第6話 ※三人称視点
ソレイユが領主の武方に向かった翌日、リョウゲンとダクトは新人従士の鍛錬の為、宿の庭に集まっていた。
従士達の瞳には困惑の色が浮かんでおり、こんなことをしていていいのか、自分たちも領主に裁かれるのではないか等と従士達は心配しているのだ。
「セキウの兄貴達がチンピラ冒険者どもを見張ってるし、領主の館に俺達が行くことはできねえ、つまり俺達にできることはねえってわけだ、だったらお前達が一人でも多く生き残れるようにお前たちを鍛えるべきだろ?」
ダクトの生き残れるようにという言葉に従士達は背を伸ばす。
従士の死傷率はどこの傭兵でも高い、ソレイユ傭兵団では従士を使い捨てるという考えはないがそれでも被害を出さないというのは難しいのだ。
この1か月でこの従士が心器を使えるようにはならないそれでも一人でも生き残らせてやりたいと皆が思っているのだ。
「お前達には心器の引きだし方とその為の鍛錬、後は武器を使っての戦闘鍛錬を行う、2週間それぞれに剣か槍のどちらか得意な使いやすい武器を見つけてもらい、鍛冶師にお前達の体形に合わせた物を作ってもらう、何故心器の鍛錬をするのかと思うものがいると思うだろうが、それは休憩の時に説明するからまずは俺達の言うことを聞いて鍛錬をするように」
リョウゲンは従士に微笑みを浮かべながらそう命令する。
最初から従士の求める答えを出すことはしない。
何故なら傭兵団の団員は上から言われたことに素直に従うのも仕事だからだ。
どうしてこんなことをするのかや何故こんな場所に行くのか等聞いても教えてもらえずやれと言われたことに、はいと答えるように意識づけさせるのも訓練なのだ。
「というわけで全員座って目を閉じろ、そして自分の体内にある魔力を感じ取れ」
リョウゲンの言葉に全員が首を傾げる、いきなり感じ取れと言われてもということだろう。
「私達の体には魔力というものが流れておりそれは血に交じって体の中をぐるぐると回っている、それを感じ取ることがお前達の最初の鍛錬だ、胸に手を当ててゆっくりと深呼吸をし自分の心臓の音を聞くように意識をするんだ」
言われた通り彼等は目を閉じて自分の胸に手を当てる、とはいえそんな簡単に感じ取れるものではない、感じ取るだけでも年単位でかかるものもいるほどだ。
30分ほどリョウゲンは何も言わずに従士の様子を伺い歩き、ダクトも武器を振って鍛錬などはせずに座り込んで彼等を眺める。
居心地が悪い空気が流れる中、リョウゲンは従士達に対して休憩と命令する。
何の手ごたえもないことを延々と続けるのは大変なことであり、従士達は困惑しながらリョウゲンの方を見る、これでいいのかと視線が問いかけていた。
「何度も言うが簡単に心器を出せたりしないし、感じ取るのに年単位で鍛錬する必要があるものもいる、だがこの鍛錬は確実に必要なことだ、いいかい、私達の体には先ほども言ったが魔力がめぐっているこれは私達の体を強くしてくれるんだ、ダクト」
リョウゲンがダクトに声をかけると、応!と答えてその辺に落ちていた石を掴むと手の平で転がすようにしてゴリゴリと音を立てて破壊する。
従士が困惑している姿にパフォーマンスとして微妙だったかと思ったダクトは鉄でできた鎧を持ってくると、それを従士の一人に持たせると全力で殴る。
殴られた鎧は金属同士がぶつかったような音を立て、鎧にはくっきりと拳の痕のへこみを残し、鎧を持っていた従士は勢いのままに10メートルほど後方へ吹き飛ばされて尻もちをついた。
「俺達心器を鍛えた器士ってのはよ、肉体も鉄を上回る強度になるんだほれ見ろ、俺の拳には傷一つついてねえだろ?なんで傷がついてないのか俺よりも頭のいいリョウゲン兄貴が説明してくれる、あと鎧を持たされたお前はなんで俺が鎧を持たされたのかと疑問に思ってるのかもしれないけどな、お前俺が身長低いからと舐めてただろう?優れた器士は気配を探るのもうまい、強者の気配、気配を消している気配、侮った気配、どんな気配でもだ、覚えておけ」
ダクトはふんっと鼻を鳴らすと、どかりとその場に腰を下ろす。
ダクトは身長が150㎝ほどしかない、腕は丸太のように太く、太い眉毛に立派な髭を蓄えていても身長だけで侮る愚か者はどこにでもいるのだ、そして鎧を持たされた従士はその愚か者で舐められたのでわからせたのである。
