第37話 新たなアジト、謎深まる契約書
「はぁ……はぁ……」
夜の森を駆け抜けた俺たちは、ようやくカルロスの“別アジト”が見える場所までたどり着いた。
リンナとネーラも肩で息をしている。
三人とも消耗は激しいが、ここで立ち止まるわけにはいかない。
「大丈夫か、リンナ、ネーラ……?」
俺が不安げに尋ねると、ネーラが冷ややかな目を向けてきた。
「何を今さら。こんなに派手に動いたんだから、敵に場所を知られている可能性は高いわ」
「えっ……!」
リンナが苦笑しながら補足する。
「落ち着いて。おじさま――カルロスなら、絶対に何か策を立ててるはずだよ」
俺たちがアジトの扉へ近づいた瞬間、バタンと勢いよく開いた。
「おお! 来たな、若者たち!」
いつもの豪快な声。筋骨隆々で禿げ頭のカルロスが出迎える。
彼の姿を見た瞬間、俺は心底ほっとした。
「カルロスさん……! 無事で何より、うわっ!」
カルロスがいきなり俺を抱き上げる。
まるで親子のように豪快に笑いながら部屋の中へ連れて行く。
「さあ、早く入れ。ここで立ち話もなんだろう?」
慌ただしく小屋に入ると、中は思った以上に広い。
壁には王国地図や奇妙な書類が貼られ、どこか秘密基地っぽい雰囲気が漂っている。
「ここは……?」
俺が辺りを見回すと、カルロスは机に書類を広げながら説明した。
「元のアジトは使えなくなった。敵に嗅ぎつけられたからな。この場所はな、当時わしが警備隊長をやっていた頃に作った秘密の退避所なんじゃ。小さいが安全面はバッチリだ」
ネーラが眉を動かす。
「あなた、警備隊長だったなんて言ってたかしら?」
「はは、聞いてなかったか? 昔はそれなりに腕も立ったんだぞ。今はただのジジイだがな」
カルロスは笑いながらも、どこか誇りを感じさせる表情をしている。
彼が若い頃に培った経験や知識、それが俺たちを支えてくれるに違いない。
「ところで」ネーラが声を潜める。
「陛下は無事なの?」
カルロスは表情を引き締めて頷く。
「別の場所に匿ってある。いまはそちらを仲間が守ってくれてる。心配するな」
その言葉を聞いて、リンナもネーラもホッと息をついたようだ。
俺も国王の安否が気になっていたから、胸をなでおろす。
「さて、見つけたのはこれだ」
カルロスが鷲掴みにした羊皮紙をテーブルに広げる。
それは古びていて、何やら不気味な紋章が描かれている。
「何……これは?」
リンナが覗き込み、嫌な予感が走ったように顔を曇らせる。
「デーモンとの同盟の証らしい」
カルロスの口調が低くなる。
「王国の一部の貴族どもが、デーモンと契約して時間操作の秘術を得ようとしている、そう書かれているんじゃ」
「時間操作……」
俺は思わずポケットの石に手をやる。
今はジプトが停止中で、石の暴走を抑えてくれる存在がいないことが頭をよぎる。
「ハルキ」リンナが小声で囁く。
「その石……絶対に奪われたらまずいよ。時間操作の力を狙われてるのかもしれない」
「ああ、わかってる」
重苦しい沈黙が落ちる。
やはりこの石が“異世界から来た俺”にとって、そしてこの世界にとって鍵になりそうだ。
「じゃあ、どうすれば……」
俺が呟くと、カルロスは腰をあげ、地図を指し示した。
「まずは、宮廷内のスパイを突き止めないとな。偽国王とつるんでいる連中を炙り出して、王国を救う足がかりにするんじゃ」
リンナが力強く頷く。
「きっと、ハルキの石もその過程で何か手がかりになるはず。あなたの妹さんを救う道にも、繋がるかもしれないし」
ネーラも珍しく柔らかい口調で応じる。
「焦りたい気持ちはわかるけれど、順番に片付けていきましょう。それが最短ルートかもしれない」
俺は大きく深呼吸をした。
「……わかった。やるしかない、よな」
カルロスがニッと笑う。
「そうこなくては! 危険な道のりだが、わしも力を貸す。とにかく今夜は少し休め。朝になったら作戦会議じゃ」
俺たちは顔を見合わせる。
状況は絶望的に見えるが、この仲間とともに戦うなら道は開けるはずだ。
そんな希望を胸に抱きながら、俺たちの新たな戦いが静かに始まる――。
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