第205話 とある皇女の独白ふたたび
(Side ???)
「表では、帝都を寄越せだの、婚姻を結べだのと言っておいて。
裏では、『始まりの五家』以外の領主に、連合・同盟を持ちかけていたわけか。
よかったじゃねえか。 うまくいって」
「よかったって、どっちがさ?」
「そりゃあ、お前。 どっちも…に決まってる」
「そうですな。
『教主国』は、
我々は、『お荷物』から解放された…わけですからな」
さすが、
明快な説明だ。
「一番の懸念事項は、『派遣部隊』の
あいつらってさ。
『戦姫さま』に見放された後、自力で、領地を守りきれなかったからね。
しかたがないから、騎士や魔道士を派遣したんだけど…」
「今回のドサクサで、奴隷扱いされたかもしれなかったな…」
「そうですな。恩は
「ホントに、兄さんのお陰だ。 感謝してるよ」
「『くまーと・ふぉん』のことか?」
「もちろん。 シュウくんのこともだよ。
いや。 最大の功労者は、アネットちゃんかな」
「まったく、そのとおりですな。
『派遣部隊』を、すぐに、森の奥に、逃がすことができたのも。
さらに、彼らを、無事、帰還させることができたのも、シュウ殿のお陰。
そのシュウ殿を動かしてくれたのは、アネットさまでしたからな」
「ソフィアの知り合いの女性騎士が、『派遣部隊』にいるらしいと、伝えたんだと。
ソフィアが心配すれば、シュウが動く。
どうやら、シュウとも、知り合いだったみたいだしな」
「その女性騎士とやらに、褒美をやりたいくらいだよ。
お陰で、『派遣部隊』全員が、助かったんだからさ」
あの女性騎士は、侯爵家の騎士団長のご息女。
一時期、ソフィアさまの世話係として派遣されていたはず。
だから、例の『峠のワイバーン事件』の時。
エミリーと一緒に、ソフィアさまたちを迎えに行ってもらった。
その時には、アネットとも、お話していた。
だから、きっと、アネットも心配していたに違いない。
「その話は、さておき…。
兵士を集結させている…という情報もありました。
最終的には、こちらに攻め込むつもりだと思ったのですが…」
けっこう、重い話題だ。
「ああ、もちろん。 その気だったはずだ。
腰抜けの集まりでも、数は力だ。
そして、数だけなら、連合を組んだ『教主国』側のほうが、ずっと多い」
「では、戦争になるかもしれないのですか?」
思わず、私も、たずねた。
「もう、それはないよ。
あいつら、すっかり、ビビちゃってるからね」
「こればかりは、あの『魔笛使い』とやらのお陰でしょうな」
「そうだね。 お陰で、グリフォンの
アレを見た以上、もう、こっちに攻め込もうなんて思えないよ」
「でも、アレも、
たしか、あの後、騎士や魔道士たちに、きつく言い渡していたはず。
「ええ。 ですから、シュウ殿が倒したことは、知られていないはずですな」
「『通りすがりのハイ・エルフ』が倒したって、噂になってるらしいよ」
にやにやしながら、
__なるほど
「『教主国』の連中は、ハイ・エルフの恐ろしさを知ってるからな。
ハイエルフと敵対すると思い込んで、震え上がったはずだ。
よくて、皆殺し。
まかり間違えば、都市が焼け野原になると思ったろうさ」
__えーっ
ハイ・エルフって、そんなに怖かったの?
