第4話
いずみに彼氏ができた。相手はクリスマスイブにデートをした人だ。歳は三十五歳。うちらの十歳上だ。経理の仕事をしているそうだ。お金にきちんとしていて誠実で、いずみを大事にしてくれるそうだ。酒癖の悪さを知っても付き合ってくれるような人だ。包容力もあるのだろう。三十五歳だというからいずみにはそれくらい年の離れた人の方が合うのかもしれない。早速紹介したいからいつ予定空いてるかという連絡がきていた。
俺はいつでも大丈夫だというと、早い方がいいから明日の仕事終わりに会おうと言われ、仕事終わりに会う事になった。
店はいずみ達が予約してくれていた。新宿にあるお洒落な居酒屋だった。
「はじめまして。松田(まつだ)聡(さとし)と言います」と、頭を下げるいずみの彼氏は、いずみが言うように誠実そうだった。清潔感があり、髪型もきちんとしていた。
「こちらこそはじめまして。天馬朝陽っていいます」
俺も軽く頭を下げた。いずみから事前に名前もメールで教えて貰っていた。きっと俺の事も彼氏に伝えているだろう。
三人で飲みながら話をした。松田さんはいずみとの交際を真剣に考えており、告白も結婚を前提にお付き合いしてくださいと言われたそうだ。
「それでね。もう一緒に住もうかって話になってるの」
いずみは浮かれた笑顔でそう言った。
「それはすごいね。場所はどこら辺にするの?」
松田さんの職場にアクセスしやすい場所で一緒に住むという話だった。
最初は共働きをしながら、ゆくゆくは子供も欲しくて私は仕事を辞めてもいいかなって思っていると言ういずみに、今回の相手は相当真剣なんだなと思い、そして相手は三十五歳だ。結婚という二文字が現実味を帯びるのは当たり前なのかもしれない。
程よく飲み、二人と別れて電車に乗った。明日からは一週間休みだ。年末年始休暇だ。今年ももう終わりだ。長かった一年も終わる。来年も同じように会社ではいづらく、皆には嫌味を言われるのかと思うと胃がキリキリと痛んだ。けれどお金の為だ。我慢しなきゃ。
電車に乗ってスマホで佐藤湊のSNSをみた。年始にライブをまたやるそうだ。俺は絶対行こうと思い、また絶対いきます。今から楽しみです。とコメントを残した。そしてチケットも購入した。
家に着き、シャワーを浴びて自分の部屋へ行くと、スマホが振動した。こんな時間にいずみからかなと思い、スマホを見るとSNSからDMが来ていた。誰からだろう・・・。開いてみると佐藤湊本人からのDMだった。
「うそ!?」
思わず声を出していた。
悪戯じゃないだろうな・・・。不審がりながらもDMを開くと『コメントありがとうございました。この前は少しだけだけど話が出来てよかったです。年始のライブも来て下さるという事で、またお会いできるの楽しみにしています』という内容だった。
俺はすぐに返事をした。
『DMありがとうございます。こちらこそこの前はお話できてとても嬉しかったです。一ファンとして光栄な事です。これからも応援してます。頑張ってください。年始のライブ今から楽しみです』
するとまた佐藤湊から返事が来た、
『早速のお返事ありがとうございます。嫌だったらいいのですが、年始のライブ終わりって何か予定入ってますか?もしよかったらライブ後にご飯でも行きませんか?』
「うそ!?」
また声が出てしまった。佐藤湊からのお誘いだ。これは夢なんじゃないだろうか。いや、現実だ。現実に起きている事なんだ。でも詐欺とかだったりしないかな・・・。でも、こんな機会二度とないだろう。詐欺でもいい。佐藤湊と直接また話せるのだ。答えはイエスだ。行くに決まっている。
『年始のライブ終わり予定空いています。佐藤湊さんからお誘いいただけるなんて嬉しいです。是非ご飯ご一緒したいです』
『ありがとうございます。ではライブ後、出入口で待っていてください。片づけとかあるのでそれが終わったら行きます。当日楽しみにしています』
