第198話 とある女性騎士の独白
(Side ???)
ワイバーンが、10体ほどでしょうか。
街の近くの森に、急降下するのが見えました。
「見ろ、ワイバーンの群れだ!」
「姫さまたちが、危ない!」
「急げっ!」
目ざとく、飛竜を発見した騎士が叫ぶと、すぐに、駆け出しました。
弓士も、魔道士も、後に続きます。
相手は飛竜。
弓士、魔道士なしでは、相手になりません。
飛竜は、姫さまたちを狙っている。
誰も、それを疑いませんでした。
『教主国』が、きっと、何か仕掛けてくる。
陛下は、そう、お考えになられていました。
なにしろ、皇女さまのパーティには、帝国を支える重鎮たちの令嬢が、揃っているのです。
狙って来ないほうが、どうかしている。
私たちも、そう考えました。
ところが、陛下は、『護衛は、必要ないよ』とおっしゃいました。
最強の護衛がひとり。
姫さまたちに同行するから…と。
私たちは、耳を疑いました。
その護衛とは、姫さまたちと同じ年の少年だと言うのです。
さらに、テイマーなのだそうです。
そんな少年に、護衛が務まるわけがない。
誰もが、そう、思いました。
「まあ、すぐに、わかるよ。
とにかく、城門付近で待機だ」
陛下は、いつものように、
でも、みな、知っています。
命令違反には、厳罰が下ることを。
しかし、ワイバーンが、10体です。
今、駆けつけずして、いつ、駆けつければいいのでしょう。
たとえ、後で、厳罰を受けることなろうとも…です。
ワイバーンは、巨体です。
小さく見えるのは、高い空を飛んでいるからです。
その飛竜が、10体並んでいるのです。
駆けつける私たちの視界にすら、もう、入り切りません。
そのワイバーンの口が開き、光が
ブレスが、放たれるのです。
『間に合わない』
みな、絶望的な気持ちになりました。
先頭を走る、騎士が叫びました。
「散開しろっ! 」
まさに、そのとおりです。
私たちが、全滅してしまっては意味がありません。
その時でした。
クエーーーッ!
クエーーーッ!
クエーーーッ!
クエーーーッ!(以下省略)
聞いたこともないような声が、聞こえてきました。
もちろん、飛竜どもの
でも、その声は、弱々しく。
まるで、誰かに、『ごめんなさい』してるようです。
__ばかばかしい
そんなことあるはずが……と、思っていると。
とつぜん。飛竜どもが、急上昇しました。
「うわっ!」
「うおっ!」
「きゃあっ!」
私たちは、すさまじい突風に襲われました。
小柄な女性魔道士などは、吹き飛ばされて、転がっています。
思わず、みな、地面に伏せました。
飛竜は、10体。
突風は、しばらく続きました。
じっさいは、わずかな時間にすぎなかったと思いますが…。
「何だ、いったい、どうなってる?」
先頭の騎士が、困惑しています。
ムリもありません。
あっという間に、飛竜どもは、空の彼方へ飛び去ってしまったからです。
そう。それは、まるで…。
何か恐ろしい存在から、あわてて逃げるように。
ほうほうの体で、私たちが駆け付けると、姫さまが言いました。
「そこの黒いローブを、縛り上げて」と。
見れば、黒ローブの不審者が、地面にうずくまって泣いていました。
もう。わけがわかりません。
でも、あの黒ローブは、『教主国』の者たちが着ているものです。
彼が、襲撃者であることは、間違いありません。
「「「はっ!」」」
騎士たちが、黒ローブに駆け寄りました。
弓士は、弓を構え。
魔道士は、杖を向けました。
あの飛竜に関わる者に違いないのです。
油断など、ありえません。
「くっくっくっ……。
お前たちは、すでに、勝ったつもりのようですねえ。
愚かな。
切り札は、最後まで取っておくものなのですよ」
立ち上がると同時に、黒ローブは、『金色の笛』を、力のかぎり、吹きました。
音はしませんし、涙と鼻水で、顔は、ひどいことなっていますが。
「き、きさまっ!」
「その笛を離せっ!」
たちまち、黒ローブは、騎士たちに、ねじ伏せられました。
ところが、黒ローブは、狂ったように
「ぎゃはははははははーーーーーっ!」
騎士たちに押さえつけられたまま、黒ローブは声を張り上げました。
「みんな、死ぬがいい!
