薔薇色はどんな色

矢芝フルカ

第1話

「……で、さあ、ネイト。ぶっちゃけアシュリーとはどうなってんだよ?」


「どう…って? ダニー、君と同じだ。ただの同級生だよ」

「は……俺と同じってことは無いだろ?」


 ダニーはニヤニヤしながら、ネイトを肘で小突いた。

 それに構わないで、ネイトはノートにペンを走らせる。


「白状しろよ、二人っきりで居るところ、何度も目撃されてるんだぜ」


 しつこい……

 面倒くさい……

 ネイトはこれ見よがしのため息をつく。


 少し離れた場所で、アシュリーが同級生のステフと一緒に、ノートをとっていた。

 女の子同士で、おしゃべりも盛り上がっているようだ。


 おしゃべりしている姿も、可愛い。

 

 そう思ってすぐ、ネイトはアシュリーから目をそむける。

 ダニーがまた、ニヤニヤ笑いをしながら、ネイトを見ていたからだ。


 あー……面倒くさ。

 

 ネイトは目の前の植物に集中した。


 魔法騎士養成学校は、その名の通り、魔力と武力を兼ね備えた騎士を、養成する学校だ。


 今日は野外学習で、ネイトたちのクラスは、学校近くの森に来ている。

 魔力を持つ植物、「魔生植物ませいしょくぶつ」の観察をする授業だ。


 アシュリーと同じ班になれて、こっそり喜んだのもつかの間、日頃から何かと突っかかってくるダニーも一緒で、これまたこっそり落胆したのだった。



 相手にされないのが気にいらないのか、ダニーはドンッとぶつかるようにして、ネイトに身体を寄せてくる。


「なあなあ、アシュリーってすっげーお嬢様だろ? お嬢様とのお付き合いはどうよ? リッチな思いをさせてもらってるんじゃねーの?」


 プツン、とネイトの中の何かが切れた。


「黙れよダニー! ノートはとっているのか? 後で泣きついて来たって、知らないからな!」


 普段は大人しいネイトの、思わぬ反撃に、ダニーは顔を真っ赤にして立ち上がった。


「は? 誰が泣きつくだって? 秀才ぶりやがって! 知ってるんだぞ! てめぇなんか、親父が戦死したおかげで、奨学生やってられるんだってな!」


 あ……

 これは無理だ。

 いくら僕でも、これは無理だ。


 ネイトはおもむろに立ち上がる。


「……もう一回言ってみろ、ダニー」


 ネイトの威圧にダニーは2、3歩後ずさつたが、引き下がる気は無いようで、


「気に入らねぇんだよ、お前! 俺たちとは違うんだってつらしやがって! 少しばかり魔法ができるからって、いい気になってんじゃねぇよ!」


 と、言い放つ。


 いい気になんかなっているもんか。

 こっちは奨学金を止められないために、必死なんだよ。

 遊んでいても学校に居られる君らとは、違うんだよ。

 ……言わないけど。


 言わない代わりに、ネイトは手のひらをダニーに向ける。

 それは魔法を発動させる構えだ。


「や、やんのかよっ!」


 ダニーは剣を抜くが、明らかに腰が引けている。


 ネイトの魔法が、校内随一の実力なのは、誰しもが知っていることだ。

 構えたネイトに見据えられれば、やはりじ気づくのだろう。


「何をしているのだ! 君たちは!」


 凛々しい声が、二人の間に切り込んだ。

 アシュリーが厳しい顔つきで歩いて来る。


「…チッ、邪魔が入りやがった」

 言ってダニーは、剣を収めてきびすを返すと、森の奥へと行ってしまった。


「……どうした? 冷静な君らしくないが……」

 ダニーの後ろ姿を見ながら、アシュリーがネイトにたずねる。


「ダニーが悪いのよね。そうでしょ、ネイト。剣なんか抜いてさぁ。アシュリーもそう思うわよねぇ」


 ステフが話に割って入ってきた。

 アシュリーはそれに答えず、じっとネイトの顔を見つめる。


 ちょっと厳しい顔も、可愛い。

 ……なんて言ったら、怒るよね、絶対。

 だから言わないけど。


「アシュリーの言う通りだ。僕らしく無い。騒がせて悪かったよ」


 ネイトがそう言うと、アシュリーは少し表情を緩めて、「うん」とうなずいた。


「すごいわアシュリー。きちんと収めちゃったじゃない、さすがね〜」


 ステフが手を叩いて、大げさにアシュリーを持ち上げるので、アシュリーは苦笑いだ。


「ダニーを連れ戻さないと、収めたことにはなるまいよ。集合の時間までは?」


 アシュリーに聞かれて、ネイトはポケットから懐中時計を出した。


「あと1時間」

「では行こう。あまり奥に行くと危険だ」


 先頭切って、アシュリーが歩き出す。

 すぐにステフが後に付いた。

 ネイトは気が進まないながらも、それに続く。


 三人は、ダニーが行った道をたどって、森の奥へと進んで行った。


 冬とはいえ、森は枯れ木ばかりでは無く、針葉樹や落葉しない緑の茂みもあり、奥に入るほど、それは濃くなって行く。


「あら見て、薔薇が咲いてる」

 ステフが、茂みを指差した。


 冬だというのに、その緑の茂みには、たくさんの薔薇が咲いていて、甘い香りを放っている。

 

「白い薔薇だ。冬に花を付けるなんて…」

 ネイトが言った。


「まるで雪のように、白いな」

 アシュリーが言った。


「え、どこどこ? どこに白い薔薇が咲いているの?」

 ステフが辺りをキョロキョロと見回す。


 ネイトとアシュリーは顔を見合わせた。


 その時、ザッ! と音が立ち、何者かが襲いかかって来た。



続く

 




 

 



 


 

 

 


 


 

 

 


 


 


 


 

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