俺はスマホを胸に抱き寄せた。
佐藤湊とご飯。顔の筋肉が緩みに緩みまくるのを感じた。傍からみたら気持ち悪い顔をしているだろう。それでもいい。こんなチャンス二度とないんだ。聞きたい事とか今度はきちんと準備しておこう。
その日は目が冴えてなかなか寝付けなかった。
年末はぐーたらして過ごした。昼くらいまで寝て、起きてからお酒を飲んでまた寝て。そんな怠惰な毎日を送っていたらあっという間に年が明けた。
年が明けるのを待ち望んでいた。今までだったら年が明けるのは憂鬱で、なんで休みはこんなに早く終わってしまうのだと落ち込んでいたが、今は違う。年明けには佐藤湊と会えるのだ。会って話まで出来るのだ。俺はそれだけで有頂天になっていた。
自分ではお洒落だと思う服を選び、コートも新しい物を買った。そしてマフラーをして家を出た。
足取りが軽く、今にも飛び跳ねそうな勢いで歩き、電車に乗ってライブハウスのある最寄り駅に着いた。今回も勿論一番前に陣取って佐藤湊に来た事をアピールする。そのために早く着いたのだ。
寒い外でライブハウスの入口の一番前に立ち、開場するまで待った。時間になり、ライブハウスへ入る。今回のライブハウスは一番最初に観に来たライブハウスだ。ビールを頼み、一番前の席に座った。
佐藤湊は三番目の出番だった。
色々なアーティストがいる中、佐藤湊はひときわ輝いて見えた。佐藤湊がステージに立つと周りが華やかになるのだ。
歌を聴きながら佐藤湊をじっと見つめる。途中何度か目が合った。今までは目が合ったように感じていたが、今回は間違いなく目を合わせてくれていた。そして伴奏中に目を合わせ、にこっと笑ってくれた。
もう昇天してしまいそうだった。女性ファンだったら、キャーと言っていただろう。それほどの威力があった。
佐藤湊の歌声に俺はまた心揺さぶられる思いがして、そして頬に伝うものがあった。やっぱりいいな。ずっと聴いていたい。終わりがこなければいいのに。そんな思いも虚しく、佐藤湊の最後の曲が終わり、袖にはけて行った。
残りのアーティストも良かった。けれど佐藤湊ほど心を動かされる歌声の人はいなかった。
俺は佐藤湊に言われた通り、出入口で待っていた。どれくらい待っただろうか。横から声をかけられた。
「朝陽さん」
その聞き覚えのある優しい声に横を向くと、佐藤湊がギターケースを背負って立っていた。
「佐藤湊さん」
「こんな寒い中待たせてしまってごめんなさい。寒かったですよね。暖かい所行きましょ」
俺は、はい。と言って佐藤湊と並んで歩いた。歩きながらも、「今日のライブもすごく良かったです。感動しました」と興奮冷めやらぬ思いで話した。
佐藤湊さんは笑顔で俺の話を聞いてくれて、「ありがとうございます」と何度もお礼を言った。
とてもいい人だなぁと思った。こんなにビジュアルが良くて、歌も上手くて、でもちょっと影のある感じが人を惹きつける。モテていただろうなぁと佐藤湊という人物を勝手に想像していた。
「ここでいいですか?」
駅の近くにあるイタリアンのお店を佐藤湊は指さした。
「イタリアン。いいですね。俺イタリアン好きです」
「良かった」と言って佐藤湊は階段を上っていった。俺もその後についていく。
店内に入るとお客さんはまばらだった。
佐藤湊が二名だと店員に伝えると席へと案内された。
四人席に案内され、佐藤湊は俺をソファー席へと譲ったが、ギターを持ってるので佐藤湊さんがソファー席行ってくださいとお互い譲り合った。
結局俺がソファー席に腰かける事になった。
「その、佐藤湊さんだなんてフルネームじゃなくていいですよ。湊でいいです」と笑いながら佐藤湊は言ったので、じゃあ湊さんでと言った。
