第四幕:風人




 泣き声が聞こえる。

 子どもの泣き声だ。よく聞きなじみのある声。それが、ぐわんぐわんと耐え難い熱の籠った耳鳴りのする頭に響いて、実に苦痛である。

 泣き声の主は悪くない。悪いことなんて一つもないのだ。

 よわい十一の少年、風人は、重たい瞼を無理やり開いて、すすり泣く弟にそろそろと手を伸ばした。


「! あにうえ……」


 兄が動いたことに気づいた月彦は、一瞬で涙を引っ込めて、風人の近くへ寄る。


「だめ、じゃないか……月彦……僕に、近寄ったら……おまえにまで、うつしてしまう……」

「僕に兄上のお熱がうつったら、兄上はよくなる?」

「そんなのだめだ、絶対……僕は、平気だから……」

「平気なもんか。兄上が苦しそうなのは見ればわかるもん。あのやぶ医者め、絶対許さない」


 怒りまかせに吐き捨てる弟に、風人がゆるゆると首を振った。

 月彦が「やぶ医者」と罵るのは、先日まで屋敷に通い詰めていた風人の主治医のことである。この未知の熱病に対して、熱心に治療を試みてくれていたが、やがて彼の持つ知識や技術ではどうすることもできないということがわかってしまってからは、両親が暇を出したのだ。

 それでも、誰かを憎むということは、正しい行いではない。

 風人がそっと手を伸ばすと、月彦は小さな両手で風人の手を包み込んだ。


「いいんだ……月彦……おまえが元気でいてくれれば、それで……」


 絞り出した言葉は、激しい咳でかき消されて台無しになった。

 兄の骨ばった熱い手を握りしめて、月彦は咳をする兄の顔をじっと眺めていた。


「……兄上。僕、絶対に兄上を助けるよ。あんなやぶ医者じゃなくて、もっとちゃんとした人を、兄上を助けられる人を探してくる。そうしたら、きっと」


 月彦の幼い決意を、風人は思わず渇いた笑いで否定してしまった。


「それは無理だ……あのお医者様は、この街で一番の方……あの方以上の人など、この近くには……」

「嘘だ。だってあいつは兄上を助けてくれないじゃないか!」

「月彦……人にはな……限界というものがあるんだ……。天命というものがあるんだ……。いいんだ……大丈夫……それよりも、月彦は……僕の分まで、元気でいてくれ」

「……兄上。僕は、絶対に見つけてくる。絶対にだ。約束するから。だから、それまでがんばって。僕は、兄上の分まで元気で、なんて絶対に嫌だ」


 ぎゅう、と自分の手を強く強く握りしめて、真剣な顔で告げる弟に、風人は「できない約束はするものではない」という言葉を、思わず飲み込んでしまった。

 そしてその代わりに喉から絞り出されたのは、


「わかった……待っているから」


 という、彼の意思を尊重するためだけに吐かれた、ほとんど嘘に近い気休めの言葉であった。




 相良家の次期当主、十九歳の青年、風人は、熱っぽい昔の夢から静かに目覚めた。

 陽は登ったばかりだ。

 ずいぶん久しぶりに昔の夢を見た。それもこんなにはっきりと覚えているのはとても珍しい。


「あのとき……あんなことを言わなければ、今頃……」


 ぼんやりと外を眺め、呟く。

 今頃、自分はこの世におらず、月彦は好き勝手する言い訳をなくして、相良家の次期当主として相応しい行いをしていただろうか。自分の代わりに。相良家の醜聞になるような軽率な行動は起こさずにいてくれていただろうか。

 月彦の夜毎の家出先に押しかけた次の日の朝、風人はいつの間にか帰ってきていた月彦を叩き起こして、二人で長いこと話をした。

 月彦は相変わらずのらりくらりとしながらも頑なで、風人がいくら実直に説得しても、あの手この手でなだめすかしても、決して自分の考えを変える気配はなかった。一度決めたら誰に何を言われても決して曲げない頑固者だ。彼を説得するのは骨が折れそうだ。

