第35話 月下の誓い、三つの力が交わるとき

【リンナ視点】


 闇夜に浮かぶ月が、ひんやりとした光を降り注ぐ。

 古びた塔の屋上に立ち尽くすアタシは、静かに弓を握りしめていた。


(あの時……間に合わなくて、仲間を失った。もう二度と、そんな思いはしたくない)


 記憶が呼び覚ますのは、雨の夜。血の臭いと絶望感。

 あの時のアタシは、自分の強さばかり追い求めていて、大事な人を守る方法を知らなかった。


 だからこそ、今度は誰も失いたくない――


 屋上への扉が開いた。

 そちらを振り向くと、ハルキとネーラ、それから国王の姿が見える。


「リンナ……!」


 ハルキの顔には安堵と焦りの両方が浮かんでいた。

 彼もまた、守るべき存在を抱えている。


「無事だったのね」


 アタシはそう言うと、ホッと息をついた。

 ネーラが小さく笑みを漏らす。


「リンナ、敵を引きつけてくれて助かったわ。どうやら私たちも死なずに済んだみたいね」


 ハルキの腕の中の石が、再び脈動を始める。

 アタシの弓も微かに震えだす。この奇妙な共鳴は一体……?


「ハルキ、それ……」


 アタシは弓を持つ手を緩め、彼が取り出した石を覗き込んだ。


(……やけに不安定な力が宿ってる。なんだろう、聞いたことのある“時の魔力”と関係があるのかな)


 オルド師匠が昔、警備隊の訓練中に「いつかこの世界で“時間”をめぐる大きな鍵が見つかるかもしれない」と言っていた。

 アタシは当時、何を言ってるのかピンと来なかったけれど……もしかして、これがその“鍵”に繋がるのか?


「リンナ……?」 ハルキが不安そうに声をかける。


「あ、えっと……アタシ、昔にオルド師匠から聞いた話を思い出しちゃって。詳しくはわからないけど、何か不思議な力が隠されてるんじゃないかって、そんな気がするの」


 アタシは一度瞳を閉じ、あの雨の夜を払拭するように首を振る。

 今は過去の痛みに浸っている場合じゃない。

 目の前の仲間を守るために、集中しなきゃ。

 三人が近づいた瞬間、石と弓とネーラの魔力がぶつかり合うように光を放つ。

 まるで三者が合わさって大きな回路を作るみたいに。


「わ、眩しい……!」 ネーラが眉を顰める。


 どこかで歯車が回る音が再び響いた。

 塔全体が脈打つように揺れ始める。


「このままじゃ、また暴走が……」


 ハルキが慌てて石を握り込む。

 アタシは迷わず弓を引き絞った。

 魔力を込めて、ハルキの石に向けて穏やかな風を放つ。

 精密にコントロールした風で、石の余剰エネルギーを抑えようという狙いだ。


 シュウウウ……。


 風の流れに乗って、石から立ち昇る光が和らいでいく。

 ネーラは正面から冷静に魔法を重ね、さらに光を安定させる。


「よし……何とかなった……?」


 ハルキがほっと息を漏らしたとき、ドォンという振動が塔に響いた。


「あれは……!?」


 塔の下から聞こえる不気味な咆哮。

 追手の兵士だけじゃない、何かもっと大きなものが近づいている気配がする。


「急いで降りたほうがいいわ。ここは長居無用よ」


 ネーラが冷静な声で言う。国王も青ざめた表情を浮かべている。

 アタシは弓を背負い、ハルキとネーラに向き直る。


「大丈夫。アタシたちなら、絶対に切り抜けられる」


 ハルキの瞳に一瞬、不思議な光が宿る。

 彼の妹を救いたいという強い決意が伝わってくるようだった。


「リンナ……ありがとう。行こう!」


 ネーラもうなずき、三人と国王は塔の階段へ駆け出した。

 風が吹き抜け、アタシのマントを翻す。


(仲間と共に進む……ラルフ、アタシは少しは変わったかな)


 そう胸の内で語りかけながら、アタシは先頭に立って走り出す。

 月光に照らされる塔の頂上から、次の戦いへと足を踏み出すのだ。

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