第2話

 前世の記憶が蘇ったのは、夏休み前の7月。

 高校の1学期末のテスト1週間前だ。

 その夢を見た後の寝起きはひどいものだった。

 夢の中で僕は24年もの時間を過ごしていた。目覚めたとき、僕はいきなり16歳になっているという感覚と、とてつもなく濃くて鮮明で長い夢を見たという感覚、自分の中に2人いるような感覚で気持ち悪くなった。


 目覚めたときの僕は間違いなく16年間生きてきた僕だったはずだ。だけれども、24年間生きてきた僕もまた、僕の中にいた、というか、僕自身になっていた。

 僕にとって、前世の僕は僕であり、また他人でもある。それでもやっぱり切り離せないで、どこかで繋がっている。

 生きてきた道筋、考えそうなこと、思考回路、信念に理念、こういった諸々のことが僕の中にある。

 そんな僕が果たして、前世の僕であると言えるだろうか。この枕詞的にわかる通り、言えないだろう。

 僕はとりあえず、簡単に情報を整理することにした。

 

 前世の僕が死んだ24歳の夏。

 それは社会人2年目のことだった。

 あぁ、当時の僕は大学受験に失敗して、浪人していたからね、

 大学を卒業して、社会人新卒1年目を乗り越え、2年目に入って、仕事にも慣れてきて、夏の気分に少し浮かれている頃だった。

 名前はユウタ。

 これは面白いことに、今世の僕と同じ名前だった。苗字はササキだった。今の僕はシノノメだから似ても似つかない。


 この前世が、本当に前世であると思ったのには理由もいくつかあった。

 ひとつは時間。

 今は2025年だけれど、僕が前世で生きたのは1985年から2009年。今世の僕が生まれたのが2009年だから、ぴったりと合う。

 ひとつは既視感。

 思えば僕には既視感、デジャヴというものが頻繁に起こっていた。本当に、やけに多かった。テレビやらで行ったことのない場所や聴いたことのない音楽を聴いて、妙に懐かしくなって涙が流れそうになることがあった。

 場所に関しては、主に千葉の半島の方、音楽に関しては主に90年代の音楽だった。既視感に既聴感とでもいうべきものがあった。

 最後に、知識。

高校、大学で学ぶような知識を、前世の僕が学んだことを夢の中で見た。僕は特に成績がいいわけでもないし、前世では文学部に通っていたが、本を読むのが好きにしてもそこまでの知識なんて持っていなかった。

 内容に関して、適当なそれっぽいことを並べているだけの可能性も否めなかったけれど、スマホで軽く調べてみれば、大学の名前も、教わった教授の名前も全て検索でヒットして、しっかりその期間にその大学にその教授がいたこともわかった。スマホは便利すぎる。これは手放せないな。よくない。

 こんな感じで、感覚的なものが、偶然に重なってくれば信じざるを得なくなる。嫌になってしまうけれども。


 大事なことだ。僕の死因について。

 死因は見えなかった。思い出すことも出来なかった。

 夢で見た前世には、死ぬところはなかった。というのも、僕が夢で見たのは、24歳の7月、いつも通り仕事に行くため、朝起きて、明日は休みだ、なんて思いながら、仕事の準備をしていたところでプツリとテレビの電源が落ちるように、夢が途切れた。

 その瞬間に死んだわけではないと思う。ただそれ以上は見られなくなったという感じだった。

 それからどれほどの時間で死んだのかはわからないけれど、多分そう遠くないうちに、僕は死んだんだろうな。

 病気とかではなかったと思う。病院にかかっていたわけでもなかったし、その昨年の健康診断でも異常は見当たらなかった。それに、なんだかとても幸せとは言えないような死に方だったんだろうということだけ、なんとなくこの胸に残っていた。

 幸せな死に方なんて、愛する人たちに囲まれて天寿を全うする老衰くらいなものだと思うけれど、それでもきっと後悔は残るんだろうと思う。

 若い人間が死ねばそれこそ後悔は多く残る。僕もきっとそれだけ多くの後悔を抱えて死んだんだろう。それこそ生まれ変わってその後悔や無念を晴らしたいと思うほどには。

 事故なのか、殺されたのか、何なのかはわからないけれど、とにかく僕はとても長いとまではいえないながらも、短くもない人生に幕を下ろした。


 そうして次のときには、僕は16歳の男子高校生になっていた。生まれ変わったというよりは、生まれ変わっていたという方が厳密には正しいのかもしれない。

 どちらにせよ、生まれ変わりだ。


 情報を整理したところで、僕の頭は依然として混乱していた。

 そもそも僕は、本当はどちらなんだ。いや、どちらも真ではあるのだけれど、16年生きてきたこの体の僕なのか、それとも24年生きてきた前世の僕なのか。

 今ある体なのか、生きた時間の長さなのか、ここにある魂なのか、今頭にある記憶なのか。そのどれもが信用ならないから、僕はもう割り切って、あるがままを受け入れることにした。

 多分これはいくら考えても答えが出るものじゃなかった。

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