 であれば、別の方法も、試してみる価値はある。

 今日は夜までこれといった特別な用事はない。日課の鍛錬を終えたら、すぐに出かけよう。月彦には知られないように。




 陽が高く上っているが、そんなことは真耶には無関係である。

 幕を引いてしまえば、小屋の中は夜よりも暗くなる。

 いつものように固く冷たいせんべい布団で眠っていると、トントンと静かに扉を叩く音がした。

 真耶は体を縮こまらせて唸り声を上げる。


「ううー……日が沈んだ頃にまた来ておくれ……」


 扉の向こうの人の気配は消えることはない。

 これだから昼の客は嫌なのだ。どいつもこいつも全く言うことを聞きやしない。

 ため息と共に仕方なく布団から出ようとしたところで、ガラガラと引き戸が開いた。


「そういうわけにはいかない。これでも忙しい合間を縫って来ているからな」

「!」


 少しばかり意外な人物に、真耶は驚いて布団から飛び起きた。

 おおよそこんな街はずれの寂れた場所には相応しくない人物、相良家の次期当主様である。


「突然の訪問の無礼は詫びる。だが、少し話をさせてくれないか。月彦のいない今」

「……なぁるほどね。そういうことかい」


 そういうことであれば、彼の訪問は意外でもなんでもない。

 ばさっと乱雑に布団を畳んで、茶菓子の用意などをしようと立ち上がるが、風人はそれを片手で制した。


「お構いなく。すぐに帰る」

「そうかい。じゃあ適当に座りな。本当は依頼の話以外は受けない主義なんだがね」

「そうか、すまない。失礼する」


 わざとらしいちくりと鋭利な言葉を全く意に介さず、風人は真耶に招かれるまま部屋の中央に進み、座った。真耶も少し離れたところに改めて座る。


「それで? あの子を返せって話なら、あたしにはどうすることもできないし、するつもりもないことだよ」

「それはどうだろうか。あなたが一言『もうここに来るな』と言えば、それで済む話なのではないか」

「はっ、それでどうにかなる子なら、最初から弟子になんかしてないさ」

「……そうか……」


 風人は困った様子で視線を泳がせた。が、すぐに気を取り直したのか、また真耶の方に視線を戻す。


「実は、先日月彦と話したんだ。相良家の者としては、このまま彼をここに留めておくわけにはいかないからな。説得を試みたんだが、駄目だった」

「だろうね」

「それで、俺なりに考えてみたんだ。なぜここまで月彦がこの場所に……まじない師にこだわるのか」

「へえ? それで?」

「それで……俺のことについて、月彦もあなたも奇妙なことを言っていたな。死相が出ていると」

「ああ、言ったね」

「俺は、本来死ぬ運命にあるのか」

「それで言えば、あんたは本来八年前の熱病で死ぬ運命だったよ。それからずっとあんたの顔から死相が消えないって話さ。熱病を回避したのにもかかわらずね」

「その原因は、わからないのか」

「わからないから、死相が消えてないのさ」

「俺が死ぬ運命にあるから、そうさせまいとして、月彦はここに来るんだな」

「まあ、そういう面も大いにあるだろうね」


 というかそれが一番だろうけど、と真耶はうなずく。

 風人は真耶の方に身を乗り出して続けた。


「なら、俺が死なないとわかれば、死相が消えれば、月彦はここから離れられるのか」

「…………」

「どうなんだ。答えてくれ」


 黙り込んだ真耶に、風人はさらに迫る。

 正直、真耶としては、そんなこと聞かれても知る訳がなかった。考えたくない、と言う方が近いかもしれない。なぜ考えたくないのかは……それも、考えたくない。面倒ごとは嫌いである。それがたとえ、自分の事だったとしても。いや、自分の事だからこそ。ただでさえ面道ごとばかりを抱える職業である。