なんで『さん』をつけたかというと、湊さんの方が年上だったからだ。湊さんの所属している芸能事務所のホームページでプロフィールを見たら去年三十歳を迎えていた。俺の五個上だ。でも見た目は若く、俺と同い年位でも通るんじゃないかと思う程だった。
イタリアンだからワインが良いのかなと考えていると、湊さんが、ワイン飲めますか?と聞いてきたので、飲める事を伝えた。色々な種類のワインがあってどれが美味しいか分からないでいたら、湊さんも種類色々あって分からないですねと言ったのでふと笑ってしまった。
湊さんはそんな俺をじっと見つめたので、「あ、俺もワインどれがいいか分からないって思っていたから同じ事思ってたなぁって思って笑っちゃいました」というと、湊さんもふふふと笑っていた。
「じゃあ一番安いやつにしましょうか?」という提案に俺も同意して、この店で一番安い赤ワインのボトルを頼んだ。それでも三千円位はする。
「あ、俺は朝陽でいいですよ。湊さんの方が年上だし」
「そうですか?じゃあ朝陽って呼ばせてもらいますね。それと、じゃあ敬語辞めます?」 と言って、にっと笑ったので、うん。敬語辞めようと俺も言った。
初めてじゃないのに初めましての感じに何故かむずがゆい思いがした。
「今日は誘ってくれてありがとう。まさか湊さんから誘われるなんて思ってなかったからビックリしたよ。何かの勧誘とか詐欺なのかなって一瞬思った」
はははと笑いながら話すと、「詐欺かもよ」と湊さんも笑ってくれた。
湊さんの情報はホームページやライブのMCの時やSNSで知っていた。それでも言葉で聞きたかったので、いつから歌手になろうとしたのか聞きたかったので聞いてみた。
「歌手になろうと思ったのは五歳位の時からだよ。母親にね。ああ。亡くなったって言ったよね?その亡くなった母親は身体が弱くてね。俺が三歳位の時からずっと入院をしてた。それで入院中暇だろうと思って俺は幼稚園で習った歌を母親に唄って聴かせてたんだ。そしたら母親があなたの歌声は天使の歌声みたいね。癒されるって言われた。それを今でも覚えていて。それで俺は歌手になろうってその時決めたんだ。この歌声で皆を幸せにできたらいいなって思って。母親にはもう会えないけど、それ以上にこの歌声で誰かを救えたらいいなって思ってる。あ、ごめん。なんか暗い話になっちゃたよね」
湊さんは目を細めてそう言った。
「暗い話だなんてそんな事ないよ。素敵な話だよ」
俺はそれしか言う事ができなかった。
「朝陽はどんな仕事してるの?大学生じゃないよね?」
「うん。今二十五歳だよ。仕事は営業の仕事してる。けど、全然ダメでね。俺、会社で浮いてるんだよね。営業成績も二年間最下位で仕事も全然できなくて。周りからは早く辞めろって言われてる。けどお金のためにって思ってなんとか歯を食いしばって頑張ってる。ってこちらこそこんな話しちゃってごめん」
不思議だった。湊さんを前にすると何でも話してしまう。こんな事言われても相手は困るだけなのに・・・。
「そっか。それは辛いね。大丈夫?営業はやりたい事だったの?」
湊さんは優しかった。そんな優しさに心打たれ目頭が熱くなった。
「うん。大丈夫。ありがとう。営業はやりたい事ではなかった。元々は内勤の仕事を希望してたんだけど、いざ会社に入ったら営業部に配属になっていて仕方なく・・・。辞めても他に仕事見つかるかも分からないし、俺、母子家庭だから。家にお金入れて少しでも母親を助けたいから」
湊さんは俺の話を、うんうんと優しく聞いてくれた。