お前たちは、このわたしに、切り札を使わせたのだ。
このわたくしとて、もう、生き残ることはできんだろうがな。
ぎゃはははははははーーーーーっ!」
その時、空の彼方から、すさまじい速度で、接近してくる影が見えました。
誰もが、目を疑いました。
「グ、グリフォン……」
騎士が、声を絞り出すように言いました。
「ばかな。なぜ、グリフォンがあんなに……」
魔道士も、杖をだらんと下げたまま、飛来する影を見入っています。
たった一体ですら、街を滅ぼしかねない。空の王者。
そのグリフォンが、10体も、こちらに向かって、ぐんぐん近づいてくるのです。
ここにいるものたちは、もちろん。
帝都すら、無事ではいられません。
どれほどの家が焼かれ、どれほどのひとが命を落とすか。
まるで、想像もつきません。
「くっ、くっ、くっ……。この
『金の笛は、滅びの笛。誰一人として、生き残ることはできない』と。
街も人も焼き尽くされ、最後に残るのは………って。
お、お、お、お前らぁーーーーーーーっ!
ひとの話は、ちゃんと聞けえーーーーーーっ!」
酔いしれるように語りだした黒ローブが、とつぜん、キレました。
ムリもありません。
皇女さまたちが、黒ローブを、ガン無視していたからです。
「みんなっ、マフユちゃんを隠すわよ!」
公爵家のご令嬢が、他のご令嬢たちに声を掛けました。
「わかりましたわ」
侯爵家のご令嬢が、少年に駆け寄りました。
そして、背伸びをして、彼の頭の上から、白いスライムを降ろしています。
彼は、たしか、辺境伯家のご令嬢の婚約者とも聞いています。
スライムを降ろすためとはいえ。
あんなに、身体を押し付けていいのでしょうか?
「ふゆっ?」
スライムの困ったような声が聞こえます。
「みんなで、囲もうよ」
「グリフォンに見られたら、一大事だものね」
なんと。令嬢たちは、あのスライムを守ろうとしてるのでしょうか。
たしかに、ちっちゃくてかわいいスライムです。
自ら、命の危機に
私は、令嬢たちの心根のやさしさに、思わず、涙ぐみました。
ご令嬢たちは、スライムを抱いた侯爵令嬢を囲みました。
白いスライムは、もう、すっかり見えません。
___ああ
最期の最期に、このような美しい光景を、目の当たりにできたとは。
もう、思い残すことなど、何も、ありません。
たとえ、ご令嬢たちのやさしさが、一撃のブレスの前では、無力であろうとも。
すでに、空は、巨鳥によって覆われ、陽の光さえ
まもなく、この辺り一帯は焼き尽くされるでしょう。
もちろん、私たちなど、いっしゅんで燃え尽きてしまうに違いありません。
「シュウ…」
姫さまが、少年に語りかけました。
最期の別れを告げるのでしょう。
「……アレ、全部、撃ち落として。
できれば、お
__________________え?
思わず耳を疑いました。
私だけではありません。
騎士も弓士も魔道士も。
そして、黒ローブさえも、目を丸くして、姫さまを見ています。
『何言ってんの?』と言わんばかりに…。
少年は、大きなため息をつきました。
そして、ぽつりと言いました。
「わかった」と。
ほんとうに、一瞬の出来事でした。
少年が、小さな魔道具を、グリフォンに向けた直後。
バシュ、バシュ、バシュ、バシュ(以下省略)
発射音のようなものが聞こえました。
何かが、グリフォンたちの
ガクリと、速度を落とすグリフォン。
しかし、あの小さな『何か』では、巨体の勢いを殺すことはできません。
10体もの巨体が、私たち目がけて落下してきます。
逃げる場所など、ありません。
まもなく、私たちは、押しつぶされるでしょう。
10体のグリフォンを倒すという奇跡を、目の当たりにしながら。
__結局、間に合わなかったの?
悔しさがこみ上げてきた瞬間でした。
目の前に、青い空が広がりました。
もう、グリフォンの姿など、どこにも見当たりません。
まるで、夢でも見ていたかのように。
姫さまは、少年に駆け寄ると、おねだりしはじめました。
それも、上目遣いで…。
「ねえ。後で、一体ずつ、貰ってもいい?」と。
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