「……一度まじないの道に足を突っ込んだ者は、その運命から逃れることは相当難しいよ。普通の人間に感じ取れないものを感じ取り、普通の人間にできないことをする。そういう人間には、自然とそういった類の面倒ごとが舞い込んでくるもんさ」


 お茶を濁した答えを吐けば、風人は実に不愉快そうに眉を顰める。


「あなたは、そうなるとわかっていて、月彦を弟子にしたのか」

「あたしは止めたよ。本人の強い希望さ。あんたを守りたいっていうね」

「でも八年前、月彦はたったの十だったんだぞ」

「五つだろうが十だろうが二十だろうが人間は人間さ。自分で考える力を持っているし、道を誤るときは誤る」

「無責任な……」


 吐き捨てるように呟く風人。真耶の知ったことではない。

 大体朧――月彦は贅沢な方だ。自分で歩む道を選べたのだから。真耶には選べる道なんかなかった。これまで、一度も。


「無責任上等だよ。なんだってあたしがあの子の人生に責任を持たないといけないんだい。責任を持って導かないといけなかったのはあんたたちで、それを怠ったからあの子はここに来たんだ」

「それは……。あなたの言う通りだ」


 真耶の厳しい言葉に、風人は面目なさげにうなだれた。とはいえ彼だってこんなことになることを望んだり予想したりしていたわけではないだろう。まあ気の毒に思わないでもなかった。ただまあ、知ったことではない。


「で? 他に何か言うことはあるかい?」


 真耶は素っ気なく尋ねる。風人はじっと真耶の方を見て、それから迷うように視線を落とした。


「……なんだい」


 兄弟そろってだんまりを決め込むのが得意なようだ。

 風人は難しい顔をして小さく唸った後、やがて不承不承といった様子で話を再開した。


「……これは、月彦の意思を最大限汲み取った上での折衷案なんだが……。月彦と話していて、どうもそういうことなのではないかと思ったのだが……。しかしあなたにもあなたの意思があるだろうし、こちらで勝手に決めることでも……」

「なんだい、まどろっこしいね。さっさと結論を話しな」

「つまり……。あなたも、月彦と一緒にこの家を出る気はないか」

「はあ???」

「この家と、あなた自身につきまとっている外聞は非常に悪い。だが、相良家と言う後ろ盾が付けば、少しはましになるだろうと思うんだ」

「ちょっと待ちな、何の話をしてるんだい」


 つらつらと目を逸らしながら語る風人を止める真耶。風人は嫌そうにため息を吐いて、今度こそはっきりと問いかけた。


「月彦に嫁ぐ気はないかと聞いている」

「……はあ??????」


 呆気にとられる真耶。

 風人はこめかみを押さえながら続きを話す。


「月彦がここを離れないもう一つの理由は、あなた自身にあると考えた。つまり月彦は、あなたに惹かれている。これは月彦本人と話していて感じたことだ。もしあなたが月彦に嫁いで相良家に入るというのであれば、次期当主として歓迎したいと思う。それが月彦の幸せに繋がるのであれば」

「はっ、お断りだよ。あたしはこの家が気に入ってるんだ。それにあの子だって、こんな年増の女となんて……」


 笑い飛ばす真耶に、風人は少し意外そうに目を見開いた。


「本当に? 思い当たる節は一つもないのか?」


 俺でもわかるくらいにわかりやすかったのに? と言外に聞こえる気がする。

 真耶は風人から目を逸らした。

 何も言わないで欲しい。気づきたくないこと、気づかないようにしていたことだ。

 どうせ気のせいだ。朧が自分に惹かれているとか、そのことに自分が感づいているとか、そんなことは全部。単純接触効果で勘違いしているだけだ。朧は思春期を全てここに注いでしまったのだ。こういう勘違いが起こってもまあ仕方ないだろう。見て見ぬふりをしているのだ、こちらは。

