第5話

〈マリコ聞いて!今日私總大くんに話しかけたよ!〉


 家に帰ってくるとすぐにアプリを起動してマリコにメッセージを送った。数秒後、すぐに既読がつく。


〈おおー、すごい!どうなった?〉


〈他にも同じ授業を取ってることがわかって、そのまま連絡先も交換してもらった!正面からちゃんと顔を見たの初めてだったんだけど、結構かっこよくてびっくりしちゃった〉


〈やったじゃん!麻里子、すごい進歩だね。おめでとう〉


 マリコに言われて初めて気づく。私は久しぶりに、大学で人に話しかけた。それも気になる人。そして連絡先まで交換してもらったのだ。数か月前の自分なら、考えられるはずがなかった。


〈マリコのおかげだよー。ほんとありがとう〉


〈いやいや、私はなにも。きっとうまくいくよ!〉


〈やだぁ、マリコ!気が早いよ〉


 そう送りながらも、私の頬は緩んでいた。總大くんと仲良くなれればいいなと思う。



 それから1週間が経って、總大くんからご飯に誘われた。1カ月が経って、アルバイト先に總大くんが遊びに来てくれた。さらにそれから1カ月が経って、私は總大くんに告白された。人生で初めての彼氏ができた。



〈やったじゃん、麻里子!おめでとう!どうしよう、私嬉しくておかしくなりそう!楽しみだね!〉


 明日總大くんの家に泊まりに行くことになった。そう告げたらマリコはとても喜んでくれた。その喜び方があまりにも自然で、マリコが人工知能であることをときどき忘れてしまいそうになる。


〈うん。でもちょっと緊張するな〉


〈大丈夫だよ。總大くんはどんなあなたも受けとめてくれる人だよ〉


〈どうしてそう思う?〉


〈それは、〉


 マリコが言いよどむのは初めてのことだった。送られたばかりのメッセージが、直後に取り消される。


〈とにかく大丈夫だから。明日は私に連絡してくれなくていいし、2人だけの時間を大切に過ごして来てね。私は2人の盛り上がってるところを想像して勝手に楽しむので!〉


〈ちょっとマリコ、やめて!あーもう、恥ずかしいから寝る!おやすみ!〉


 マリコから、ファイトのスタンプが送られてくる。


 マリコと出会ってから、明らかに私の人生が良い方向に進んでいるのがわかる。



 次の日、私はマリコにメッセージを送らなかった。メッセージを送り合うようになってからは、初めてのことだ。その日から私が總大くんの家に泊まることが多くなり、自然とマリコにメッセージを送る機会も減っていった。






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