「そっかぁ。俺も大学卒業して一旦は就職したんだよね。五歳から歌手になるって決めてたけど、歌手で食べられるようになるなんて一握りの人だけだって大人になって知って。それで大学卒業してから仕事してたんだけど、やっぱりやりたい事やってないって苦痛でさ。仕事してても楽しくなくて、一年勤めて辞めちゃったんだ。歌手の夢諦めきれなかったってのもあってね。父親には仕事を辞めて歌手になるなんて馬鹿げてるって言われたよ。反対された。けど自分の人生だからね。家を出てアルバイトしながら地道に歌手活動続けてきた。高校と大学でバンド組んでたんだけど、周りの皆も歌では食べていくつもりはないって言って音楽辞めて仕事始めちゃったから、一人で活動しようって思って一人で活動して今に至るかな。生活はしんどいけど楽しいよ。売れてはいないけどこうして朝陽みたいに感動したって言ってくれる人がいるのはすごく心強いというか嬉しいと言うか。生きているって感じがするんだよね。まあうちも一人親だけど、父親だからお金の心配はなかったから好きな事できたってのもあるかもだけど」
なんて熱く語っちゃった。と恥ずかしそうに笑う湊さんを俺は正直すごいなと思った。やりたい事を見つけてそれを貫いている。生活は厳しいと言っていたけど、それでもやりがいがあるのは羨ましい事だった。
赤ワインを二人で一本空けた。
「この店高いから他の店に行かない?」と湊さんは小声でそう言った。
俺はそんな湊さんがかわいいなと思った。きっと初めて話すからちょっと高めの店を選んでくれたんだろなと思うと愛おしく思えた。
「じゃあ次の店は安い居酒屋行こう」と俺は言って、店を出た。次の店は奢ろう。そう決めていた。
隣の隣のビルに安いチェーンの居酒屋があったのでそこに入った。店内は賑わっていて、二人席しか空いてなかった。湊さんはギターを横に置き、狭そうにしていた。
「狭そうだけど大丈夫?」
俺は心配になった。
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。少し狭いけど、これくらいが丁度いい」
はははと笑っていう湊さんにきゅんとした。変な所できゅんとするな俺。と自分を軽蔑した。
俺はレモンチューハイ。湊さんは梅酒サワーを頼んで二人で飲んだ。イタリアンではパスタとピザをシェアして食べたがそれほど量が多くなくお腹も空いていたのでつまみ以外の料理も沢山頼んだ。
「やっぱこういう方が落ちつく」
湊さんはそう言って梅酒サワーを飲んでいた。
「俺も」
「最初からこういう居酒屋にしとけばよかったかなぁ。でもせっかく誘ったからちょっといい店入りたくてね」とはにかみながら言う湊さんに、心を鷲掴みされてしまった。もう一生この人のファンでいよう。そう思った。
でも、もう一つ聞いておきたい事があった。
「湊さんはファンの人とこうしてご飯行ったり飲みに行ったりとか良くするの?」
誘われたのは嬉しかったがどうして誘われたのか理由を知らなかった。ファンの人を大事にして他の人ともこうしてご飯行ったりしているのかなと思ったりもしていた。
湊さんは真剣な顔になり、「いや。一緒に食事行ったり飲みに行ったりするのは初めてだよ」と言った。
その真剣な表情にドキっとした。優しい目はまた色っぽい目に変わっていた。歌を唄ったり、真剣な表情をする時は色っぽい目になるんだなとそんな目をされて俺は顔を見ていられず下を向いてしまった。
そして俺の下半身は少し反応してしまった。色っぽい目は俺の全てを刺激した。
「じゃあどうして誘ってくれたの?」
下を向いたまま俺はぼそぼそっと聞いた。
すると湊さんの手が俺に近づいてきて、俺の顎を持ち上げた。
「気になったから」
目と目があってその真剣な目に俺は顔がかーっと熱くなるのを感じた。
「えっと・・・」
次の言葉が見つからなかった。
顔は熱く心臓は鼓動を早め、全身が硬直した。動く事が出来なくなった。メデューサを見てしまったかのように。恐怖と恋は紙一重だ。吊り橋効果なるものがある。それと一緒だ。俺は今恋をした。目の前にいるこの妖艶な男性に。
「嫌、だったかな?」
湊さんは俺の顎から手を離し、頭を掻いた。
俺は首を横に振った。
「よかった」
にこっとする湊さんはまた優しい目に戻っていた。
