時渡りVRMMO ~社畜プログラマー、異世界で最強の時間魔法を手に入れる~

TokiToki

第1話 残業100時間の社畜、最新鋭VRマシンで異世界へ

「うわああぁぁん!残業100時間突破ぁぁぁ!」


 社畜生活に疲れ果てた俺の悲鳴が、じめじめした六月の空に溶けていく。

 最近は妹の病室にも顔を出せていないし、病院の請求書は見るたびに胃が痛む。

 どうにもならない焦りで頭がいっぱいだ。


「はぁ……こんなポンコツの俺が、なんとかして妹を救わなきゃならないのに……もう限界っす……」


 昔から俺は、何かと中途半端だ。成績も運動神経もトップになったことなんてない。今の会社でも歯車として使われるばかり。だけど、妹が待ってる以上、倒れるわけにはいかない。


「また額が跳ね上がってる……でも払わなきゃ妹が……」


 心の奥底から焦りが込み上げる。

 だが同時に、体力も精神もボロボロだ。

 そのとき、スマホが震えた。親友リョウからのLINEだ。


「よぅハルキ! 超ヤバいVRマシン完成したから今すぐ来い! これで一発逆転のチャンスかもよ?」


 オフィスを飛び出し、リョウの研究室がある大学へ急ぐ。疲弊ひへいした体を引きずるようにして研究棟のドアを開けると、実験室の奥からリョウの明るい声が聞こえた。


「お前、顔色ひっでえな。ちゃんと寝てんのか? 俺みたいに徹夜三日でもへっちゃらってタイプでもないんだから、無理するなよ」


 リョウは VR研究に没頭しすぎて、他のことが全然目に入らないやつだ。そんな彼が誇らしげに指さした機械——それが「VRマシンX(エックス)」だった。


「このマシン、時間を操ることができるんだ。もちろん仮想世界の中だけだけどな」


「は? 時間を操るって……おいリョウ、いくらなんでも大げさすぎだろ?」


 一瞬は冗談だと笑い飛ばしそうになったが、もしそこに妹を救うヒントがあるなら──そのわずかな可能性を否定できなかった。


 今の俺には、どんな荒唐無稽こうとうむけいな話でも試す価値がある。

 そう思うと、気づけばヘッドセットを手に取っていた。

 リョウがスイッチを入れると、目の前に広がるのは……。


「うおっ!これが……VR空間!?」


 驚きの声を上げる俺。

 目の前には、まるで本物のような街並みが広がっていた。


「どうだ?すげえだろ?」


 リョウの声が、遠くから聞こえてくる。


「ああ、本当に凄い……まるで、本当にここにいるみたいだ」


 歩道を歩いてみる。

 足の感触、風の匂い、全てが本物そっくりだ。


「よし、じゃあ時間操作の機能を試してみよう!」


 リョウの声とともに、街並みがゆがみ始める。


「これが……時間操作!?」


 目の前で車が逆走し、人々が後ろ歩きを始める。

 そして……。


「うわっ!」


 突如、激しい振動が走る。

 視界が真っ白に染まり、意識が遠のいていく。


「リョウ!どうなってるんだ!?」


 叫び声が虚空こくうに吸い込まれていく。


 気がつくと、そこは見知らぬ草原だった。

 青々とした草、遠くに見える山々……。


「ここは……どこだ?」


 VRのはずが、まるで本当の世界に来てしまったかのような錯覚。


 だが、これは単なる錯覚ではなかった。

 俺は、本当ににやってきてしまったのだ。


 こうして、俺のファンタジー冒険が幕を開ける―。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る