4. 指導者はかく語りき - 2

「どうして……」


考えるよりも先に言葉が漏れる。この星から国家間の戦争を無くしたのも、宇宙進出に成功したのも、指導者の力あってこそだ。その生き方の何を悔やめばいいのだろう。


「まだ若かったころ、私より優れた者は数多くいた。ところで、ペシコユは私が最初に英雄と呼ばれるようになったきっかけは知ってる?」


別の惑星に住む生命体は全く知らないだろうが、ハンノの故郷では初等教育に値する場所からずっと繰り返し習うことだ。忘れるはずがないことを尋ねる、指導者の心はハンノには分からなかった。


「英雄暦一八九二年におけるゥツトゥクスの戦いにおいて臨時招集され、激戦の中で唯一生き残ったと」


指導者は笑みを浮かべる。やはり過去の栄光を聞くのは嬉しいのだろうか。少なくともハンノはそうだ。


「そういえば、あの頃の私はまだ二十歳だったな。私はあの戦いで運よく生き残っただけで、私よりも才のある者は数多にいた。


実際あの戦線で私含む民間人を鼓舞したのは私ではなく、もう名も忘れてしまったが、あの戦争で死後名誉市民の位を得た誰かだ。


もしも生き残ったのが私ではなく彼だったらと、若いころはよく思っていたよ」


「そうですか……」


沈黙が流れる。ハンノは何と声をかけたら良いのか全く分からなかった。指導者も元々は寿命のある人間として生まれ、輝かしい栄光の裏では普通の人間として生きてきたのだ。


いつの間にか皆忘れてしまった。普通の人間が英雄と祀り上げられて、指導者と崇拝されるようになっただけなのだと。


「でしたら、その後悔とどう向き合えばいいんでしょうか。自分でしたら、その事実に耐えられるように気がしません」


この問いに対して、指導者は何と答えただろうか。難しい話だと言っていたことはハンノも覚えている。だが、確実にこう言っていた。


「自分のしたことを正確にとらえることだ。世間は様々な言葉で私の行動を称え、罵ってきた。そういった言葉に左右されすぎないこと、これだけはきっと怠ってはならんと思う」



 指導者はやはりハンノでは及ばないような偉大な人物だった。功績を抜きとした、人間性の面でも。


彼は彼なりに、英雄と言う名の殺人者という罪に向き合い続けている。きっとハンノのような自身を崇めてくれる民間人に、正直なことを語るのは、彼なりに犠牲になった人々への贖罪をしているのかもしれない。


今、記憶を失った指導者、いや、パデネットは己の罪から解放されたことになるのだろうか? 彼は許されたのだろうか。


ハンノも一応知ってはいる。彼が英雄になる段階で戦闘モデルとしての比類なき力で、南部の諸国家を恐怖に陥れ、時には民間人すら虐殺してきたことも。


全ては平和実現後に行われた慰霊式典で指導者が己の罪を告白し、謝罪したことによりとうに決着はついていたが、彼の中ではずっと終わっていない問題だったのだろう。


「トヒル、いいアドバイスをありがとう。自分なりに、この気持ちにケリをつけられるかもしれない」


携帯のメッセージアプリにそう入力して送信する。トヒルからの返信はない。疲れて今日は休んでいるのだろうか。


別にそれくらいは気にしない。ハンノも、自分なりの答えを見つけたからだ。

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