様なばけもの。生きているのかすらわからないケダモノ。貴方様が私のことを生きているとして扱わないとして、それで傷ついて死んでしまうことなどないようなケダモノ。なら、どうしてそんなものがここにきているかはお分かりになるかしら。」
「さあ、知ったことでもない。知ったとて脳の容量を食いつぶす害悪にしかなるまい」
「貴方様は脳の容量なんて些末なこと、それこそ知ったことではないでしょう?」
「大事にしているさその程度のこと。己の罪だ。己に向き合うだけの場所をどうして確保しないでいれる、どうしてのうのうと己の罪を放り投げて死ぬことすらできずに生をさまよっていられる。悔めることだけが己の……」
そうして貴文は押し黙った。思考では許されることであっても口にすれば赦されないことだった。彼女の死に同行できなく手放したばかりか、己は己の罪に向き合っているのだというポーズだけを浮かべてあたかも苦しんでいるのだからなどという理屈のもとどうにかこうにか許しを得たがっているようなつぶやきなど、喉で捕らえねばならなかった。代わりに言葉を吐き出したのは娘だった。
「貴方様の自己嫌悪と醜悪な義侠の心はとてもほおばりたいものだけれど、わたくしの要件はそれだけではないの。それに、わたくしの要件がかなうのであれば、貴方様のそれをほおばる機機会などこの先泥のようにあるでしょうしね?」
「……何の話だ」
貴文の機嫌は悪かった。人に対して当たり散らしている時点で今日の機嫌は最悪なのだと言えなくもない。ただ、それだけで収まる様なものではなかった。
これからの話をされたのだ。人にだ。言の葉で、である。勝手にも無法にもほどがあった。娘はこれからの話をして、そのこれからに貴文が巻き込まれようとしているのだ。貴文が何を言ったわけでもないというのに。ただ、悲しきかな。事ここに至って貴文の切り札はないに等しかった。巻き込まれる災禍から逃げ出す方法は己の殻の中にうずくまることと心得ていた貴文の失策である。もうここまで殻から出てしまい罵詈と雑言の嵐の一端を触れさせてしまったのである。今更無関心と無頓着の鎧を着こんだところでいったい誰が貴文の防護を評価するだろうか。
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