「実演ありがとうダクト、魔力は私達の体を強靭にし、優れた力を生み出してくれるんだ、だから私達のような鍛えた器士には鉄の矢じりも鋼の穂先も通らない、心器を持ち鍛え続けた者を殺すには心器を使うのが一番早いんだよ、ではどうやって魔力をより多く体内で循環させる……肉体を強化するかというと、心器を引き出す動きをするのが一番なんだ、体内で魔力が流れている場所、私達はサーキットと呼んでいるのだけど、ここは常に魔力でぎちぎちに詰まっているんだ、だから魔力を外に引き出そうとすると体内で回る魔力と体外に出ようとする魔力でぶつかり合うことになる、そうなると体内で魔力同士がぶつからないようにサーキットが広がり、広がるとより多くの魔力が体内で回るようになる、今君達にしてもらっているのは体内の魔力を感じ取り、魔力を引き出そうとすることで魔力同士がぶつかり、サーキットを広げるそういう鍛錬なんだよ」
リュウゲンの言葉に従士達は疑問を浮かべるがこれは感覚的なものなので魔力を感じ取れない者には難しい話だ。
「とにかく、死にたくなかったら魔力を感じ取れるように鍛錬することだ、それが一番生き残りやすいんだよ」
1ヵ月で魔力を感じ取れる者は決して多くないが1ヵ月筋トレや武術を教えるだけでは生き残るのは難しい、故になんとか魔力を感じ取らせたいのだ。
「さて休憩は終わりだ、また30分集中して魔力を感じ取るんだ」
ぱんぱんと手を叩いて従士達に再び魔力を感じ取るように鍛錬するようにリュウゲンが命令すると、リュウゲンもダクトの横に腰を下ろして魔力を感じ取りコントロールをし魔力を流す。
ソレイユという自分たちよりも強い者がいることでソレイユ騎士団は判りやすい目標があることで鍛錬を欠かすことはない。
結果の分かりにくい鍛錬を続けるのは難しい、どうしてもどこかで妥協してしまうものだ。
だからこそリュウゲンにしてもダクトにしても自分たちが山賊をしていた時に討伐の為に心器を抜いて自分達を殺しに来たソレイユを目標にすることでイメージの中の彼との戦いを目標にしているのだ。
また30分ほど経ち、従士の集中力が切れてきたのを感じ取るとリュウゲンはパンパンと手を叩き休憩を命令する。
「さて次はこの国と西にある西の国について話そうか」
休憩と言っても肉体が疲れてるわけでもなく、ただもやもやとした焦燥感と何の成果も得られない苛立ちを覚えている従士にリュウゲンは話しかける。
「私達の故郷は西の国だ、ちなみに東の国と西の国は別に断交しているわけではないが、西の国への入り口となる領には大きな関所があることから詳しく知らない者は西の国が東の国を拒んでいるように見えるがな」
そう、別に西と東で人族同士で敵対しているわけではないのだ、ただし西の国は各国の王つまり人がトップに立っているのに対して、東の国では教会、つまり神がトップとなっている。
その為、教会は西の国に布教をし、神の祝福を東の国にも与えなければいけないという聖職者もいるので、この発言が西と東は敵対していると勘違いされがちなのだ。
「そして私達西の国では男子は必ず心器が使えるようになるまで家族と離れて軍で鍛錬を積むことになる、この鍛錬で怪我をして軍を離れるものや、死亡するものも年に数人出ることがある、軍での鍛錬が終わればその後は魔の森での軍事行動をする者がほとんどだな」
リュウゲンの言葉に従士達は顔を引きつらせて腰が引ける。
東の国では国軍の器士、ナイトと呼ばれる者になるには毎年狭き門であり志願制だ、徴兵等は一切行われず戦いたい者だけが戦えばいいという形になっている。
「ではなぜ私達がここにいるかと言えば、所謂脱走兵だな、団長であるソレイユ様は西の国の貴族の三男であり、西の国で戦い続けることに耐え切れず東の国に来て傭兵団を作った、私達も西の国での生活が嫌になりついてきたということだな、西の国からすれば私達は戦場から逃げ出す落ちこぼれであり、いなくなっても戦力として困らない程度ということだな」
リュウゲンの言葉に従者は想像する、彼らが知る判りやすい西の国の器士は先ほど鉄製の鎧を殴ったダクトだ、彼が落ちこぼれ扱いされる西の国とはいったいどのような魔境なのだろうか……
「想像したかい?そうだよ東の国はお前達と同じ危機感を持っている、もし西の国がこの国に攻め込んだらと、教会がわざわざ火に油を注ぐようなことをしているから、彼らが突発的に東の国に攻め込んで来たらと、だから東の国では常に小競り合いが起きているんだ、1000人の従士を殺してでも1人でも多くの優秀な器士を集めなくてはいけないと考えているのさ、だから君達も頑張れば城のナイトになれるよ、実際に我が傭兵団からも2人器士が生まれて一人はお城に努めて貴族となっているからね」
ここまで彼等に希望をあえて与えてこなかったリュウゲンだがここで大きな希望を与える。
貴族という身分は何も知らない農家の人間からすると殿上人でありそこに至れるかもしれないという可能性はそれだけで大きな希望になるのだから。
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