「せっかく、手に入れた引越し先。
それが、焼け野原になっては、さぞかし困るでしょうからな。
戦争など起こせるはずもありませんな」
「でも、兵士を集めたのは、正解だったと思うよ」
「だろうな。 ソフィアが手を引いてから、もう、100日を越える。
いくら『派遣部隊』でも、森の奥までは、間引けねえ」
「たしかに、【邪神竜】とその配下は、殲滅されました。
この大陸の人間たちは、『絶滅の危機』を
とはいえ、魔物の脅威は、未だ、何も変わっておりません」
「あいつらは、知らないんだよ。
『戦姫さま』が、どれほどの数の魔物を、間引いていたかを…。
もちろん、それは、【対邪神竜戦】に備えてのことだったけどさ」
「でも、討伐した魔物を処理していたのは、兵士たちでは?」
__それなら
知らないはずはないと思うけど。
「もちろん、そうさ。
ソフィアの仕事は、倒すことだけだ。
倒したあとの処理は、すべて、兵士の仕事だったはずだぜ」
「では、討伐数くらいは、伝わっているのではありませんか?」
「上が腐るとね。 下も腐るんだよ。 怖いことに…」
「上には、かなり差し引いた数しか、上がっていないでしょうな。
そして、大半は、兵士たちの
「ソフィアに同行すれば、
いざ戦闘になれば、逃げればいい。
そして、ソフィアが倒した後で、死体に群がっていたんだろうぜ」
「エルフやドワーフが、関係を絶ちたくなるはずですね」
呆れたように、
「そうだな。
『始まり五家』の兵士たちは、そんなことはしていない…と思いたいがな」
「まあ…、いずれにしても。
『戦姫さま』は、とっくに、ヒューマンを見限ってる。
そして、今回、『派遣部隊』も、脱出した。
現状、森の奥はおろか、都市の近郊の『間引き』さえ、怪しくなっているはずだよ。
おそらくだけど。
『教主国』は、大歓迎されるだろうね。 森の魔物たちから…」
「多くの民に、犠牲が出るかもしれません。
大陸のエルフやドワーフは、手を差し伸べるでしょうか?」
相変わらず、お人好しだ。
「それは、ねえと思うぞ。
だいいち、魔物が動いても、わからねえだろうよ。
エルフもドワーフも、別の大陸に、頻繁に出かけているからな」
いわゆる『観光ブーム』らしい。
アネットが、教えてくれた。
ほんとに、うらやましい…。
「そういう、兄さんたちだって、遊びに行ってるんでしょう?」
「お、おう…。 ま、まあ、ときどきだがな…」
「遊びに行くって、どういうことですか?」
私も、たずねた。
「た、たいしたことじゃねえよ。
ちょっと、海釣りをしたり、沙漠を眺めたり。
ま、まあ、その程度だぜ」
「なにが、『その程度』だよ。
どっちも夢みたいな話じゃないか!」
そのとおりだと思う。
もっと、言ってやってほしい。
「で、でも、まあ…。
この『くまーと・ふぉん』だって、夢のような通信魔道具ではありませんか。
持っているのは、ほんの一部の者たちだけですけれど」
ブレない、お人好しだ。
「そう言えばよ。 シュウへの報奨は、どうするつもりなんだ?」
形勢不利と思ったか。
今度は、
「うーん。 頭が痛い話だよね。
彼の活躍は、ほとんどすべて、箝口令が敷かれている。
それが、彼の意向でもあるからね。
だから、今のところは、貴族や民から、突き上げがあるわけじゃない。
でも、完全に隠し切るなんて不可能だよ。
どうしたって、すこしずつ、漏れてしまうだろう。
そうなると、いつまでも、後回しにはできないよね」
「いつまでも、内密には、できそうもない。
かといって、うかつに、公にもできない。
難しい問題ですな。
それになりより、これだけの功績に見合った報奨をどうするか?」
なぜか、きゅうに、私に視線が集まった。
私を、
「お考えは、推察できます。
しかし、アネットさまは、幼い頃から、ソフィアさまのご親友。
別の大陸へも、ずっと、ご一緒されています。
このたびのご婚約は、そうしたなかで、自然と実ったものでしょう。
しかし、わたくしは、そうはいきません。
どうしても『政略』が、前面に出てしまいます。
シュウさまに、受け入れていただけるとは、思えませんわ」
ひとこと、言っておいた。
釘は、きっちり刺しておくのが、私の流儀だ。
それに、私が、皇女だってバレてしまった。
今の、シュウの瞳に映っているのは、『帝国の皇女』。
同じ年頃の女の子じゃないんだ…。
「まあ、そうだね。
帝国に取り込もうとしてる…と思われるのが、オチだよ。
ぼくたちは、そういう存在だからね」
そう。
いや。もっと、たいへんかも…
「わかってるよ、そんなことくらい。
でもね、ミラ。
シュウ殿は、今だって、ミラのことを『桃色の髪の女の子』と思ってるはずだよ」
いつも以上に、やさしい目をした
__そうかな
たしかに、シュウの態度は、何も変わらなかった。
これからも、変わるとは思えない。
__だとしたら
シュウは、いまも、ひとりの女の子として、私のことを…。
そう思うと、ちょっとだけ、胸が熱くなった気がした。
「話を戻しますが…。
こちらも、森の奥までは、じゅうぶんに間引けてはおりません。
「そうだね。 城壁の補修に力は入れているけど。
やはり、ドワーフやエルフのようなわけにはいかない。
防御力が低下しているのは、事実だ」
「災害級の魔物が、押し寄せてきたら…と思うと、ぞっとします」
重苦しい雰囲気を払うように、
「じつは、城壁をかんたんに補強する方法があるんだが…。
まずは、オレの街で試してみようと思う。
準備が整ったら、『くまーと・ふぉん』で知らせるからよ。
すこし、予定を開けておいてくれねえか?」
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