第11話 洗礼
「ドラゴン、あなたは私の国を焼き払い、人も街もすべて火の海に変えたのです!!」
パシパエの声が鋭く、耳を突き刺すように響いた。
その言葉には、怒りと憎しみが渦巻き、まるで刃物で空気を切り裂くような鋭さがあった。
彼女の目はまるで燃えるように赤く、そこには長年抱えてきた恨みが色濃く滲んでいた。
「赤いドラゴンが、あの夜……私たちの街を炎に包み込んだ。」
その言葉が発せられると、母ドラの表情が一瞬、硬直した。目が見開かれ、肩がわずかに震える。だが、すぐに彼女はその動揺を隠そうとした。
「そんなこと……あんたの言いがかりよ!!」
焦燥と不安が交じったその声には、必死な訴えが込められていたがしかし、パシパエの怒りは収まることなく続く。
「嘘ではないわ!! 龍の“
「
母ドラはその言葉に反応し、目を泳がせるようにして、困惑を隠せずに口を開く。
「あの時見たのは、確かにあなただった。」
その言葉を遮るように、パシパエは一歩前に踏み出した。彼女の目には冷徹な怒りが宿り、その表情からは一切の譲歩の余地が感じられなかった。
「……血に染ったような真っ赤な龍、忘れもしません!」
その瞬間、母ドラの目が見開かれ、まるで心の奥に鋭い刃物が突き刺さったかのように感じた。その反応を見て、俺は胸の中で不安が広がるのを感じた。
しかし、それを打ち消す暇もなく、母ドラは顔をしかめ、怒りをむき出しにして叫んだ。
「ああ!!! もううるさいわね!!! 何もかも面倒になってきたわ…… あんたの言う通り、全て消してやるわよ!!!」
母ドラの咆哮は、洞窟全体に響き渡り、その音は雷鳴のように地面を揺さぶった。その響きは耳に痛いほどで、体の中までズシンと震えを感じさせた。
ーーグゥオオオオオオ!!!!!ーー
その瞬間、母ドラの口から吹き出したのは、まさに灼熱の炎だった。たが炎はただの火ではない。
肌を焼くだけでなく、空気そのものを焦がし尽くし、まるで周囲のすべてを溶かすかのような猛火が広がる。
俺は反射的に顔を覆ったが、その熱さは体の芯まで焼きつけるようで、耐性を持っていてもその温度には追いつかない。
『火力調整の温度領域を超えているため使用できません。』
そのメッセージが視界に現れた瞬間、俺の焦燥が深まる。炎は洞窟の天井にまで達し、まるで天井そのものが燃え始めたかのように見えた。
一歩間違えれば、この場所は一瞬で焼け落ちてしまうだろう。
「熱い……!!」
俺は思わず声を上げ、スキルを駆使しようとしたが、うまくいかない。炎はまるで止める術がないかのように広がり続け、母ドラの感情が沈まない限り、この猛火は止まらない。
「やめなさい、ドラゴン!!」
パシパエの声が突如として響き、俺の耳を打つ。
「あなたのその炎が、幾千の命を奪ったことを忘れたのですか!? 今、この子すら手にかけようとしているのですよ!!」
その言葉が、母ドラの心を打ったのだろう。彼女の目が揺れ、炎が次第に弱まり、最終的には完全に止まった。
母ドラは肩で息をしながら、震える手で胸を抑えるようにして呟いた。
「わ、わたし……なんてことをしてしまったの……?」
その言葉には、深い後悔が込められていた。彼女の目には涙が滲んでおり、頬にそのしずくが伝っていく。
「坊や……大丈夫……?」
震える手で俺に触れようとする母ドラ。その震えがどれだけ彼女が自分を責めているかを物語っている。俺はその手をぎゅっと握り返し、軽く頷いた。
「大丈夫だよ、ママ……」
そのやりとりを見守っていたパシパエは、しばらく黙っていた。そして、ふと目を細め、何かを思いついたように呟く。
「ドラゴンが人の心を理解するなんて……そんなこと……」
その瞬間、彼女の表情が驚きと確信に変わった。
「そうだ! これがあるじゃないですか!!」
急に俺の背後に目を向け、パシパエは手に持った鍋を勢いよく、母ドラに向けて投げつける。
「これで思い出しなさい!!」
鍋の中身――俺が夕飯として作ったミルク粥が、母ドラの口に飛び込む。彼女はそのまま無意識にそれを飲み込んだ。
その瞬間、目の前にまた新たな文字が現れた。
『対象者に「
リシュアは「
俺はその展開に言葉を失い、ただ呆然とするばかりだった。目の前で何が起きているのか、全く理解できない。
だが、それがどれほど大きな意味を持つのかを、少しずつ感じ始めていた。
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