「湊さんもゲイなの?」
ようやく振り絞って言えた言葉だった。声は小さく下を向いてしまう。
「うん。そうだよ」
あっさりとそう言う湊さんにビックリして顔を上げた。
そこには優しい顔をした湊さんがいた。
この人は人を惹きつける術を知っている。やっぱりモテてきたのだろう。狙った獲物は逃さない。トラやヒョウの様に、のそりと近づき一気に食らいつく。それで離さない。いや離れられないのだ。
「はい。これ」
湊さんはそう言ってスマホの画面を俺に見せた。そこには湊さんの連絡先が表示されていた。
俺が戸惑っていると、「登録して」と言った。
「あ、うん」
俺はポケットから自分のスマホを出して、湊さんの連絡先を登録した。そして電話番号に電話をかけ、お、きたきた。と湊さんは言い、これで繋がれた。と言った。それからメールもして連絡先交換終了だ。
でも気になった事がまた一つできた。湊さんもゲイなのって聞いた時に、うんそうだよと言った。『も』の所で湊さんは気にする様子を示さなかった。どうして俺がゲイだと知っていたのだろう。
湊さんは、「ごめんね。朝陽と会って、朝陽が朝陽だと知ってから朝陽のSNS見てたら彼氏がいたって書いてあるの見つけちゃって、朝陽もゲイなんだって思ったら嬉しくてね。こんなかわいい子がゲイでしかもファンだって言ってくれてる。ファンに手を出すなんて卑怯だけど、でも離したくないって思っちゃったんだよね」と素直に言ってくれた。
俺が疑問に思っていた事をすんなりと話してくれた湊さんに、俺の心が読めるのか。なんて現実離れした妄想をしてしまう自分がおかしくて、「俺の心読めるの?」と悪戯に聞いてみた。
湊さんはぽかんとした顔をしていた。
「何でもない」
「何さー。心なんて読めないよ」と湊さんは笑った。
「これからもご飯食べたり飲み行ったりできたら嬉しいな」そう言う湊さんに、俺も。と言った。
これから徐々に仲良くなればいい。そして湊さんと付き合えたら・・・。それは一番最高な事だ。でも今はまだ早い。今まで一ファンだった自分がそんな早く湊さんと付き合えるだなんて、そんな贅沢な事は出来ない。誕生日とクリスマスとお正月を一緒にしたようなものだ。そんなに盛沢山すぎると後が寂しくなるだけだ。
でも湊さんはモテる。うかうかしていると他の誰かに取られてしまうかもしれない。そこが難しい所だ。
「そろそろ帰ろうか」
湊さんはそう言い立ち上がった。
俺は湊さんに、「ここは俺が払う」と言うと、湊さんは、いいよ割り勘で。と言ったが、俺が頑なに払うというので、じゃあお願いしますと湊さんは引き下がった。
「でも、毎回払ってもらうのは悪いから奢ってくれるのは今日だけね」と言われた。
良かれと思ってした事が、実は相手には負担になる事もあるのかもしれない。悪いと思わせてしまうという事はそういう事なのだろう。
だから俺は、「そうだね。今日だけね」と言った。
帰りの電車の中、次はいつ会おうかと話をしていた。俺は明日から仕事で仕事終わりか土日なら空いてると言うと、湊さんは土日はライブ以外はバイト入れてるという事だった。ライブがない土日は朝から晩まで働いていると言う。平日に休みが一日あるくらいだと言う事で、その平日に夜会おうと言う事になった。音楽の勉強もしなければならないだろうし、作詞作曲もしている。いつそれらをしているのだろうと聞いてみたかったが、湊さんの最寄り駅に着いてしまったのでそれはまた次に聞こうと思い、湊さんを電車の中から送った。
また会える。手に届かない物だと思っていたものが、手に届くくらいになったら、人はまた次を求める。そしてそれがまた手に届いたらまた次を求める。それが欲というものなのだろうか。
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