 それを言うに事欠いて「嫁ぐ気はないか」など、とんでもない話だ。


「ないね。あの子はただの弟子だよ。あの子にとってだって、あたしは単なるまじないの師匠さ」

「俺には、そんな風に見えなかったがな。もし月彦が家に戻って、あなたも相良家に嫁ぐなら、それ相応の待遇を約束する」


 真耶の気も知らずに風人は言い募る。それを真耶は努めて冷たく突っぱねた。


「そんなもんいらないよ。あたしは別に今の生活に満足してるんだ。万が一あの子が家に戻ることがあっても、その時はその時であたしは元の生活に戻るだけさ」

「そうか……残念だ。あなたがこちらに来れば、月彦も戻って来るのではないかと思ったのだが」


 肩を落とす風人に、真耶は呆れ顔で尋ねた。


「あんた、それでいいのかい。弟がまじないの道に進んだまま、それを止めもせずに」

「もちろん、本音では月彦にきちんと帰ってきてほしい。だがそれは難しいのだろう?」

「まあね。あたしが今更手放したところで、未熟なまじない師が一人取り残されたら、訪れる未来は早死にだけだよ」

「本当に、無責任な」

「だから、今世話焼いてやってるんじゃないか」

「はあ……それが、相良家としては大変困るんだ」

「恨むなら自分を恨みな」

「そう言われても、熱病にかかりたくてかかったわけでも、死相を出したくて出しているわけでもないのだが……そうだ」


 疲れた顔でぼやく風人は、しかし、話している途中で何か思いついた様子で顔を上げ、真耶に向き直った。

 真耶は嫌な予感がして身構える。


「あなたに依頼させていただけないだろうか」

「……何を?」

「俺に出ているという死相の原因を取り除いてほしい。報酬は言い値を出そう」

「はあ……」


 まあ、そうなるだろうとは思った。

 とはいえ、そんなことは依頼されなくても、他の仕事の合間に八年間取り組み続けている。改めて本人に依頼されたところで……。まあ、本人が真耶の目の前にいる分少しは調べやすくなるだろうが。


「なら、銀五十もんめってところでどうだい」

「問題ない。成功報酬で構わないか。それともいくらか前金で出そうか」

「いいよ、あんたはばっくれたりしないだろう。あの子もいることだしね。さて、交渉成立だ。今度の満月の夜にまたここに来な」

「わかった、必ず来る」

「まあ、あんたの死相を取り除いたからって、あの子を返してやれるかどうかとはまた別の話だけどね」

「……少しでも可能性が上がるなら、あいつの不安を少しでも取り除いてやれるなら、一先ずはそれで構わない」

「弟思いなことで。兄弟でそっくりで嫌になるね」


 苦虫を嚙み潰したような顔で真耶の言葉に了承する風人。結局当初の目的は果たせそうにないのだ。月彦を直接説得できないのなら師の方から……と思ったのだが。しかし弟がまじない師になった動機はどう聞いても自分の死相が原因だ。少しでも弟を取り戻せる可能性があるならなんでもする。

 真耶はため息まじりにその様子を見ていたが、ふと風人の方ににじり寄った。


「……あんた、顔をよく見せてみな」

「?」


 言うが早いか、真耶は不躾に風人の両の頬をガッと掴み、その澄んだ瞳をじっと間近で見つめた。


「……な、なんなんだ。今度の満月の夜に調べるのではないのか」


 急に女性にまじまじと見つめられて、流石にたじろぐ風人。真耶は意に介さず一人で勝手にぶつぶつと呟く。


「うーーーん……やっぱり、一度死神に逆らったのが原因かねえ……だとしたら、今後も逆らい続けない限り一生憑いて回られることになるけど……しかし、死神祓いはもうあらゆる方法で試したし……」

「……本当に、俺に憑いているのは熱病のときの死神なのか?」

「さあね。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

「そうか……」


 曖昧な真耶の返答に、他に返す言葉もなく応じる風人。

 次の瞬間、突然ガラッと勢いよく引き戸を開く音が響いた。


「!」


 扉を叩くこともなく開かれたことで、真耶も風人も驚いて反射的に戸口に目をやる。

 そこに立っていたのは、気品溢れる外見に似合わぬ鬼気迫る表情をしたサキであった。


「何をしていらっしゃるのですか」

「サキ……! おまえこそ、どうしてここに」

「そんなことはどうでもよろしゅうございます。今、何をなさっていたのですか」


 語気も強く、二人に言い咎めるサキの言葉に、風人は慌てて真耶から距離を取った。

 サキに鋭く睨みつけられた真耶は、肩をすくめて立ち上がる。


「何って、この男のかわいいかわいい弟ぎみの話と、この男に出ている死相の話をしていただけさ」

「本当に、それだけでございますか」


 サキは真耶の方に詰め寄りながらなおも鬼の形相で睨みつける。

 風人は少々の困惑と共に真耶とサキの間に割って入った。こんなに怒りをあらわにしたサキは見たことがない。というかそもそも彼女が怒ったところを初めて見た。


「サキ、何をそんなに怒っているんだ。そもそもどうしてまたこんなところに」

「それは私の台詞でございます。ご兄弟そろってこんな……こんな、忌むべき場所に来るべきではありませぬ。やはりこの女が面妖な術を使ってご兄弟をたぶらかしているのでは」

「失敬な、あたしにそんな趣味はないよ」

「『忌むべき場所』については否定しなくていいのか……」

「それは事実だからね」

「さあ、風人さん、戻りましょう。あなたまで引きずり込まれてしまいます。この、蛇のような女に」

「サキ……」


 風人の腕に両手を絡めて、ぐいと力任せに引っ張るサキ。

 特に抵抗することもなく、サキに引かれるままになる風人。


「……蛇のような女、ねえ」


 意味深に呟いた真耶は、立ち去ろうとするサキの腕をガッと掴んだ。


「きゃっ……!」

「まじない師殿!」

「……あんた」

「放しなさい! この魔女!」


 先ほど風人にしたように、先の瞳をじっと見つめた真耶だったが、ほとんど暴言と言って相違ない言葉を吐き捨てながら、サキが無理やり真耶の手を振りほどいた。


「……はは。あっはっはっはっはっは! あの子は本当に馬鹿だねえ!」


 真耶は吐かれた暴言も振り落とされた手も気にすることなく、腹を抱えて大笑いし始めた。


「何がおかしいんだ」


 訝し気に真耶を見る風人。真耶はまだ笑いながら手を振る。


「いやいや、何でもないさ。さ、もう用は済んだだろう? その女も言っていることだし、忙しい合間を縫ってわざわざお越しいただいたようだし、もう帰んな。それがみいんなのためさ」

「さあ、風人さん」


 もう一度、サキがぐいっと風人の腕を引っ張ると、風人は後ろ髪を引かれるように躊躇いながらも、うなずいてみせた。


「……ああ、行こう。邪魔をした。……まじない師殿。例の件、考えておいてくれ」


 例の件。どの件のことだか。

 真耶はさっきまで笑っていたのが嘘のように、表情の抜け落ちた顔でサキをじっと見つめながら、呟いた。


「……あの子が本当にそれを望むなら、それも悪くないかもね」


 風人がそれに応える間もなく、サキは風人を引っ張って立ち去って行った。

 真耶は気にすることなく、二人の姿が見えなくなるまで見送っていたが、やがて、くくくっと小さく笑って引き戸を閉めた。


「はー……おっかしい。酷い話だよ、こりゃ」


 そのまま、真耶はゆっくりと部屋の中を歩き回る。

 やがて妙な拍子がついてきて、真耶の唇からいつもの歌がこぼれだした。




  日照り、災禍さいか、飢饉、骸

  掟、身分、自愛、堕落

  祭事、大事、対価、大過たいか

  期待、不遜、憎悪、呪い


  通りゃんせ、通りゃんせ、

  この世彼の世も

  通りゃんせ、通りゃんせ、

  変わらぬ地獄


  通りゃんせ、通りゃんせ、

  黄泉の国より

  通りゃんせ、通りゃんせ、

  浮世の果てに消えて行け。




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